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ワシントン大学のデビッド・ベイカー教授、ノーベル化学賞を受賞

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ワシントン大学医学部の生化学教授で、UW Medicine Institute for Protein Design(タンパク質設計研究所)の所長を務める生化学者デビッド・ベイカー氏が、2024年のノーベル化学賞を受賞しました。受賞理由は、計算によるタンパク質設計での業績が評価されたことです。

ベイカー氏は、タンパク質構造予測の分野での業績を評価されたディープマインド社のデミス・ハサビス氏とジョン・M・ジャンパー氏と共にこのノーベル賞を受賞しています。スウェーデン王立科学アカデミーでの授賞式は、12月10日に行われる予定です。

9日にワシントン大学で行われた記者会見で、ベイカー氏は、タンパク質を「私たちの体やすべての生物において重要な役割を果たす小さな機械」と説明しました。この画期的な研究が行われる前は、進化の過程を通じて生まれた、自然界に存在するタンパク質しか知られていませんでしたが、自然界に存在しない、まったく新しいタンパク質を設計して作り出すことにより、医療を発展させ、環境問題を解決しようとする画期的な取り組みが、今回のノーベル賞受賞につながりました。

10月9日にワシントン大学のスザロ図書館で行われた記者会見

「タンパク質は、生き物が直面するすべての問題を解決しています。もし新しいタンパク質を作ることができれば、現代の問題、例えば長寿化によって生じたアルツハイマー病や癌、地球温暖化や環境汚染など、新しい問題を解決できるかもしれません」

この研究で新しい機能を持つまったく新しいタンパク質を設計できるようになったことから、医療分野では癌に特異的かつ正確に働き、より安全で効果的な治療法となるようなタンパク質や、自己免疫疾患における免疫システムの異常な活動を抑えるタンパク質最も懸念されるウイルスをブロックするタンパク質の設計が進められているそう。さらに、環境分野ではプラスチック分子や環境中の他の汚染物質を分解するための化学反応を行うタンパク質や、太陽光と相互作用して光合成の効率を高めるタンパク質炭素固定を促進するタンパク質の設計も行われています。その他には、ワシントン大学の他の研究者と協力し、メタン放出問題にも取り組み始めています。

「今、非常にエキサイティングなのは、人類が直面している多種多様な問題を見て、それらを解決するためのタンパク質をデザインすることだと思います」とベイカー氏。

「そして、私はとてもラッキーです。世界中からワシントン大学に集まってきた、非常に優秀でエネルギッシュな学生やポスドクがたくさんいます。彼らはそれぞれ、自分が解決したい問題を持っていて、例えば、メキシコから来たスザンナは、ヘビの毒の主要成分をブロックするタンパク質を設計し、より優れた抗毒素を作ろうとしています。他の学生たちは、光合成の効率を改善しようと取り組んでいます」

「本当に様々な分野で、今はやるべきことが山ほどあります。つまり、私たちがこれから与えられる影響は、ほんの始まりに過ぎないと思います。私は全てのプロジェクトに魅力を感じていて、本当に興奮することだけに取り組んでいます。この分野の面白いところは、あらゆる方向に可能性が広がっていることです」

ベイカー氏の研究が与えた影響は幅広く、これまでに発表した査読付き論文は640以上、取得した特許は100以上、共同設立したバイオテクノロジー企業は21社にも及びます。また、タイム誌の「ヘルス分野で最も影響力のある100人」に選ばれたほか、クラリベイトの引用栄誉賞受賞者に名を連ね、2024年にはSTAT Newsの「ライフサイエンス分野で最も影響力のあるリーダーおよび変革者50人」に選ばれました。

シアトルでワシントン大学教授の両親のもとに生まれたベイカー氏は、ガーフィールド公立高校からハーバード大学に進学し、当初は社会学、次に哲学を専攻しましたが、最終年度に受講した生物学の授業がタンパク質とその折り畳みの仕組みに興味を持つきっかけとなったそう。その後、カリフォルニア大学バークレー校の大学院で生物学の分野に進み、1993年にワシントン大学で初めてタンパク質の折り畳みの問題に取り組み始め、まったく新しいタンパク質を設計するというテーマにつながっていきました。

「改めて、ワシントン大学、特に生化学科には感謝します。最初の段階で私を受け入れてくれたおかげで、自由に科学を追求できました。実際、計画があったわけではなく、常に3ヶ月先のことさえ見通せませんでしたから」と、ベイカー氏。

「タンパク質の設計には、世界をより良くする大きな可能性があると考えています。そして今は、まだそのほんの始まりにすぎません」

UW Medicine のCEOでワシントン大学医学部の学部長であるティモシー・デリット博士は、ベイカー氏のAI(人工知能)とタンパク質設計を活用した研究の医療や環境問題の解決への取り組みを称え、「デビッドがまだ最盛期にある時に、このようなことが起こるのは素晴らしいことです。彼がこれから何を発見するのか、楽しみでなりません」と述べました。

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