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第4回 価格表は存在しない?米国の医療費のナゾ

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医療費が高いことで知られる米国。在ニューヨーク日本国総領事館のウェブサイトによれば、入院した場合は室料だけで1日約2000ドルから3000ドル程度、急性虫垂炎の手術と1日入院で1万ドル以上が請求されているそうです。このため、日本人旅行者が米国を訪れる際は、海外旅行保険に加入してくることがおすすめです。

医療保険に加入している米国在住者であれば、保険で年間の自己負担上限額が設定されているので、医療費を自費で際限なく支払うという事態は避けられます。

とはいえ、病院にかかった際にいったいいくら請求されるのでしょうか。実は、事前に具体的な医療費に関する情報を得るのは、米国では難しいのが現状です。なぜでしょうか?

もくじ

治療費用と請求額の複雑な関係

日本では、診療行為に対する診療報酬は厚生労働大臣が決めているので、一元的に管理されていると言えます。ところが米国では、各医療機関が独自に診療等にかかわる費用を算出しています。その上で、複数の医療保険会社と、個々の医療サービスに対し保険会社が支払う報酬額を交渉で決めて、契約を結ぶのです。

もちろん医療保険会社は、交渉により報酬額を低く抑えて契約するので、医療機関が独自に算出した費用よりは大幅に低い金額設定となります。保険加入者が支払う費用は、この契約に基づいて保険会社が決めた額です。

そのため、旅行者などのように、その医療機関が契約している保険加入者以外の人が医療サービスを受けた場合、医療機関が独自に設定した高額な費用が利用者にそのまま請求されることになります。つまり、室料が1日数千ドル、簡単な手術でも1万ドルといった請求額があり得るのです。

新しい治療の導入や経済環境の変化などに応じ、保険会社と医療機関側は必要に応じて常時交渉をしています。昨年まで自分が加入する保険のネットワーク内(In Network)の医療機関だったのに、保険会社と報酬額等で合意できずに翌年からはその保険のネットワークから外れてしまい(Out of Network)、ネットワーク内の医師や病院に変えなければならなることもあるので、加入者は注意が必要です。

医療費の目安を知りたい時

こうした理由で、米国では医師に治療費用がどのくらいかかるかを尋ねても、医師は費用について正確には知らないことがほとんどです。また、医療機関の会計部門に聞いても、その人が加入している医療保険プランの詳細や、その時点で免責額(deductible)をどれだけ満たしているか、実際にどのような治療が行われるのかがわからなければ見積もりを出せないので、即答は期待できません。

医療保険会社によっては、ウェブサイトの加入者向けページに一般的な医療措置に関して大まかな目安を例示していることもありますが、地域や医療機関によっても大きく変わります。予想される検査費用などについて知りたい場合は、自分が加入している医療保険会社に問い合わせて、保険プランに基づいた説明を受けなければなりません。

請求書は後からやってくる

医療機関で医療サービスを受けた後には、加入している医療保険会社から、EOB(Explanation of Benefits)という通知が送られてきます。これは請求書ではなく、医療機関から提出された医療サービスに対する請求に対し、医療保険会社が契約に基づいて支払うべき金額や、保険プランに沿って加入者自身が支払うべき免責額などの金額を説明する書類です。

医療機関は、かかった費用を患者の加入する医療保険会社に一旦請求し、保険会社から支払われなかった差額について患者に請求する仕組みなので、私たちの手元にはかなり後になってから請求書が届くことが多いようです。免責額がある保険プランでは、免責額に達するまでは全費用、その後は保険プランによって、2割から3割が患者負担額になります。

さらに、米国の病院ではすべての医療サービスが病院の直接雇用で行われているとは限らないので、請求書も病院からの一括ではなく、病院や医師、検査機関、麻酔サービスなどから、別々に送られてくることもあります。すべての請求は、最終的には自分が加入する医療保険会社が発行するEOBと一致するはずですが、請求書が間違っている場合もあるので、疑問があれば保険会社と医療機関の会計部門に問い合わせましょう。

進まない価格表の公表

連邦保健福祉省のCenter for Medicare & Medicaid Servicesは、2021年に米国のすべての病院に対し、利用料や標準的な医療サービス費用について消費者に分かりやすい価格表を公表することを義務付けました。消費者が価格を比較して、自分のニーズに合う医療機関を選べるようにするのが狙いです。

しかし、連邦政府の監査によれば、2024年11月現在でも、半数近い病院が費用情報を消費者に公表できていないようです。新政権で保健福祉省の体制や制度も変わっていくようですが、医療費負担の軽減や、よりわかりやすい制度への改善に取り組んでもらいたいものです。

「FLATふらっと」は、日本語を話す医療者とともに在米日本人の健康をサポートしている501(c)(3)認定の非営利団体です。在米日本人でがんや自己免疫疾患を経験した方、シニアの皆さんが、日本語でおしゃべりや情報交換ができるオンラインサポート・ミーティングや、陰ヨガクラス、専門家による健康情報のウェブ講演などを実施しています。ボランティアも募集中です。お気軽にお問い合せ下さい。
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