「ノンバーバルコミュニケーション」(Nonverbal Communication)という言葉をご存知ですか?言葉による伝達を「バーバル・コミュニケーション」(Verbal Communication)というのに対し、言葉以外の手段を使ったメッセージの伝達を「ノンバーバルコミュニケーション」といい、身振りや姿勢、視線、声の大きさや高さ、相手との距離、表情などがこれに含まれます。
アルバート・メラビアン(Albert Mehrabian)が1971年に出版した著書『Silent Messages』の中で、コミュニケーションに関する研究が紹介されています。それによると、「コミュニケーションにおいて、言葉を通して相手に伝わるメッセージは7 %のみで、38%は声のトーンや口調を通して、55%は身振りや態度によって伝えられている」ということで、すなわち、「メッセージの93%はノンバーバル・コミュニケーションによって伝えられている」ということになり、この実験結果は話題を呼びました。実際、この実験の対象は感情や態度の伝達に関するものであったため、事実を伝えることが目的のコミュニケーションでは、ここまで極端な結果にはならないであろうというのが一般的な見解となっています。それでも、日常のコミュニケーションにおいて、言葉による表現のみではなく、ノンバーバル・コミュニケーションがとても大事な役割を果たしているということは確かな事実です。
具体的な場面で考えてみましょう。
日常生活で、ごく頻繁に聞いたり聞かれたりする質問 -「これ、何?」。以下に挙げた状況におけるそれぞれの気持ちでこの質問をするとき、どういったノンバーバル・コミュニケーション手段を使うか、想像してみてください。
ケース1:言葉を覚え始めた子どもに絵本を読んであげながら、「これ、何?」
A.「この言葉、知ってる?知らなかったら教えてあげるよ」という気持ちで質問。
B.「この言葉知ってるわよね?!えっ、知らないの?」という気持ちで質問。
ケース2:学校から帰ってきた小学生の子供に、「これ、何?」と質問。
A. 通学かばんの中から、子供が学校で作成してきたアートの作品を取り出し見せてくれた。その子供に向かって、「あら、何を作ったの?」という思いで質問。
B. 通学かばんの中に、子供が見せたくなさそうにしているテスト結果を見て質問。
ケース3:家族が大きな箱を手にして帰宅。「これ、何?」と質問。
A.「えっ、これ、私へのプレゼント?」という気持ちで質問。
B.「えっ、私に相談なしに、また何か高価なものを買ったの?」という気持ちで質問。
いかがでしょうか。
それぞれの状況で言う「これ、何?」。どのような口調でその質問をしているでしょうか。身振りは?声の大きさや高さは?表情は?
どの状況でも、質問に使われた言葉は同じです。しかし、その時の気持ちによって使われるノンバーバル・コミュニケーションはさまざまです。そして、もちろん、その質問をされた側が受け取るメッセージもさまざまで、当然、そのメッセージを受け取った時の相手の反応もさまざまであることは、想像に難くないことだと思います。
このように、コミュニケーションの場面では、言語表現そのものだけでなく、その表現を伝えるときに使用するノンバーバル・コミュニケーション手段によって、相手に伝わるメッセージ、そしてそのメッセージが相手に与える影響は大きく異なってきます。自分がどのようなノンバーバル・コミュニケーション手段を使っているか、また、そのノンバーバル・コミュニケーション手段によって、相手にどのような印象を与えているのか、ということを少し意識してみることで、より効果的なコミュニケーションをすることができます。