グリーンカード(永住権)を取得してアメリカに住んでいても、さまざまな理由で永住権を放棄し、本国に完全帰国したり、別の国に移住したりする場合があります。
その場合、どういった手続きが必要なのでしょうか。この記事では、永住権放棄と、それに必要な税務申告を終えるまでの大きな4つのステップを説明します。
永住権を放棄する手続き
1. 永住権を放棄するための書類 I-407の提出
最初のステップは、永住権を放棄する意思を正式に表明する書類「I-407」の提出です。正式な名称は Record of Abandonment of Lawful Permanent Resident Status です。
完全帰国したら、この書類に記入し、グリーンカードの現物を同封し、バーモント州にある USCIS(US Citizenship and Immigration Services:移民局)に直接郵送します。米国外から本人が提出します。
I-407の受理から完了まで、30日から60日かかるとされています。
米国大使館の公式サイトには「永住資格(グリーンカード)を放棄することが、将来米国への移民ビザ申請に影響を及ぼすことはありません。ただし、申請手続きを最初から始める必要があります」と記載されています。
2. 永住権の放棄を認める書類 I-797の受領
次に、永住権の放棄を認めたことを通知する書類 Notice of Action が所定の住所に送付されます。これは、ステップ1で提出した I-407が正式に受領され、永住権の放棄が認められたことを通知する書類です。
この書類には、IRSに最後に提出する書類に必要な情報が記載されているので、必ず保管してください。
この書類にある Notice Dateという日付が、「永住権の保持が終了した日」になります。
ここまでのステップで、永住権放棄の手続きが完了したことになります。
税務関連の手続き
次は、税務関連の手続きがあります。永住権保持者は毎年、IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)に確定申告をする義務がありますが、永住権を放棄する手続きを完了しただけでは米国政府への確定申告の義務はなくならないので、ご注意下さい。
確定申告は1月1日から12月31日までの1年間の収入が対象となるため、永住権の保持が終了した日が1月1日に近ければ近いほど、米国での納税対象期間が短くなります。なお、401(k)などの年金の所得は、日米租税条約により、米国ではなく、居住国で課税されます。
3. W-8 BENの提出
米国の金融機関に資産を残して完全帰国する場合は、永住権を放棄した後、「W-8 BEN」という書類を米国にある銀行や、401(k)を保管する金融機関に提出します。この書類の正式名称は Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner for United States Tax Withholding and Reporting です。
この書類は、通常なら30%の納税が必要な利子、配当、年金などの所得を、居住国と米国が結んでいる租税条約を利用して減免された源泉税率を使う書類です。日本に完全帰国してから、または完全帰国する前に提出します。この書類を提出することで、日本の居住者は米国での401(k)の配当の源泉徴収を避けられるとされています。なお、この書類は一度出せばずっと有効とはならず、3年ごとの更新が義務付けられています。
4. Form 1040、Form 1040NR Dual Status Returns、Form 8854の提出
日本に完全帰国した年の翌年、Form 1040と Form 1040 NR Dual Status Returns という二つの書類を使って確定申告書を行います。
Form I-407(ステップ1にある「永住権を放棄するための書類」)の提出日または受理日までは米国居住者(Form 1040を使用して確定申告)、受理日の翌日から12月31日までは非居住者(Form 1040 NRを使用して申告)と、居住者と非居住者という二つの立場(dual status)の状況を報告する、特殊な申告書です。
注意したいのが、夫婦でも、合算での申告(joint filing)ではなく、個別の申告書の作成が必要になることです。そのため、夫婦合算申告より税率が高くなるのが一般的です。そして、標準控除(standard deduction)は適用できず、項目別控除(itemized deduction)のみが適用となります。その結果、一般的に、夫婦合算申告よりも課税対象となる金額が増える場合が多いです。
そして、Form 8854(Initial and Annual Expatriation Statement)は、永住権や市民権を放棄する時の全世界の純資産などの報告に使います。
この書類の対象になる人を Long-Term Residentと呼びます。下記のいずれかに該当する Long-Term Resident は、納税の対象となります。
- 永住権や市民権を放棄した年の前の5年間の平均最終連邦所得税が$190,000(現時点での金額。毎年インフレ調整あり)を超えている方
- 永住権や市民権を放棄した日に現金、投資、そして不動産などの個人の純資産(時価評価を使用し、資産から債務を引いた金額)が$2,000,000以上の方
- 過去5年間に正しく確定申告をしたと宣誓することができない方
課税対象になる純資産は、現時点(インフレ調整も年によってはある)で控除額$821,000以上です。税率はその純資産によって決まります。例えば、含み益のある株式で長期にわたり保持していたものは Capital Gainの税率で計算されます。
通常、この申告書を作成して提出することで、米国への個人の確定申告の義務は終了します。
しかし、米国に貸家などがあり、そのまま保持して帰国した後も家賃収入などが引き続きある場合は、毎年、1040NRを使用して確定申告をすることになります。
できるだけ正確な情報を掲載するよう努めていますが、個人の状況が異なることから、移民法や税務にはさまざまな考慮するべき点が生じる可能性があります。移民法に関する質問・相談は移民法専門弁護士に、税金に関する質問・相談は公認会計士までお問い合わせください。
「税務関連の手続き」情報提供:松本加奈子、CPA&CFE
Nishijin Accounting & Consulting, LLC
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