執筆者:粥川由美子(かゆかわゆみこ)
北海道出身、画家。2005年よりシアトルに在住。シアトルで初めて飼ったペットは、動物保護施設から引き取ったパピヨン犬のキット。キットとの暮らしの中で、シアトルの動物愛護の精神や、犬にやさしいこの街の一面を知り、ブログ 『キットと歩こ、シアトル "いろいろ" ストリート。』 を開始。
【公式サイト】 sweetyumiko.com
【著書】 『Japanese Wolf』
夏は犬のイベントがいっぱいのシアトル。ペットの里親探しも盛んです。これまでシアトルで犬とできることをご紹介してきましたが、今回は特別企画として、犬の入手方法のひとつ、アダプションについてご紹介したいと思います。
アダプションという選択
「よーし、犬を飼おう!」
そう決めた時、どうやって犬を探しますか?散歩で会った飼い主さん達に聞くと、ブリーダーから入手したか、施設から引き取ったという方が多いよう。ドッグフードの Wellness によると、ワシントン州は現在、ペットアダプション件数の多さで、全米6位。でも、全米で飼われている犬のうち、アダプションされたケースは、わずか20%です。飼い主のいない犬があふれているのに、なぜでしょう?
忠犬も家を失うという現実
「施設の犬は問題犬だと思っていた」
「こんなにかわいい犬が施設から?」
キットが施設から来たというと、驚かれることがあります。キットは、前の飼い主が病気になり、施設に託されました。犬に悪いところがなくても、子供にアレルギーが出た、飼い主と死別した、などの理由で、やむなく手放されることがあります。かわいさや利口さは、家を失わない理由にはなりません。
また、施設に保護されている犬の30%が、ブリーダーに繁殖され、手に負えず捨てられたケースです。家庭で育っても、きちんと躾けなければ問題犬になりますから、「施設の犬=問題犬」とは、一概には言えません。よく日本のテレビ番組で芸能人が、愛犬がどれほど高価だったか自慢しているのを見ます。「さぞ良い犬なんでしょうね」と司会者は言いますが、「良い犬」とは何でしょう?高価な犬でしょうか?
もう一度チャンスをもらった犬たち
誰かが捨てた犬が、他の誰かのすばらしい愛犬になったり、人を助けるサービス犬や、俳優犬になることがあります。アカデミー賞映画 『アーティスト』 に出て来る「ジャック」こと Uggie は、ドッグトレーナーの Omar Von Muller 氏に引き取られる以前、二度も家を失った「問題犬」でした。舞台や映画 『アニー』 に出てくる「サンディ」など、ドッグトレーナーの William Berloni 氏が育てあげた優秀な俳優犬は全て、施設からアダプトした犬たちです。
プロのドッグトレーナーではない飼い主の家庭に引き取られ、幸せに暮らす犬がシアトルにもたくさんいます。犬を飼うのは初めてというご夫婦に引き取られた、ポポ。子犬の頃、親・兄弟犬と一緒にゴミ捨て場に捨てられているところを保護されました。ご夫婦は、中でも一番大人しいポポを選びました。最初はお留守番が苦手でしたが、トレーニングを重ね、今では平気に。甘ったれで、愛嬌たっぷりのポポ。誰かが捨てた犬が、ご夫婦にとって、子供同様の存在になりました。
推定2歳のころ、捨てられて放浪中に保護されたモチ。犬を飼うのは初めてだったご夫婦に引き取られました。とてもおとなしく、先住の猫とも仲良しです。最初は食が進まず、試行錯誤。散歩もしたがりませんでしたが、少しずつ慣らし、今ではリードを持っただけで大はしゃぎするように。知らない人にもフレンドリーで、ご夫婦の言葉や気持ちをよく理解し、愛に包まれて幸せに暮らしています。
前の飼い主の健康上の理由で、施設に来たココ。犬を飼うのは初めての N さんと、犬と育ったというパートナーのご家庭に、1歳半の時に引き取られました。シャイながら、トレーニングできる賢さが見られたので、他の犬や人に吠えたり唸る癖をトレーニングで改善しました。おとなしく、いたずらもしない良い子で、独立心が強く、アジリティや羊追いもできる、賢いココ。ドッグスポーツを楽しみたかった N さんの夢を叶え、家族もより仲良しになりました。
Seattle Humane Society のボランティアさんで、犬を飼うのは初めてだった恵子さんと、子供時代に飼っていたというご主人。子犬の頃に放浪していて保護された、アキラ、続いてマイルスをアダプトしました。現在12歳のアキラは新しい環境に臆病だったので、トレーニングのクラスを受けたりして社会訓練を積みました。現在1歳のマイルスは、物を噛む癖を改善するため、運動量を増やし、トレーニングをして、最近、Canine Good Citizen のタイトルを取得。ご夫婦は施設に来る猫を常にフォスター(一時預かり)していますが、2匹ともどんな犬や猫とでも仲良くできる、優しい犬です。そのおかげで、ご夫婦はたくさんの出会いに恵まれ、エネルギーをもらっているそうです。
あなたはドッグウィスパー?―アダプション一口メモ
犬にはそれぞれ特性があるので、アダプションを考えるなら、犬に求めることと、犬種や性格、年齢などを照らし合わせた犬選びをおススメします。例えば牧羊犬にとパグを選ぶ人はいませんし、読書の相棒にボーダーコリーを選ぶ人もいないでしょう。子犬は可愛いですが、人の子と同じで、教えることがたくさんあります。ある程度成長した犬を引き取る場合、すでにトイレの躾ができていることが多く、性格やサイズが把握できるなどの利点があります。アダプション料金は、施設や年齢などにより異なります。キットの場合は200ドルで、去勢手術、マイクロチップ装着、ワクチン接種を済ませた状態で譲渡してもらうことができました。これらを自分で負担するとなると、この金額では済まず、この他にも準備費用がかかります。
保護された犬は、一般の家庭犬として危険がないか、テストをしてからアダプションに出されます。犬とのマッチングや、トライアル期間を設けている施設もあります。それでも、新しい環境に置かれると、問題行動が出る可能性もあります。現在施設の25%の犬が純血種と言われ、犬種別の保護施設もあります。理想の犬を見つけたら、少しハードルが高くても欲しくなるかもしれませんが、施設にはさまざまなサイズ、年齢、性格の犬がいるので、自分をかいかぶらず「手に負える犬」を選ぶのが成功の鍵です。
ジャングルシティでも、保護施設のリストを掲載していますので、ぜひご利用下さい。
私はキットを Petfinder で見つけました。このサイトは、必要条件でペットを検索できるので便利です。また、市内・近郊、各地にやってくる Seattle Humane Society の MaxMobile の出張里親探しバスもチェックしてみてください。
犬は、たくさんの喜びを運んできてくれます。一つの命を救うという経験は、お金では買えません。家を失った犬にとって、もう一度チャンスをくれる人は、ヒーローなのですから。しかし、犬が生き物である限り、そこには苦労や挑戦が伴います。高価な犬でも、捨て犬でも、どこから来た犬であっても、「忠犬」になるか「問題犬」になるかは、飼い主次第です。
この夏、犬を飼いたいとお考えなら、どんな犬が新しい家族を待っているか、ちょっと施設を覗いてみませんか?
※この記事を書くにあたり、ご協力をいただきましたみなさまへ、心より感謝を申し上げます。
掲載:2015年7月