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「引き続き感染対策をしっかりと」バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

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バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

新型コロナウイルスの2度目のワクチン接種を受けた千原晋吾さん。胸に貼られたピンク色のテープにある「1.02」は、接種後15分間の待機時間が1時2分に終了するという意味。

ワシントン州で最初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから2021年1月21日で1年となりました。その間にアメリカは累計感染者数も死者数が世界最多となり、深刻な状況が続いていますが、ワクチンが完成し、接種が始まっています。シアトルのバージニア・メイソン病院で感染症科指導医として勤務している千原晋吾さんに、現在の状況についてお話を伺いました。

– 昨年6月にお話を伺ってから、通勤や臨床の現場でどんな変化がありましたか。

ワシントン州で昨年3月に自宅待機命令が出されてからも変わらず、バージニア・メイソン病院に通勤しています。夏の間は感染も少なくなって、乗客もバスに自分だけとか多くて5人とかでしたし、バス停からシアトルの街を歩くのがいい運動になっていました。でも秋から感染者がまた増えてきたので、今は車通勤です。

今も臨床はしていますが、飲食時以外は院内では常にマスクを着用しており、診察時はゴーグルも使用します。職員は毎日、症状のアンケートを記載することが義務付けられています。それでも、病院に来ることをためらう患者さんはいますが、そのような方は緊急でない場合は来院しないで、テレヘルス(遠隔医療)を利用することにしています。採血やレントゲンは来院していただかないといけませんが。

– ワシントン州の予防接種計画の最初のフェーズ1Aで医療関係者が最優先とされていますが、バージニア・メイソンではもう職員全員が受けられたのでしょうか。

バージニア・メイソンでは、クリスマスの1週間前に職員の予防接種が始まりました。ただ、予防接種というものは基本的に希望者のみで、医療従事者といっても予防接種を義務付けられているわけではありません。現時点で希望する人の多くは一回目の接種は済んでいる状態です。

私は1回目を12月に受けたので、3週間後の1月半ばに2回目も受け、予防接種が完了しました。インフルエンザの予防接種と同じで、24時間ぐらい腕が痛いかなという感覚はありましたが、それ以外は特に問題はありません。

– ワシントン州の予防接種計画は頻繁に調整されますね。前政権では「二度目の接種のために保管してあるワクチンを放出する」と発表があった数日後、「保管されているワクチンはなく、製造元から各地に直接配送されている状態」と追加発表がありました。医療現場でも混乱はあるのでしょうか。

私は予防接種に直接関わっているわけではありませんが、医療現場としては「いつ、どのぐらいワクチンが病院に到着するか」がわからなければ計画が立てられません。バージニア・メイソンが予防接種をしているのは、先週まではではシアトルだけでしたが、今週からはベルビューやベインブリッジ・アイランド、リンウッド、フェデラルウェイにあるクリニックでも接種していく予定です。数日前にワクチンの順番待ちリストに登録することが当病院の公式サイトでできるようになりました。登録後、接種グループ1Aもしくは1Bの場合、予防接種を予約する連絡が病院から入るようになっています。

医療現場では、ワクチンを投与するスペース、投与する人員、投与後15分はその場で待機してアレルギー反応がないことを確認する人員が必要です。しかもソーシャルディスタンシングが必要ですから、それなりの体制が求められます。

先週まで当病院では1日300人ぐらい、週2000人ぐらいにワクチンを投与しているとのことでした。しかし、院内に余剰スペースがないので、今はオフィススペースをワクチンを投与するスペースにしています。私が接種を受けたのもそういうスペースで、廊下で自分の番を待つという状況でした。そもそも、昔の日本でやっていたような、みんなで一列に並んで次々と予防接種をしていくやり方は、アメリカでは長十年もやっていません。でも、アメリカも予防接種を加速化するために、今は大きなスタジアムや駐車場などを臨時の予防接種クリニックにする方向になってきていますね。当病院もアマゾン(本社:シアトル)と協力し、シアトル市内に2,000人の接種を行う臨時クリニックを設置する計画になっています。

人員を増やすことに関しては、アメリカでは看護師、医師、メディカルアシスタント、薬剤師もワクチンを投与できるので、引退した人をボランティアで募っている状況です。私の場合、一回目は薬剤部を卒業して一年目の薬剤師、二回目は最近引退した医師に打ってもらいました。

– 新型コロナウイルスのワクチンを投与することについて不安を感じている人もいらっしゃるかと思います。千原さんはどのように説明されていますか。

前回もお話ししましたが、ワクチンを接種することは、「シートベルトをするようなもの」。交通事故によっては、シートベルトの効果がなかったりするケースもありますが、基本的に交通事故を起こしたとき、シートベルトをしている方がいいですよね。ワクチンも100%効果があるわけではないですが、感染したときに抗体がある程度できていて、重症化しないほうがいいでしょう。

神経の病気であるギランバレー症候群が起こるのではないかと言われていますが、これはワクチンを接種しないままインフルエンザを含むいろいろな病気に感染しただけでも起こります。なので、ワクチンを接種している方が重症化を防げるというのが定説です。
また、アナフィラキシーショックが話題にされますが、これは腕が痛いといったレベルではなく、命にかかわる可能性があるものです。でも、ファイザー/ビオンテックの新型コロナウイルスのワクチンによるアナフィラキシーショックの確率は100万人に11.1人と言われる稀なもので、起きた場合に対処する医療現場での準備が大切です(参考:CDC)。

もともとアレルギー体質でいろいろなものにアレルギー反応がある人は、プライマリケアやアレルギー専門の方に診察を受けて予防接種について確認する、約7割は15分以内に発症しているので、予防接種を受けた後の待機時間を15分ではなく30分にするなどで対応できます。ポリエチレングリコールにアレルギー反応が出ることも話題にされますが、これは添加物のような感じでいろいろなものに入っており、それに対するアレルギーは耳にしたことがありません。

また、「ビル・ゲイツがワクチン予防接種で追跡可能なマイクロチップを埋め込み、それが携帯電話ネットワークが使用する技術の5Gによって作動される」(参考 NPR:Anatomy Of A COVID-19 Conspiracy Theory)といった、次元の違う話がありますね。想像力が豊かなのはわかるのですが、何をもってそういうことを考えるのか僕には理解できません。アメリカで40万人以上、世界全体で200万人以上も亡くなっているのが現実です。リスクを考えると、予防接種した方が明らかにいいという判断になるはずです。

– 新型コロナウイルスの検査で陰性結果が出た場合、「100%感染していない」と言えますか。

どの検査を受けたとしても、偽陽性(本当は陰性であるにもかかわらず、陽性になること)または偽陰性(本当は陽性であるにもかかわらず、陰性になること)の可能性があります。

どのような場合に偽陰性になるかというと、例えば、「検体がうまく取れなかったため、陽性と判定されなかった」「感染してから検査するまでに経過した時間が短すぎて、まだウイルス量が少なく、陽性と判定されなかった」ということがあります。後者は、時間がたつにつれて体内でウイルス量が増えるので、その時点で検査をしたら陽性であることがわかります。つまり、感染の早い段階だと、医者が診ても診なくても感染しているかどうかわからないわけです。

なので、検査の結果だけでなく、それまでにどのような行動をしていたか確認することが大切です。例えば、「1カ月ずっと自宅にいて誰にも会わず検査を受けたら陽性判定が出た」という場合は、偽陽性と考えていいでしょう。でも、「熱があり、咳が出て、嗅覚に変化があり、感染者の濃厚接触者なのに陰性判定が出た」という場合は、かなり疑わしいですね。このように、検査の結果は一つの要素なので、それ以外のことも踏まえて、感染の有無を判断する必要があります。

– アメリカは1月26日から入国希望者に飛行機に乗る72時間以内の陰性証明の提出を義務付けることになっています。

前述のとおり、検査結果は感染の有無を100%保証するものではありませんが、検査を義務付けることで、リスクを減らすことに役立ちますね。

私は昨年から飛行機に乗っていませんが、乗った人からは「空港のTSAのチェックポイントで並ぶこと、飲食している人がマスクをはずしていることが気になる」と聞いたので、飛行機の乗り降りの前後の感染リスクが気になります。また、機内の真ん中の座席を空席にせず、乗り降りの際に通路でお互いに接近して並ぶのであれば、機内のソーシャルディスタンシングにも懸念があります。

なので、私はもうワクチンを打ちましたが、今は飛行機に乗る必要がないので、まだ乗るつもりはありません。どうしても乗る必要がある場合は、CDC の勧告に従うことをお勧めします。

– 読者のみなさんに改めて伝えたいことは。

やはり「ワクチンはそこまで怖くない」ということを改めてお伝えしたいです。そして、「これまで感染しなかったから、これからも感染しない」という保証はなく、いつ感染するか誰もわからないということも、お伝えしたいです。若い人たちは死亡率が低いと言われますが、「自分は若いから大丈夫」ではなく、若くても感染してしまうと、自分の親なり、糖尿病を持っている人なり、重症化しやすい人にうつしてしまい、その人を死なせてしまうリスクがあることを考えてほしいですね。

今月20日に始動したバイデン政権がリーダーシップをとり、マスクの着用を促したり、Defense Production Act を用いて PPE やワクチンに必要な物資を国内で産生するのは大変よいことだと思います。でも、今のところは引き続きしっかり感染対策を続けて、健康的な生活を心がけていきたいですね。

千原晋吾さん(ちはら・しんご)
バージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医
日本、プエルトリコ、ニュージャージー州で幼少時代を過ごし、山梨医科大学に入学。卒業後、横須賀海軍病院インターン、飯塚病院初期研修、コネチカット大学プライマリ・ケア内科プログラムのレジデント及びチーフ・レジデント、ラッシュ大学・John H Stroger Jr Hospital of Cook County 感染症科フェロー、ユタ大学臨床微生物学フェロー、獨協医科大学感染制御・臨床検査医学教室講師。2011年に再々渡米し、南イリノイ大学感染症科講師を務めた後、2014年3月よりバージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医。2016年7月のインタビュー記事はこちら

掲載:2021年1月

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