アメリカ合衆国の大統領を選ぶ選挙は、約1年間にわたる長期戦。早ければ予備選が始まる1年前から立候補を表明する候補者もいるので、すべてのプロセスは約2年に及ぶと言えます。米国二大政党の民主党と共和党は、年明けごろに始まる予備選と夏の党大会を通じてそれぞれ1人ずつ候補者を選びます。その後、一般有権者が投票する本選が行われます。
予備選の仕組み
予備選は、民主党および共和党のそれぞれが、党としての指名候補者(presidential nominee)を統一するために行うものです。つまり、同じ党内の候補者同士による、候補者指名を獲得するための戦いです。
全米の50州とワシントン DC で行われる予備選では、夏に行われる大統領候補指名の場=全国党大会に参加する代議員(delegates)が選ばれます。代議員にはそれぞれ支持する大統領候補がいるため、予備選を通じて間接的に州として支持する大統領候補の順位が決まることになります。
予備選には予備選挙(primary)と党員集会(caucus)の2種類があります。予備選挙と党員集会のどちらが行われるかは州・準州・自治領などによって異なり、ワシントン州では、民主党は党員集会、共和党は予備選挙を実施します。予備選挙は普通の選挙に近い方法で行われますが、党員集会の仕組みは複雑で、州によって実施方法が異なります。
大統領選挙で勝利するには
米国の大統領選挙は、全米50州と首都ワシントン D.C. の米国市民がそれぞれ一人の大統領候補者に投票し、最多票を獲得した候補者がその州が持つ選挙人(elector)を総取りする方式です。
選挙人の数は、全米50州と首都ワシントンD.C.それぞれの人口に応じて割り当てられており、合計538人となっています。
大統領選挙で勝利するには、選挙人(Elector)の票(Electoral Votes)の過半数、つまり538票のうち少なくとも270票を獲得する必要があります。
ほとんどの州は「勝者総取り」方式で選挙人票を配分するため(メイン州とネブラスカ州のみ例外で、選挙人票を選挙区ごとに分割する)、選挙人票270に達するだけの州を制した候補者が当選することになります。
選挙人団は、米国市民による投票(popular vote)の結果と一致する必要はありません。2016年の大統領選挙では、民主党から出馬したヒラリー・クリントンが米国市民による投票で多数を占めましたが、選挙人の獲得数で上回ったドナルド・トランプが当選となりました。
なお、サモア、グアム、北マリアナ諸島、バージョン諸島、プエルトリコを含む米国領は大統領予備選挙に参加し、共和党および民主党の全国大会に代表を派遣してそれぞれの党の候補者の選出に携わることができますが、大統領選挙の選挙人団(Electoral College)のelector(選挙人)は与えられていません。
2024年1月15日(月)アイオワ州党員集会(Iowa Caucus)
アイオワ州党員集会は、全米で最初に行われる予備選として毎回大きな注目を集める党員集会で、大統領選の事実上の幕開けとなります。アイオワ州が最初に行う理由は、大統領選に大きな影響を及ぼすことを誇りとする同州が、州法によって「全米のどの州よりも早く予備選を行う」と定めているため。地区党員集会(precinct caucus)で選んだ代表を州全体でまとめ、順位(州の代表)を決定します。この党員集会を皮切りに、全米で次々に党員集会・予備選挙が行われていきます。
共和党員は州内各地で開催する党員集会で無記名投票を行い、アイオワ州共和党が集計し、数時間以内に結果を発表します。ロイターによると、リモート参加は認められず、対面で参加しなくてはならないことから、働いている有権者や障害のある有権者を排除しているとの批判があります。前回の大統領選挙でのアイオワ州党員集会に参加できた共和党登録者は約30%でした。今回、民主党員は郵便で投票を行い、3月5日のスーパー・チューズデーに集計結果を発表します。
アイオワ州共和党予備選挙集計結果
1位:トランプ前大統領 2位:デサンティス・フロリダ州知事 3位:ヘイリー元国連大使
2024年1月23日(火)ニューハンプシャー州予備選
アイオワ州共和党予備選で2位につけたデサンティス・フロリダ州知事が選挙撤退を発表したため、共和党候補指名争い第2戦のニューハンプシャー州予備選からトランプ前大統領とヘイリー元国連大使の一騎打ちとなりました。
ニューハンプシャー州共和党予備選挙集計結果
1位:トランプ前大統領 2位:ヘイリー元国連大使
2024年2月3日(土)サウスカロライナ州民主党予備選
サウスカロライナ州予備選は民主党内での指名争いの初戦。バイデン大統領は得票率96%超で、作家マリアン・ウィリアムソン氏(2%)とディーン・フィリップス下院議員(1.7%)に圧勝しました。
2024年2月6日(火)ネバダ州民主党予備選
ネバダ州予備選で、バイデン大統領は得票率90%超えで圧勝しました。
2024年2月8日(木)ネバダ州共和党員集会
ネバダ州共和党員集会で、トランプ前大統領が勝利。アイオワ州とニューハンプシャー州に続いて3戦目の勝利となりました。7月の共和党大会で大統領候補に指名されるには、計2429人の総代議員数の過半数を得る必要があります。ニッキー・ヘイリー元国連大使は党員集会に参加しませんでした。
2024年2月24日(土)サウスカロライナ州共和党予備選
南部サウスカロライナ州の予備選挙が行われ、トランプ前大統領が勝利し、アイオワ州、ニューハンプシャー州、ネバダ州に続いて4戦目の勝利となりました。ヘイリー元国連大使の地元サウスカロライナ州での敗北が確定した後の記者会見で、撤退はせず選挙戦を続けると宣言しました。この時点での獲得代議員数は、トランプ前大統領は200人、ヘイリー元国連大使は20人です。
2024年3月5日(火)スーパー・チューズデー
16の州・米国領で予備選・党員集会が行われるため、「スーパー・チューズデー」と呼ばれます。
民主党のバイデン大統領は「スーパー・チューズデー」で各州・地域に割り振られた代議員のほぼすべてを獲得しました。
共和党指名候補争いはトランプ前大統領とニッキー・ヘイリー元国連大使の一騎打ちとなりましたが、「スーパー・チューズデー」の結果を受け、共和党候補指名を目指していたニッキー・ヘイリー元国連大使が、選挙戦からの撤退を表明しました。CBSがシェアした撤退表明演説の一部で、ヘイリー元国連大使は、移民1世の母親が娘の自分に投票したことを例に挙げてこの国の素晴らしさを称え、支持に感謝し、声をあげることを実行したこと、後悔はしていないこと、今後も自分が信じることについて声を上げ続けると述べました。これで本戦はバイデン大統領対トランプ前大統領が確実になりました。
2024年3月12日(火)ワシントン州予備選挙
ワシントン州、そしてジョージア州、ミシシッピ州、北マリアナ諸島、米国外で民主党の予備選挙、ハワイ州で共和党の党員集会が開かれ、バイデン大統領は民主党の指名に必要な代議員数1,968のうち2,107を獲得しました。また、トランプ前大統領は共和党の74%以上を獲得し、指名に必要とされる1215人の代議員に到達したことから、7月にウィスコンシン州ミルウォーキーで行われる共和党全国大会で正式に指名されることになります。
2024年6月27日(木)一般選挙大統領選討論会
バイデン大統領とトランプ前大統領の最初の討論会は、CNN が主催し、ジョージア州アトランタにある CNN のスタジオで無観客で行われました。
モデレーター:ジェイク・タッパー、ダナ・バッシュ
開始:午後6時(PDT)
終了:午後7時30分(PDT)
今回の選挙の大統領選討論会では、各候補者が割り当てられた時間内に中断されることなく話すことができるよう、対立候補のマイクがミュートされました。討論会の間は終始立ち続けで、ペン、紙、飲料水以外の持ち込み、メモの用意は許可されず、さらに、観客を入れない状態で行われました。今回は放送中にコマーシャルを入れて休憩がある一方、候補者は自身の選挙対策チームと相談することはできないため、CPD(大統領討論委員会)が監督する従来の討論形式とは異なる状態で行われました。
2024年7月15日(月)〜18日(木)共和党全国大会
— GOP (@GOP) July 16, 2024
7月15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで始まった共和党全国大会で、共和党の2429人の代議員による投票が行われ、ドナルド・トランプ氏が過半数を獲得し、共和党の大統領候補に指名されました。
トランプ氏は13日にフィラデルフィア州で選挙演説中に銃撃され、耳の上を負傷しましたが、予定通り共和党全国大会に出席しました。
副大統領候補は、オハイオ州選出の J・D・バンス上院議員に決定しました。オハイオ州ミドルタウン出身で海兵隊の退役軍人、イエール大学ロースクール卒。投資銀行勤務を経てベンチャーキャピタリストとなり、その後、作家となり、2016年に出版した回顧録『Hillbilly Elegy』がベストセラーに。2020年に映画化されました。2023年1月から現職。
2024年7月21日(日)バイデン大統領が選挙からの撤退を表明
午後1時46分(東部時間)、バイデン大統領が X(旧ツイッター)に声明を投稿する形で、大統領選挙から撤退する意向を表明しました。「再選を目指す意向だったが、退き、大統領としての残りの任期を全うすることにのみ集中することが、党と国にとって最も有益であると信じている」。 バイデン氏は弁護士で、28歳で郡議会議員となってから50年以上にわたり政治家として働いてきた人物。2009-2017年はオバマ政権で副大統領を務めました。2020年の大統領選挙で勝利し、2021年に第46代大統領に就任。現在81歳で、米国史上最年長にして最高齢の大統領です。任期は2025年1月まで。
これに続く投稿で、バイデン氏は後任の民主党の大統領選候補としてカマラ・ハリス副大統領を全面的に支持すると述べ、民主党に団結してトランプを打ち負かす時だと呼びかけています。
— Joe Biden (@JoeBiden) July 21, 2024
ハリス副大統領は、バイデン大統領の支持を光栄に思うと述べ、民主党の指名を獲得することに意欲を示す投稿をしました。
On behalf of the American people, I thank Joe Biden for his extraordinary leadership as President of the United States and for his decades of service to our country.
— Kamala Harris (@KamalaHarris) July 21, 2024
I am honored to have the President’s endorsement and my intention is to earn and win this nomination.
2024年8月5日(月)カマラ・ハリス副大統領、民主党の大統領候補指名が確実に
民主党全国委員会(DNC)は、1日から5日までリモートでの指名投票を終え、代議員の過半数を確保したカマラ・ハリス副大統領を正式に民主党の大統領候補に指名したと発表しました。
ハリス氏は民主党の大統領候補の指名投票資格を得た唯一の候補者だったため、この結果には疑いはありませんでした。ハリス氏は現在59歳。ジャマイカ人の父とインド人の母を持ち、2021年に黒人でアジア系の女性では初の副大統領に就任しました。主要政党で女性が大統領候補に指名されるのは、2016年のヒラリー・クリントン氏以来、2人目、黒人でアジア系の女性としては初めてという、歴史的な節目となりました。
2024年8月6日(火)ハリス氏、副大統領候補にミネソタ州知事ウォールズ氏を起用
今月19日に始まる民主党全国大会を前に、ハリス氏はミネソタ州知事ティム・ウォールズ氏(60)を副大統領候補に指名しました。
ウォールズ氏は、米国下院で6期を務めた後、2018年のミネソタ州知事選挙に当選。Business Insider などによると、有給の家族・医療休暇の保証、妊娠中絶権の保護、銃器に対する全員対象の背景調査、娯楽用マリファナの合法化など、多くのリベラルな優先事項を法制化したことで知られています。
ウォールズ氏のラストネームは Walz。発音は “Walls” と同じであると Newsweek など複数メディアで報じられていることから、ジャングルシティではカタカナで「ウォールズ」と表記することにしました。ウォールズ氏がミネソタ州知事として宣誓を行った動画でも発音を確認できます(1時間2分過ぎ)。
2024年8月19日(月)〜22日(木)民主党全国大会
イリノイ州シカゴで民主党全国大会(Democratic National Convention)が4日間にわたり開催され、カマラ・ハリス副大統領を大統領候補に指名する儀式的な投票が行われました。3日目にミネソタ州知事のティム・ウォールズ氏が副大統領指名候補受諾演説を行い、最終日にハリス氏が大統領候補指名受諾演説を行いました。
On behalf of everyone whose story could only be written in the greatest nation on Earth, I accept your nomination to be the President of the United States of America.
— Kamala Harris (@KamalaHarris) August 23, 2024
主要メディアは、民主党全国大会をもって2024年大統領選挙戦の予備選挙段階は正式に終了し、総選挙キャンペーンは夏から11月5日(火)の選挙日まで順調に盛り上がっていくと予想しています。
2024年9月10日(火)大統領選討論会
カマラ・ハリス氏とドナルド・トランプ前大統領の最初の討論会は、9月10日(火)午後6時(PDT)から、ABC が主催し、フィラデルフィアの National Constitutional Center(525 Arch Street, Philadelphia, PA 19106)で行われます。討論会は、ABCで放送されるほか、24時間ストリーミングネットワークの ABC News Live、Disney+、Huluでも配信されます。モデレーターを務めるのは、World News Tonight のデビッド・ミュアーと、ABC News Live「プライム」のリンジー・デイビスです。
討論会に先立つプライムタイムの特別番組「Race for the White House」は、グローバル問題担当主任特派員で「This Week」の共同アンカーを務めるマーサ・ラダッツ、ワシントン主任特派員で「This Week」の共同アンカーを務めるジョナサン・カール、ホワイトハウス主任特派員メアリー・ブルース、そして上級議会特派員レイチェル・スコットがアンカーを務め、午後5時(PDT)に放送されます。
この討論会の後に、さらに討論会が行われるかどうかが決定されます。
2024年10月1日(火)副大統領討論会
共和党の副大統領候補であるJD・ヴァンス上院議員(オハイオ州)と、民主党の副大統領候補であるティム・ウォールズ州知事(ミネソタ州)は、CBSが主催する副大統領選挙戦唯一の討論会に出席しました。
CBSによると、この討論会はニューヨーク市の CBS Broadcast Center で行われ、15の放送局およびケーブルネットワークで放送され、視聴者数は推定4,315万人でした。この視聴者数には、ストリーミングプラットフォームでの視聴は含まれていません。
CBSニュースが討論会後に実施した世論調査によると、有権者は討論のトーンを圧倒的にポジティブと評価しました。
2024年11月5日(火)一般選挙の投開票日
一般選挙(General Eleciton)の投開票日は、11月第1月曜日の翌日の火曜日に設定されています。当時、農業が主な産業だったため、日曜日の礼拝や市場のある水曜日に影響が出ないよう、1845年に連邦議会によって決定されました。一般選挙は通常、4年ごとに行われ、2024年は11月5日に行われます。
当選者の確定にかかる期間は、州によって異なる集計方法や法的な手続きが影響するため、選挙によって異なります。通常、次のような流れが一般的です。
1. 投開票日の直接投票
投開票日の直接投票の受付時間は、それぞれの州が独自に設定します。
2024年の激戦州(battleground states)と当日投票受付時間(東部時間)
- ジョージア州:5日午前7時〜午後7時
- ノースカロライナ州:5日午前6時30分〜午後7時30分
- ペンシルバニア州:5日午前7時〜午後8時
- ミシガン州:5日午前7時〜午後8時または午後9時(同じ州内で時差があるため、大半の投票所は午後8時、一部は午後9時に終了)
- ウィスコンシン州:5日午前8時〜午後9時
- アリゾナ州:5日午前7時〜午後9時
- ネバダ州:5日午前10時〜午後10時
2. 集計結果の公表
最初に投票が締め切られるのはケンタッキー州とインディアナ州で東部時間11月5日午後6時、最後に締め切られるのはアラスカ州のアダック島で、米東部時間11月6日午前1時。
多くの州では、投票日の夜から翌日にかけて暫定結果が発表されます。これは、投票日の当日に投票された票の集計結果に基づく速報で、締め切られてから数分で速報が出る州もあれば、数時間後の州もあります。
3. 郵便投票と仮投票の集計
郵便投票(mail-in vote)や、不在者投票(absentee vote)の多くは、投票日前日までに集計が始まります。
ワシントン州では各地に設置されている投票箱(ballot drop box)での投票が投票日午後8時まで受け付けられていることから、その翌日以降に到着する票も多くあります。そのため、集計を終えるまで数日から1週間程度かかることがあります。
暫定投票(provisional ballot):投票者の資格に疑問がある場合や、投票所での何らかの問題によりその場で正式な投票ができない場合は、暫定投票となります。仮投票は、投票者の資格に問題がないことが確認されれば、集計に加えられることになります。
オンラインで、自分の投票が受理され集計されたかなど、状況をトラッキング(追跡)できるようになっています。
ワシントン州の初期集計結果は、州の公式サイト(results.vote.wa.gov)に5日午後8時15分〜午後8時20分に掲載されます。なお、この集計結果は承認(certification)がなされるまで非公式(unofficial)なものとなります。
4. 公式結果の認定
多くの州では、選挙結果が公式に認定されるまでに数週間かかります。州によっては法律で「公式集計完了日」(election certification deadline)が設定されており、たとえば11月の第4週目や12月初旬までに結果を認定することが義務付けられています。
選挙日以降、ワシントン州の39郡は21日以内に選挙結果を認定する必要があります。この期間中、選挙日の夜に回収された投票用紙や、有効な消印がある郵便投票が処理・集計されます(RCW 29A.40.110に基づく)。この期間中、さまざまな監査が行われます。
選挙結果は、各郡が11月26日に認定を完了するまで公式なものとは見なされません。州務長官は、2024年一般選挙の結果を12月5日までに認定する必要があります。
5. 接戦の場合の再集計や訴訟
集計結果が非常に接戦となった場合、再集計が行われたり、候補者や政党から法的な訴訟が提起されたりすることがあります。この場合、公式な認定までに数週間、場合によっては1ヶ月以上かかることもあります。
大統領選挙では、選挙人投票が12月に行われ、最終的に1月初旬に次期大統領が公式に議会で認定されることで、当選者が最終的に確定します。
2024年11月6日(水)当選確定
11月5日(火)夜から大統領選挙や地方選挙の当選確定発表が出され始めました。選挙管理局が認定するまで公式な結果とはなりませんが、AP通信は6日未明にトランプ前大統領が当選確実と報じました。
Donald Trump won an election that will return him to the White House by securing Wisconsin, the same state that put him over the top when he won in 2016. https://t.co/vNyURdNHtn pic.twitter.com/rSduCZYieL
— The Associated Press (@AP) November 6, 2024