めぐみ保育園がここシアトル地域に開園したのは17年前。日本の味、日本人が慣れ親しんだ味のあたたかい給食が、フード・サービス・ワーカーのライセンスを持った職員によって毎日準備されています。
めぐみ保育園のベルビュー校では、3人の調理師により園内にあるキッチンで給食が作られています。この日のメニューは、豚のしょうが焼き、きゅうりの酢の物、キャベツのサラダ、ミックスフルーツ、油揚げとたまねぎの味噌汁とご飯、そしてスナックにソーセージ・ロール。昼ご飯の時間が近づくとおいしそうな匂いが漂ってきて、子供達の期待感が膨らみ、「今日の給食なあに?」と、子供たちがキッチンを覗き始めました。
毎朝7時から給食の準備に取り掛かるのは調理主任1人。前日に買い出しに行き、大きな塊肉や野菜、果物を仕分けして、3升炊きの炊飯器2台分で炊く米45カップを研いでセットします。9時になるとさらに2人の調理師が加わりますが、それぞれの役割や手順などはすっかり頭に入っているそうで、抜群のチームワークでテキパキと作業が進行。味噌汁の色を見ただけで、「ちょっと薄いかな、もう少し味噌を入れましょう」と、日々の経験から素早く対応しています。
1ヶ月分の献立表は毎月更新され、保護者の元に届けられます。揚げ物は不可、丸いままのブドウは危険なので半分に切らなくてはならない、血糖値を一定に保つため3時間おきに食べ物を与えなくてはならないなどの細かな規則に対応しながら、和食中心の一汁三菜を基本として、十分な栄養を子供達に与えるよう考え出された献立です。子どもに媚を売るような、お子様ランチのようなメニューではなく、家庭の食事の良い見本となるような料理はどれもおいしそう。カレーや肉じゃがといった子供達の人気メニューも取り入れ、ひな祭りなど季節の行事に合ったメニューを盛り込むことも忘れず、子供が残したものがあれば調理方法などを工夫します。「最近、イチゴの良いものが出回ってきましたから、バナナをイチゴと替えたりします」と、調理主任。「子供達、イチゴがあると、とっても喜ぶんですよ」。旬を迎えた食材をおいしく食べられるよう工夫し、季節を味わせる努力も惜しみません。
出来上がった給食は、食器とともに各教室に配られます。手を洗ってテーブルにつき、行儀よく座って待つ子供達。全員の配膳が終わるまで手をひざに置いて待つといった食事のマナーもしっかり学ばせています。食物アレルギーのことはもちろんのこと、一人一人の子供の好き嫌いや、喫食量などを熟知している保育士の先生が、それぞれにあった配膳をします。「今日はアスパラガス2つ食べてみる?」「きゅうり1つだけ、がんばってみる?」と、無理に食べさせるのではなく、子供達に食べてみようかなと思わせる保育士の先生によってもこの給食は支えられているのです。
そして、『いただきますの歌』 を歌い終わると、楽しい食事の始まり。先生も加わって会話は弾み、給食の時間は子供達にとって大事な社交の時間になっています。同園には、日本人家庭だけでなく両親ともにメキシコ人、アメリカ人といった、さまざまなバックグラウンドの子供もいますが、ひじきの煮物や豆腐の味噌汁を違和感なく楽しんでおり、慣れてくるとむしろ和風のものを好んで食べるようになるそう。みんなが同じものを食べるので、自分の嫌いなものでも、友達が食べるのを見て挑戦する気持ちも出てきます。嫌いなものをがんばって食べたときは、先生がみんなの前でほめてくれるのも嬉しいはず。「家庭で用意されるものは、どうしても子供の好きな食べ物に偏りがちですが、給食を通じてさまざまな食材に触れ、味覚を発達させるお手伝いができればうれしいですね」と話す調理主任は、家では食べないのに園では何でも食べてくると、保護者からアドバイスを求められることもあると言います。給食時間内に教室を巡回して顔を出すと、「先生、おいしいよ~!」と子供達が叫んで感謝する様子は、ほほえましい。「”食べる” ということは、幼い子供にとってはすごく大切なこと」。外で走り回って遊び、おなかをすかせてもりもり食べる、そんな健康なライフスタイルに組み込まれた給食は、生涯の財産となる “食べる喜び” を子供達に教えているはずです。