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「パンデミックの終息に向けて、少しずつ前進」バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

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バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

救急・消防など第一対応者に、バージニア・メイソン病院が掲げた感謝のメッセージ
2020年6月撮影

米国で最初に新型コロナウイルスの感染者・死者・アウトブレイクが報告されたワシントン州では、2020年3月に出された感染対策のための規制が、約1年3カ月後の2021年6月30日にほぼすべて解除されました。しかし、さまざまな変異株による感染者の増加が報告されており、パンデミックは新たな段階に入っています。私たちは今、どういったことに気をつける必要があるのでしょうか。シアトルのバージニア・メイソン病院で感染症科指導医として勤務している千原晋吾さんに、現在の状況について伺いました。

– ワシントン州では昨年3月に自宅待機命令が出されたことに始まるほぼすべての規制が6月30日に解除となりました。1年3カ月の規制によって疲れた多くの人はこれを「パンデミックに勝利した」と判断したいように見えますが、このパンデミックとの闘いにおいて、私たちはどういう段階にあるのでしょうか?

より多くの人が予防接種を受けている今、私たちはずっと良い状態にあると思います。シアトルのあるキング郡全体では、対象者の70%以上が完全に予防接種を受けています(参考:ワシントン州保健局発表)。12歳未満の子どもたちへのワクチン接種の承認を待つだけでなく、ワクチンを接種していない人々にもワクチンを接種するよう説得する段階にまだあります。

– 他の地域や国と比べてどうでしょうか。

ワクチン接種に関しては、最新のデータによると、ほとんどの国よりも良い状態にあります。とはいえ、ワシントン州の郡によって大きな差があり、例えば、サンファン郡、キング郡、ジェファーソン郡では、ワクチン接種対象となっている人口の接種率が70%を突破しているのに対し、まだ30%に達していない郡(ガーフィールド郡、スティーブンス郡)もあります。

新型コロナウイルス感染症による感染者数と死亡者数を人口比で調整すると、ワシントン州は下位5~10%に入っています。これは、ワシントン州の感染者数と死亡者数が全米で見ると少ないことを意味しています。

– 千原先生にとっての「ニュー・ノーマル」はどのようなものですか?この新しい段階で、先生ご自身の行動にどのような変化がありますか?

ほとんどの場合、人混みの中を除き、屋外でマスクを着用するつもりはありません。でも、屋内での買い物や仕事、バスの中などでは、引き続きマスクを着用します。この病気の流行状況や、CDCやワシントン州保健局の推奨事項によって、対策を変更し続けます。

前回お話ししたのは、医療関係者と高齢者のワクチン接種が始まってからしばらくたってからでした。それから、旅行やマスクの規定などをはじめ、さまざまな変化がありましたが、米国ワシントン州在住者が現時点で気を付けなくてはならないことは何でしょうか。

パンデミックは終わっていないことを知っておくことが大切です。ワシントン州ではワクチンの接種率は比較的高いのですが、ワクチンを接種していない住民や、州外や国外からワクチンを接種していない旅行者が引き続き存在しています。ワクチンは安全で効果的ですが、有効率は100%ではありません。現在の入院や死亡のほとんどは、ワクチンを接種していない人たちが占めています。

もう一つの問題は、ウイルスが複製される過程で変異した場合にのみ発生する変異株です。当然のことですが、「感染を防ぐ」ということは、「ウイルスが複製されたり変異したりする機会を与えない」ということでもあります。現在のワクチンは今確認されている変異株に有効ですが、今後確認される変異株にも有効かどうかは、現時点ではわかりません。これは人類とウイルスの戦いです。私たちが生き残りたいのと同じように、ウイルスも生き残りたいのです。

– 千原先生は、ワクチン接種を受けないことを選択して感染し、重症化して入院した人の治療を毎日行っていると伺いました。特定のデモグラフィがありますか?

特定のデモグラフィがあるわけではありません。ワクチン接種を受けないことを選択して感染し、重症化して入院している人の人種・年齢・性別はさまざまです。

– このパンデミックはどのようにして終わるのでしょうか?感染症の専門家や疫学者はいつこのパンデミックが制御されている、または終わったと言うことができますか?例えば住民の90%がワクチンを接種し、新規感染者が報告されなくなったらということでしょうか?

私は、免疫を持たない、脆弱な人々が存在する限り、特定の地域での流行は続くと考えています。しかも、世界の大半の国では、国民にワクチンを投与することに苦労しています。大陸間の移動が可能な現在、パンデミックが終息するまでには何年もかかると思います。

バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

バージニア・メイソン病院がアマゾン本社キャンパスで運営した集団予防接種センター

– 週末には集団予防接種センターでボランティアをされていたと伺いました。その経験について教えてください。

当病院は、1月下旬から6月上旬まで、アマゾンと提携して設置した集団予防接種センターを運営していました。週末にオープンし、できるだけ効率的でスムーズに接種が受けられるように努め、最大で1日あたり3000人から4000人を接種することができました。

ワクチンを接種するときに喜びの涙を浮かべる人もいました。このパンデミックを終わらせるためのコミュニティ活動の一員であることを誇りに思います。

今は大規模なワクチン接種センターの必要性は低くなったので、クリニックでのワクチン接種に移行しています。

– 現在は12歳未満の子どもはワクチン接種対象となっておらず、健康上の理由でワクチン接種が受けられない人もいます。家庭や職場、その他の環境では、そういう人のために、どのような対策を続けるべきでしょうか?

「新型コロナウイルス感染症で子供が病気になることはない」と主張する人たちがいるのは知っています。でも、私はその考えに同意しません。

幸運な子どもたちもいるかもしれませんが、さまざまな非特異的な症状に悩まされ、長期間患うことになる子どもたちもいるかもしれません。そうすると、その子どもたちは、ワクチンに十分な反応を示さなかった免疫力の低い人を感染させることになるかもしれません。

私は今でも自分の子どもたちに屋外ではマスクを着用させ、可能な限り他人との距離を確保させるようにしています。また、屋内でも人混みを避けるようにしていますね。

そうは言っても、ずっと家にいるのも心身の健康に良くありません。ハイキングやサイクリングなど屋外でアクティビティをする時間を作るようにしています。

– 12歳未満の子どもや免疫障害のある方の飛行機での移動について、どのように考えるべきでしょうか。

残念ながら、現在12歳未満の子どもの予防接種は承認されていませんので、予防接種を受けていない子どもや免疫障害のある方と一緒に旅行する場合は、マスクを着用することをお勧めします。マスクは必ず鼻と口の両方を覆うようにして、できるだけ人混みを避け、こまめに手を洗うようにしましょう。

可能であれば、同世帯の家族で車で移動することも検討してみてください。どうしても飛行機を利用しなければならない場合は、最終目的地まで乗り継ぎが最も少ない便を探すようにしましょう。

– その他に読者が知っておくべきことはありますか?

全体としては、パンデミックの終息に向けて少しずつ前進していると楽観的に考えています。今後数ヶ月のうちに12歳未満の子どもがワクチンを受けられるようになることを期待しています。12歳未満へのワクチンの緊急使用許可が下りれば、すでにワクチン接種を受けている私の家族と同じように、私の12歳未満の子どもにもワクチンを接種させるつもりです。

まだワクチンを接種していない人は、ぜひ、かかりつけの医師に相談してみてください。ワクチンで防げる病気で苦しむ人を見るのはとても辛いものです。

– ありがとうございました。

千原晋吾さん(ちはら・しんご)
バージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医
日本、プエルトリコ、ニュージャージー州で幼少時代を過ごし、山梨医科大学に入学。卒業後、横須賀海軍病院インターン、飯塚病院初期研修、コネチカット大学プライマリ・ケア内科プログラムのレジデント及びチーフ・レジデント、ラッシュ大学・John H Stroger Jr Hospital of Cook County 感染症科フェロー、ユタ大学臨床微生物学フェロー、獨協医科大学感染制御・臨床検査医学教室講師。2011年に再々渡米し、南イリノイ大学感染症科講師を務めた後、2014年3月よりバージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医。2016年7月のインタビュー記事はこちら

掲載:2021年7月

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