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ヘイトクライムとアジア系アメリカ人に対する人種差別

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、アメリカでアジア系が被害者となるヘイトクライムの事件が報じられ続けることを受け、シアトルに拠点を置く非営利団体 JIA Foundation はヘイトクライムに関する問題に取り組み始めました。今回、シアトル地域に住む大学一年生の日系人、伊藤はなさんとグリスウォルド綾さんが同団体の2021年4月のニュースレターに寄稿したコラム「ヘイトクライムとアジア系アメリカ人に対する人種差別」を、許可を得てここに転載します。

最近、アメリカのコロナ禍で、アジア人に対する暴力の事件についての内容がニュースや SNS で頻繁に取り上げられています。私たちの住むシアトルでも最近日本人女性が事件のターゲットとなってしまったことなどを思うと、さらに身近に感じます。「ストップ・AAPI・ヘイト」レポーティングセンターは2020年3月19日から2021年2月28日の間で3795件のヘイト事件レポートを受けました。報告されていない事件がこれ以上にもあると考えられています。このような事件の頻度と過酷さが共に増す中、アメリカに住む日本人として、「今起きている人種差別について少しでも参考になれば」という願いをこめて、この記事をお届けしたいと思います。

文:伊藤はな、グリスウォルド綾

アトランタ事件

アジア系住民へ対する暴力的な事件の中でも、最近一番注目を集めているのはアトランタで起きた銃撃事件です。

2021年3月16日に米ジョージア州アトランタ周辺で連続銃撃事件が起きました。3カ所のマッサージパーラーに入り込み、8人を銃殺したロバート・アーロン・ロング容疑者が逮捕されました。死者のうち、6人はアジア系女性でした。

記者会見での警部の問題発言

翌日の記者会見でチェロキー郡保安官事務所のジェイ・ベイカー警部は容疑者を慰め許すような言説を弄しました。「ロングはうんざりしていて、進退窮まっていた。ロングにとってその日はついていない日だった。そしてこんなことをしてしまった。」

ロングは捜査官に、襲撃の動機は人種ではなく、自分の「性依存症」によるものであったと主張しました。ベイカー警部は「マッサージ店が性依存症のきっかけとなり、ロングはこの誘惑を排除したいと感じた」と述べました。

ベイカー警部の言葉は白人である容疑者を擁護し、人種的マイノリティである被害者の人生を過小評価しているように感じてしまいます。このように、容疑者の人間性や心情をアピールするようなメディアの描き方は珍しくないのですが、大半の場合、白人の容疑者に限るものです。容疑者が人種的マイノリティの場合、その人の人種がメディアの注目点とされることが多い一方、白人である場合は容疑者の個人ストーリーが観られるため、アメリカのメディアはマイノリティの個人性を見逃そうとする傾向があると言えるほどです。

アジア人のせいにされる新型コロナウイルス

2020年にアメリカにも感染が広がった新型コロナウイルスは差別的レトリックと絡み合っています。元米大統領トランプ氏が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」(china virus)、「中国製疫病」 (chinese plague)、「カンフル― 」(kung flu) などと名付けたことが報じられました。

トランプ政権はこのような名付け方は差別的ではないと主張しました。しかし、コロナ禍によって一変してしまった社会の中で、力を持つ人のこのような口調や言葉使いが国民に響かないということはとても信じがたいです。

現在のアメリカを見回すと、アジア系アメリカ人が暴力・差別発言のターゲットにされることは決して少なくありません。ピュー・リサーチセンターによると、アンケートに答えたアジア系アメリカ人の58%が「パンデミック状態の始めと比べ、人種差別的な考えを表す人が増えた」と言っています。

アジア系の人に対するヘイトクライム

アトランタでの事件はまだ正式に「ヘイトクライム」(憎悪犯罪)として認められていません。ですが、容疑者は自ら三店のアジア系マッサージパーラーをターゲットし、被害者の大半がアジア系女性だったため、差別的な行動とみなすことができるはずです。

しかし、最近起きている事件のうち、明らかに人種差別的だと解釈される事件も多くの場合、「ヘイトクライム」ではなく、「暴行罪」として扱われています。差別的な動機による事件が増える中、アジア系の人々は不安を感じています。「ヘイトクライム」として認められない件が多いため、正確なデータをまとめることが難しく、アジア系の人に対する差別の普遍と重大さが見逃されている心配もあります。

解決策

トランプ氏の差別的な表現によってアジア系アメリカ人に対する差別が増加したとされる一例から、言葉使いには幅広い影響力があることがわかります。それぞれが自分の言葉使いや中継されるメディア描写を意識し、それがどのような偏見・ステレオタイプの促進にかかわっているのかを考えることが必要です。もちろん身の回りで差別発言に気づくことがあれば、反対するように心がけることも大切です。

自分自身がヘイト被害を受けている場合、あるいは他人がヘイト被害を受けているのを目にした場合のために「ストップ・AAPI・ヘイト」レポーティング・センターが安全に対応する方法をいくつか挙げています。

自分がヘイト被害を受けている場合:

  1. 周りを見て、どう行動すればよいか判断する。安全にできれば、危険な状態から離れる。
  2. 深呼吸をして落ち着く。なるべく相手と目を合わせないようにして、派手な身振りをしない。
  3. 安全ならば、冷静に自分と相手との物理的な境目を築き、差別を言葉で非難する。
  4. 即時サポートを見つける。可能ならば、周りの人に介入してもらうように頼む。
  5. (安全な状態にたどり着いた後)精神的なサポートを求める。心の回復に十分な時間をかけ、信頼できる人と話す。ヘイトを受けたことは自分のせいではなく、一人でトラウマを担がなくていいことを覚えておいてください。

他人がヘイト被害を受けているところを目撃した場合:

  1. 安全ならば、被害者に近づく。自己紹介をして、サポートを与える。
  2. 状況を把握する。何らかな行動をする前に、被害者の願いを尊重する。
  3. ヘイト言動をしている側を無視する。状況を沈静化させるために、言葉や身振りで気晴らしをする。
  4. 状況が悪化すれば、被害者と一緒にその場から離れる。
  5. 被害者に精神的なサポートを与える。どのようにサポートしてもらいたいかを尋ね、その人の感情や思いに聞く耳を持つ。

そのほかにできること:

・ヘイトクライムや差別的な事件を警察やFBIにレポートする。
司法省:https://www.justice.gov/hatecrimes/get-help-now
非営利団体 Stop AAPI Hate:https://stoaapihate.org/reportincident/
非営利団体 Stand Against Hatred:https://www.standagainsthatred.org/

・勤務している会社やグループで人種問題に対する意識を高めることを提唱する。
・公務員・役人と連絡を取り、整ったヘイトクライムの集計方法を奨励する。ターゲットされている人々を守る法律を重要視するように頼む。

毎日のように「アメリカのどこかでまた差別発言・暴行事件が起きた」という悲惨なニュースを目にするアジア系アメリカ人の私たちは精神的な疲労と心配を幾度も繰り返しています。けれど、周りにいる人々が味方になってくださることや、アジア系アメリカ人コミュニティーが差別に反対する声をあげ、リソースを広めてくださっていることに励まされます。

差別的な事件をなくすには、まず差別の存在自体を認めることが必要となります。差別的な行為を見分け、差別を引き起こした偏見と向き合い、その偏見の背景にある歴史や社会問題を照らし合わせることによって変化をもたらすことができます。「ヘイトクライム」は個人の偏見と憎しみ(ヘイト)によって起きるものであるため、「個人の問題」として考えられる場合が多いですが、憎しみは自主的に成り立つものではありません。そのため、ヘイトクライムを育てる憎しみや偏見にかかわっている社会的要素を見つけ出し、それを理解し、改善していくことが個人を超える大切な課題です。

参考:
Asian Mental Health Collective
Asian American Legal Defense and Education Fund
National Queer Asian Pacific Islander Alliance (NQAPIA)
AAPI Women Lead and #ImReady Movement
Anti-Asian Violence Resources
Asian Awareness Project

掲載:2021年5月 文:伊藤はな、グリスウォルド綾



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