かつて、この地域は豊かな森林に覆われていました。雨水はゆっくりと土壌に浸透し、自然のプロセスによってろ過されながら川やピュージェット・サウンドへと流れ込んでいました。
しかし現在、この地域の汚染原因の約80%は、雨水流出(stormwater runoff)によるものとされています。森林が開発されたことで、雨水に含まれる油や重金属、化学物質などの汚染物質が土壌や植物によって十分に吸収・分解されないまま流出してしまうのです。
今回、キング郡の水資源・土地資源部門によるレントン市のツアーに参加して雨水処理施設などを回り、キング郡が環境保護のために何を行っているのか、私たちが日々の生活でできることは何かを学んできました。
シーダー・リバー:サーモンの生態系と有害化学物質6PPD-q
2020年、自動車のタイヤに含まれる有害化学物質「6PPD-q」が雨水を通じて川に流れ込み、特定の種類のサーモンをわずか数時間で死に至らせることが判明しました。キング郡の毒物学および汚染物質評価担当スーパーバイザー、ジャネー・コルトン氏によれば、この化学物質が原因であると特定するまでに20年の歳月がかかったといいます。
6PPD-qはタイヤの寿命を大幅に延ばす目的で使用されており、この物質なしではタイヤは約2ヶ月で交換が必要になることから、タイヤ製造業界は代替物質の開発に注力しています。
しかし、雨水にさらされた有害物質を含むサーモンを摂取する人間にも上リスクが高まるため、雨水の浄化が急務となっています。
そこで、キング郡では6PPD-qを含む有害物質への対策として、雨水処理方法の研究と実験を進めています。
上の写真で、一番左の未処理の雨水は見た目にも汚れているのがわかりますが、処理をした雨水は見た目にもきれいになっています。実験では、処理済みの水では6PPD-qの濃度が減少しただけでなく、未処理の水で死亡したコーホーサーモンの稚魚が、処理済みの水では生存することも確認されています。また、6PPD-qの軽減だけでなく、他の有害物質の除去にも成功するという大きな発見がありました。現在もさまざまな処理方法のオプションを実験し、どの場所にどのように処理施設を設置するか検討しています。
Monroe Infiltration Facility ワシントン州最大の雨水浸透施設
レントン市の Monroe Avenue NE には、ワシントン州最大規模の雨水浸透施設(うすいしんとうしせつ)があり、245エーカー分の雨水流出を処理しています。
雨水浸透施設の目的は、雨水を地下に浸透させることで、下水道や河川への流出を抑え、シーダー・リバーの汚染を削減し、水資源を保護すること。実は、この施設が建設される以前、245エーカー分の未処理の汚染水はそのまま排出されていましたが、このプロジェクトにより、恒久的な雨水処理が可能となりました。その結果、浄化された雨水が地下水帯をリフレッシュし、レントン市や周辺地域への飲料水供給を保護することにつながっています。さらに、大雨が降った時に NE 4th Street が冠水するリスクを軽減することができるため、レントン工科大学、Monroe Ave NE、King County Emergency Management center、Renton and King County maintenance services などの重要施設への通勤路の安全性も向上しました。
このプロジェクトは小規模な住宅にも適用可能で、雨水流出や汚染物質が環境に与える影響を可視化する取り組みの一環です。
この施設を通じて、雨水流出の行方や、流出時に含まれる汚染物質、さらにはそれが川や湖、飲料水の健康にどのような影響を与えるのかを可視化し、対策を講じることが目的です。
サンセット・ネイバーフッド・パーク
2.9エーカーのサンセット・ネイバーフッド・パークには、バイオリテンション(植物と土壌による雨水ろ過)、雨水浸透ギャラリー、透水性舗装の歩道(permeable sidewalks)が設置されています。
これらは地面に雨水が浸透する前に汚染物質をろ過して地下水を浄化すること、雨水の流出を抑制することで冠水のリスクを減らし、地下水を再補填することが目的で、きれいな水をジョンズ・クリークやレイク・ワシントンに供給することにより、サーモンの生息環境も改善されることになります。
バイオリテンションエリアの植物は見た目にもきれいで、透水性舗装の歩道は利便性を維持しつつ雨水を表面に溜めず、浸透させます。この技術は個人住宅にも応用可能。レントン市ではジョンズ・クリーク流域を優先的に整備する計画です。また、ピュージェット・サウンド地域では、雨水処理と公共スペースを組み合わせた大規模な雨水公園の建設が進められています。
NE 16th St と Jefferson Avenue NE の小規模なバイオフィルタレーション
このプロジェクトにより、舗装が劣化し、歩道もなく、排水設備がほとんどなかった NE 16th Street と Jefferson Avenue NE が、透水性舗装の歩道やプランター・ストリップ、雨水処理ユニット、車道の再舗装、排水システムを備えた「グリーン・ストリート」へと生まれ変わりました。新たに設置された歩道によって徒歩でのアクセスが便利になり、車道と歩道の間のグリーン・ストリップで安全性が高まり、排水システムによって道路の冠水リスクが軽減されたほか、雨水処理ユニットにより、ジョンズ・クリークやメイ・クリークに流れ込む雨水がよりきれいになったことが確認されています。
レントン市は、プロジェクト実施前に地域住民と定期的に意見交換を行い、住民の要望である「安全な道路と効果的な雨水管理」を実現しました。特に、徒歩で通学する子どもたちを含む歩行者からの満足度が高まっているとのことでした。
汚染を軽減するための3つの対策
レイン・ガーデンの整備
汚染を軽減する一つの方法として、レイン・ガーデン(rain garden)の整備があります。レイン・ガーデンは雨水流出を効果的に管理するために設計された庭や景観エリアのことで、今回は公園や歩道沿いなどに整備されたレイン・ガーデンを確認しましたが、雨水が建物や道路の硬い表面から流れ込む際、土壌や植物によって浄化されるよう工夫された小規模の土地に設置できます。レイン・ガーデンのメリットには、次のようなものがあります:
- 浸透: 雨水をゆっくりと地中に浸透させることで、地下水の補充を促進します。
- 浄化: 植物や土壌が、雨水に含まれる汚染物質(油、重金属、化学物質など)を吸収または分解します。
- 洪水の軽減: 雨水の流出量を減らすことで、洪水リスクを軽減します。
レイン・ガーデンは、都市部や住宅地での雨水管理に特に有効で、有害な流出水を最大30%削減することが可能とされています。また、庭のように草木が配置されることで、景観も向上させる効果があります。
雨水管理システムの強化
もう一つの方法は、開発が進んだ地域で、道路や駐車場、屋根などの硬い表面に雨水を管理するシステムを強化することです。また、自動車のタイヤやペットが原因の水質汚染を防ぐには、排水システムへの大型投資が必要とされています。雨水管理システムの整備によって、川や海の水質が改善するだけでなく、洪水の軽減や緑地の増加といったさらなるメリットにもつながります。
今後の課題
今後の課題として、気候変動による降雨パターンの変化や日常生活から生じる汚染物質が環境に与える影響への対策が求められています。特に、激しい嵐や洪水が増加する中で、環境・野生動物・海洋生物・地域社会への影響を最小限に抑える必要があります。そのためには、森林の浄化機能を再現する雨水管理システムの構築が重要であり、タイヤの粉塵などの汚染物質の削減にも取り組むことが必要です。また、水域は行政区を越えてつながっているため、地域社会や企業が連携し、汚染を防ぐ責任を共有することが鍵となります。