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アメリカでの出産・育児「産後うつの分類と症状」

女性の身体には生理、出産、母乳分泌、閉経など、一生の間にさまざまなホルモンの変化が起こります。気分を司る脳の化学物質はホルモンの影響を受けるため、男性と比べ、女性の方がうつになる確率が高いと考えられています。産後というのは、いろいろな定義があるのですが、普通は出産から6週間ぐらいまでを言います。今回は、出産をきっかけとして起こる気分の変化についてご説明します。

産後に起きる、ホルモンの変化

産後には、大きなホルモン変化が起こります。しかも、「小さな赤ちゃんを守らなければいけない」という心理的なストレスが加わり、赤ちゃんの世話をするために夜も昼も緊張して起きているため寝不足になります。

また、夫婦ふたりだけだったときはお互いを思いやっていたのに、赤ちゃんが加わってみると、ふたりの間で子育ての意見が大きく違うことに気が付いて孤立感を味わうこともあります。

こうしたさまざまな要因が重なって、産後の女性の80-90%がなんらかの気分の変化を経験すると言われています。こうした気分の変化には程度の差があり、病気という範囲に入らないマタニティ・ブルーから、軽いうつ病、重症のうつ病、その他の精神疾患などがあります。

マタニティ・ブルー(maternity blues)

特に産後の3-5日ぐらいにはホルモンの変化が激しく、マタニティ・ブルーという状態が起こりやすくなります。マタニティ・ブルーは、病気として診断されるうつ病と比べて程度が軽く、また、1-2週間程度で症状がなくなるのが普通です。悲しんだり落ち込んだり、という症状よりも、わけもないのに急に泣き出すとか、イライラする、急に不安になる、という場合が多いようです。こうした症状はそれほどひどくなく、生活や母親の役割を果たすのに支障をきたすことがないのが普通です。もともと生理前緊張症(PMS)があった人にはマタニティ・ブルーが起こりやすい傾向があります。いろいろな報告がありますが、40%-80%の人が産後にマタニティ・ブルーを経験すると言われています。

通常、マタニティ・ブルーは、受診や治療の必要はありません。しかし、マタニティ・ブルーから始まって、2週間以上しても改善せず、そのままうつ病に発展する、という場合もあります。特に、以前にうつ病を経験したことがあるという人は気をつけて経過を見ておいた方が良いでしょう。2週間以上たっても症状が良くならない場合は、主治医や担当助産師やナース・プラクティショナーの診察を受けましょう。

産後うつ(postpartum depression)

産後のうつは、お産の直後よりも、1-2ヶ月たってから起こる場合の方が多いようです。中には、産後1年ぐらいしてから発症することもあります。または、妊娠中から軽いうつ病の症状があり、それが産後に悪化する、という場合もあります。症状としては、一般のうつ病と同じように下記のようなものがあります。

赤ちゃんを落としたり角にぶつけたりするような気がしてテーブルやカウンターに近づかなくなるとか、刃物で傷つけてしまうのではないかと思ってドキドキするなど、自分がするはずのないような考えがチラッと頭に浮かぶ場合もあります。

うつの症状は産後の疲れの症状と似ているため、「元気がないのは単に赤ちゃんの世話で疲れているから」と本人も家族も思い込み、受診しないケースが多々あります。産後のうつかどうかを判断するのに、「エディンバラ産後うつ病質問票」(Edinburgh Postnatal Depression Scale)という10項目の質問をして参考にすることがよくあります。インターネットで探すと、自己評価ができるページが日本語でも英語でもいくつか見つかります。下記のリンクはその一例です。肯定的な質問と否定的な質問にそれぞれ点数をつけて、30点のうち、12点以上の点数だった場合や自殺願望のある場合は、早急に診察を受けるように勧められています。

エディンバラ産後うつ病質問票の自己評価ページ
>> www.fukushihoken.metro.tokyo.jp

ひどいうつ病やその他の精神疾患

うつの症状がひどくなると、赤ちゃんの世話や自分の身の回りの世話もできなくなり、生活に支障を来たします。また、自殺することを真剣に考え始めたり、赤ちゃんは自分の子でいるよりも死んだ方がましだ、と思いだしたりすることもあります。うつの症状だけでなく、不安感やパニックなどの症状が同時に起こることもあります。

また、ごくまれに、うつ病だけではなく、精神に異常を来たすこともあります。これは、postpartum psychosis と呼ばれ、産後48時間以内に発症することが多く、自殺や乳児殺害の危険もある深刻な病気です。落ち着きがなく、動き回り、眠らなくなり、急に落ち込んだり気分が高揚したり、わけのわからないことを言い出したり、精神錯乱を起こしたりします。

こうしたひどい病気になった場合は、精神科の専門医の診察や治療を受けなければなりません。

情報提供:ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士 押尾祥子さん

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