トランプ大統領は1日、英語をアメリカの公用語(official language)に指定する大統領令に署名しました。英語はアメリカで最も広く使われている言語ですが、国の公用語を定めるのは1776年の建国以来初めてです。
「アメリカの最善の利益に適っている」
大統領令では、「我が国の建国以来、英語は国の言語として使用されてきた。独立宣言や合衆国憲法を含む、我が国の歴史的な統治文書はすべて英語で書かれている。したがって、英語をアメリカ合衆国の公用語として正式に定める時期はとうに過ぎている。国家として定められた共通の言語は、統一された結束のある社会の根幹であり、共通の言語で自由に意見を交換できる国民によって、アメリカ合衆国はより強くなるのだ」と説明されています。
「新しいアメリカ市民を歓迎するにあたり、私たちの国の言語を学び、習得することを奨励する政策は、アメリカ合衆国を共通の家として成り立たせ、新市民がアメリカンドリームを実現できるよう力を与えるだろう。英語を話すことは経済的な扉を開くだけでなく、新しい市民が地域社会に参加し、国家的な伝統に貢献し、社会に還元する助けになる。この命令は、英語を学び、次の世代にそれを伝えてきた多言語を話すアメリカ市民という長い伝統を認識し、祝福するものである」
「団結を促進し、すべての市民に共通のアメリカ文化を育み、政府運営の一貫性を確保し、市民の参与の道を開くために、連邦政府が一つの — そして唯一の — 公用語を指定することは、アメリカの最善の利益にかなっている。英語を公用語として確立することは、コミュニケーションを効率化するだけでなく、共通の国家的価値観を強化し、より一体感のある効率的な社会を築くことにも繋がる」
シアトル・タイムズによると、アメリカの32の州はすでに英語を公用語として指定しており、そのうちサウスダコタ州、アラスカ州、ハワイ州の3州は先住民の言語も公用語として認めています。ワシントン州には公用語の指定はありません。
クリントン政権時代から続いてきた多言語サービス提供義務を撤回
アメリカでは、クリントン大統領が2020年に発令した大統領令13166により、約25年にわたり、連邦機関および連邦政府から資金提供を受ける社会福祉機関、病院、学校などに対し、英語以外の言語でも文書やサービスを提供する多言語サービスの提供を義務付けてきました。
今回、トランプ大統領はこの大統領令13166を撤回すると発表しました。ホワイトハウスの公式サイトでは、「この命令のいかなる内容も、いかなる機関が提供するサービスの変更を要求または指示するものではなく、それぞれの機関は英語以外の言語で準備または提供される文書、製品、その他のサービスの変更、削除、または停止を行う必要はないものの、それぞれの機関が使命を達成し、効率的に政府のサービスをアメリカ市民に提供するために必要だと考える決定を行うべきである」とされています。
クリントン政権は、1964年公民権法(Civil Rights Act)タイトルVIの「出身国による差別を禁止する規定」に基づき、連邦機関や連邦資金を受給する組織は、多言語サービスを提供する義務があると解釈しました。
そして、クリントン大統領は、2000年8月11日に大統領令13166(Executive Order 13166)を発令し、英語が堪能でない人々が連邦政府のプログラムやサービスを利用できるようにするため、連邦機関および連邦政府から資金提供を受ける社会福祉機関、病院、学校などは、通訳や翻訳された資料を提供することを義務付けました。
これを受けて、保健福祉省(HHS)、教育省(DOE)、国土安全保障省(DHS)などの各連邦機関は、この大統領令に従い、多言語対応ポリシーを制定しました。また、公的機関(病院、学校、裁判所など)は、翻訳した資料を提供したり、通訳サービスを導入するなどの対応を進めてきました。
この大統領令は、ブッシュ政権、オバマ政権、バイデン政権と、約25年にわたり存続され、ウェブサイトの多言語化、電話通訳サービス、特定の条件下での英語試験免除など、英語を十分に話せない移民の支援体制を整えてきました。トランプ大統領は一次政権でも一部の多言語サービスの義務づけを縮小しましたが、大統領令13166の撤回はしませんでした。
家庭で話されている言語の調査
国勢調査局のアメリカン・コミュニティ・サーベイ(ACS)によると、全米の家庭で英語だけを話す人は2023年時点で全体の78%にのぼるものの、英語以外の言語を主に使用する人は約6896万人に増えています。
家庭で話されている言語 全米の5歳以上
2010年 | 2023年 | |
5歳以上の人口 | 約2億8922万人 | 約3億1658万人 |
英語のみ | 約2億2964万人(79.4%) | 約2億4547万人(77.5%) |
その他の言語 | 約5958万人(20.6%) | 約7111万人(22.5%) |
英語が流暢ではないと回答した人(Speak English less than very well) | 約2520万人(8.7%) | 約2760万人(8.7%) |
家庭で話す言語は、地域によってかなり違いがあります。国勢調査局のアメリカン・コミュニティ・サーベイ(ACS)によると、ワシントン州の状況は次のとおりです。このデータは2023年時点のもので、現在公開されている最新データです。
家庭で話されている言語 ワシントン州、シアトル都市圏とその郡
ワシントン州 | シアトル都市圏 | キング郡 | スノホミッシュ郡 | ピアス郡 | |
5歳以上の人口 | 約730万人 | 約383万人 | 約214万人 | 約78万人 | 約87万人 |
英語のみ | 約577万人(79%) | 約282万人(73.7%) | 約150万人(69.9%) | 約60万人(76.3%) | 約73万人(84.2%) |
その他の言語 | 約153万人(21%) | 約101万人(26.3%) | 約65万人(30.1%) | 約19万人(23.7%) | 約14万人(15.8%) |
英語が流暢ではないと回答した人(Speak English less than very well) | 57万人(7.9%) | 約36万人(9.5%) | 約23万人(11%) | 約7万人(9.2%) | 約5万人(5.9%) |
シアトル都市圏で英語が流暢でない人の言語トップ10
国勢調査局のアメリカン・コミュニティ・サーベイ(ACS)で、シアトル都市圏(シアトル〜タコマ〜ベルビュー都市圏)において「英語が流暢でない(Speak English less than “very well”)」と回答した人の言語トップ10をまとめました。

言語名 | 人口 |
---|---|
スペイン語 | 105,888人 |
中国語(北京語・広東語) | 57,358人 |
ベトナム語 | 33,793人 |
ロシア語 | 19,088人 |
韓国語 | 22,465人 |
アムハラ語、ソマリ語、またはその他のアフロ・アジア語族の言語 | 16,304人 |
ウクライナ語またはその他のスラブ言語 | 14,486人 |
タガログ語(フィリピン語を含む) | 14,418人 |
イロカノ語、サモア語、ハワイ語、またはその他のオーストロネシア語族の言語 | 8,260人 |
タイ語、ラオ語、またはその他のタイ・カダイ語族の言語 | 6,400人 |
家庭で話す言語について「日本語」と回答した人の数は18,179人。そのうち「英語が流暢でない(speak English less than “very well”)」と回答した人は6,325人でした。
ワシントン州法での決まり
ワシントン州では、英語を十分に話せない住民(LEP:Limited English Proficiency)との効果的なコミュニケーションを確保し、行政サービスへのアクセスを向上させるため、政府機関が多言語サービスを提供することを義務付けています。
また、ジェイ・インスリー知事が2022年に発令した命令により、州の機関は言語アクセス計画を策定・実施し、英語が堪能でない(LEP)住民との効果的なコミュニケーションを確保することが求められています。
これには、医療、福祉、法律支援などの重要な公共サービスを提供する機関、重要な文書(申請書、通知書、公的給付に関する情報など)、口頭通訳サービスが含まれ、公平性局(Office of Equity)と言語アクセスプログラムによって監督されています。ワシントン州で優先的に対応される言語は、広く使用されているスペイン語、中国語、ベトナム語、ロシア語、タガログ語、韓国語、ウクライナ語です。
RCW 74.04.025:非英語話者が「一定数以上」存在する州の機関は、必須文書の翻訳や通訳サービスを提供することを義務付けられています。詳細はこちら。