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動物の鍼治療について

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動物のリハビリテーション

Mr.Chips と仲良しの Lenny が一緒に鍼治療を受けた時の様子。
どちらも難しいおじいさんだったのですが、ウマが合うようでした。

鍼治療は、リハビリテーションの手段のひとつではありませんが、併用して使われることが多いです。

私が動物の鍼師の認定を受けたのは、もう20年近く前になります。その頃は動物の鍼治療は今ほど一般的ではなく、鍼の講習もモーテルで行われていたのですが、現在は動物の鍼の学校が専用の校舎を持つまでになりました。それだけ動物の鍼治療が一般に認められているということで、大変うれしく思っています。

鍼治療とは、細いステンレス製の針(直径0.16mmから0.25mmくらい)を皮膚、または筋肉まで刺し、15分から30分ほどそのままにするという単純な治療法です。鍼治療は、痛みに大変効果的です。鍼は非常に細いですが、皮膚を通過する瞬間はチクッとします。この刺激が皮膚の感覚神経を刺激し、脳からの内因性オピオイド(エンドルフィン、エンケファリンなど)の分泌を促します。内因性オピオイドは、外から処方されるモルヒネやフェンタニルなどの麻薬と同じ受容体に結合しますが、麻薬のほうが早く効き、中毒性もあると言われています。内因性のオピオイドにはそのような危険はありません。

また、痛みがあると筋肉も硬くなり、血管が収縮して血行が悪くなります。血行が妨げられると、血液中にブラジキニンなどの発痛物質がたまってしまうため、さらに痛みはひどくなります。鍼治療には血行を良くする働きもあります。

動物のリハビリテーション

顔面麻痺のため、電気鍼の治療を受けるビーグルの Bacon

セロトニンなどの神経伝達物質も、鍼によって分泌が増加します。セロトニンは心を穏やかにし、不安を取り除いたり、痛みの感覚を抑制する働きがあります。鍼治療の最中や治療後に、リラックスしたり、ぐっすり眠ってしまうのはこのためです。治療中にいびきをかいて眠る犬もいます。

昔の中国では、もちろんこのような科学的な裏付けはなく、身体を流れる気の道(経絡)の特定の点(経穴=ツボ)に鍼を刺すことにより、気の流れを整えると考えられていました。経絡は14、経穴は犬で200以上を数えます。

適用する症状は、痛みを伴う症状(関節炎や手術後の痛みなど)、麻痺やけいれん、てんかんなどの神経科の疾患、分離不安など行動障害、また、消化器系や内分泌系の疾患にも、西洋医学と組み合わせて幅広く使われています。人生の黄昏を迎えつつある年齢の動物たちは、慢性関節炎で痛みがあるのに肝臓障害のため痛み止めが使えない状態だったり、末期がんで、いわゆるQOL・ホスピスケアの状態であることも多く、一回でさまざまな症状を改善できる鍼治療は、うってつけの優しい医療だと思います。

私はもう何年も高齢のペットをレスキューしているのですが、彼らには医学的にも精神的にも教わることが多く、これからも彼らのレスキューをやめられそうにありません。

動物のリハビリについて、何回かにわけてご紹介しました。お読みくださり、ありがとうございました。

掲載:2020年6月 文・写真:Masami Seplow, DVM CVA CCRP

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