本を読んだり作文を書いたりするには、文字を読み書きできる力が必要であることは周知のとおりですが、実は、その「文字を理解し書ける」ようになるための前提条件として「音韻意識(Phonological Awareness)」を習得する必要があり、この力こそが、のちの「読み書き」する能力に大きな影響を及ぼすと言われています。最終回は、この「音韻意識(Phonological Awareness)」についてお話したいと思います。
「音韻意識(Phonological Awareness)」とは、文を構成している各単語、各単語を構成している「音」を認識し、また音の操作によって単語、そして文を構成するということを理解する力を言います。子どもたちは、以下のような段階を経て、この力を獲得していきます。
- 単語内の最初の音や最後の音を認識し、同じ音で始まる、あるいは、終わる単語を見つけたり、韻を踏む (Rhyme)単語を見つける力。
- 「『りんご』の最初の音と同じ音で始まる単語は何?」
- “What rhymes with ‘dog’?”
- 文を単語に分解する力(音のつながりを、意味の区切りで区切ることができる力)
- “Clap for each word you hear in the sentence ‘The dog is happy’.”
- 音を組み合わせて単語にする力
- 「『ぱ』『ん』『だ』。今言った言葉は何?」
- “I am going to say parts of a word. Tell me what the word is ‘Pan-da’.”
- “Put these sounds together to make a word ‘d-o-g’.”
- 単語を音に分解する力
- 「今から言う言葉を聞いて、音の数だけ手をたたいてください。『さかな』」
- “Clap for each syllable you hear in the word ‘table’?”
- 単語内の音を消去したり、付け加えたり、他の音に置き換えたりするなど、単語内の音を操作することで別の単語を作る力
- 「『さかな』の『さ』を『た』に変えるとどうなる?」
- “Say the word ‘wheelchair’. ‘Now say it without saying ‘wheel’.”
- “Say ‘star.’ Now say it with a ‘t’ at the end.”
(注)各段階における英語と日本語での例を併記する目的のため、英語の音節(syllable)と音素(phoneme)の例をまとめて示しました。
こうした音韻意識獲得の段階は、日本語にも英語にも見られ、子どもたちはこのようなステップを通して、文字と言語音の結びつきを理解していく段階に入っていきます。
文字と言語音の結びつきを学ぶ段階では、一音節を一文字で表記する特徴を持つ日本語の仮名文字とは異なり、英語では、一文字で一音を表記することもあれば、複数の文字が組み合わさって一つの音を表すこともあるなど、より複雑な文字と音の対応規則を持っています。このため、平仮名の読み書きよりも、英語の読み書きを習得するのにより時間がかかり、第2言語として英語を学ぶ子どもたちにとっては、特につまずきやすい学習過程かもしれません。
音韻意識の知識をもとに獲得していく言語音と文字の結びつきをしっかりと理解できているかどうかが、後の読み書き能力に大きな影響を及ぼすと言われています。とかく、平仮名やアルファベットを「読む」「書く」ことにばかりに注意が向きがちですが、文章の「読み書き」ができるようになるために必要な「音韻意識」という基礎力の獲得に向けて、『急がば回れ』の気持ちで取り組んでいただければと思います。