ワシントン大学の東アジア研究の中心で、毎年6万人以上が利用するタテウチ東アジア図書館の閲覧室が、タテウチ財団の支援でリニューアルされました。
最近訪れた方は、このタテウチ東アジア図書館の入口が、ガラス張りになって、雰囲気が明るくなったと感じたはず。館内に入ってすぐのところはラウンジチェアで読書が楽しめるスペース、左手には中国・日本・韓国の文化を紹介する展示ケースとインフォメーション・カウンター、右手には新しい展示ケースが並び、その奥には定期刊行物の棚と、全体を見渡せるようになりました。
膨大な東アジア関連資料を所蔵する図書館
タテウチ東アジア図書館は、中国、日本、韓国、台湾、香港を含む、東アジアの資料や刊行物を所蔵している図書館。ワシントン州最大の公立大学であるワシントン大学にあり、2019年6月時点で、中国語、日本語、韓国語、チベット語、満州語、モンゴル語などの東アジアに関する所蔵物は85万点を超えています。
詳しく見ていくと、文芸誌などの定期刊行物、研究書、文芸書、趣味、芸能、多読の本(レベル0〜5)、絵本、参考資料、ビジネス、政治など、幅広い内容が揃えてあり、面白いものでは、お祭りやお墓などの事典まであります。
こうした所蔵物は、教員や学生はもちろん、ジャーナリスト、一般市民など、誰でもアクセスできるようになっています(一般の貸し出しは有料)。
図書館に求められる、東アジア関連資料のデジタル化
サブジェクト・ライブラリアンの田中あずささんによると、以前から電子書籍を増やそうという流れがあるそうですが、日本語のものはアカデミックなものではデジタル化されていないものが多く、なかなか難しいとのこと。
「今の大学生はもちろん、今の子どもたちは、すぐに情報にアクセスできる状態で育っています。でも、日本の何かについてレポートを書きたくても、資料の入手に2週間かかるとか、映像資料がDVDでしかない(手元にDVDプレーヤーがない)、日本以外ではアクセス制限があって見られないといったハードルに直面すると、デジタル化されているものが日本より多い中国や韓国を選ぶこともあります。そういったことでは、日本研究にも影響が及んで、日本は置いていかれてしまいます」
一方、アメリカにおいてはデジタル化は前提で、現在の課題はアクセシビリティ(利用しやすさ)だそう。たとえば、コンピュータの画面を読み上げてくれるスクリーンリーダー(screen reader)を導入することで、視覚に障害のある人がアクセスしやすくなり、同時に、外国人や留学生など、他のマイノリティにとってもメリットが生まれることもあります。
タテウチ東アジア図書館の歴史
タテウチ東アジア図書館の設立は、1937年にワシントン大学がロックフェラー財団から提供された資金を使い、中国の文学作品の小さなコレクションを購入したのが、そもそもの始まり。
その後、コレクションは増え続け、1940年代には2万点を超えましたが、まだ名称もなく、一覧も作成されず、手入れもされないまま、構内のスザロ図書館に作られた「オリエンタル・セミナールーム」に収納され、教員と学生がリクエストすることでしか利用できないようになっていました。
このコレクションに名称が付けられたのは、第二次世界大戦後の1946年。The Far Eastern Institute(極東研究所)が設立され、オリエンタル・セミナールームのコレクションは Far Eastern Library(極東図書館)となりました。そして、1948年に取得したジョージ・カーのコレクションが日本関連のコレクションの基礎となり、第二次世界大戦中に米国陸軍の教育目的で集められた韓国関連の資料が、韓国関連のコレクションの始まりとなったのです。
1950年にトムソン・ホールの地下室に移転した後もコレクションは増え続け、1976年には現在のゴーウェン・ホールの3階に移転し、東アジア図書館となります。2020年にはワシントン大学卒業生のタテウチ夫妻が創設したタテウチ財団からの600万ドルの支援により、タテウチ東アジア図書館として新しい一歩を踏み出しました。
現在は、文学、芸術、建築、ビジネス、公衆衛生、法律など、東アジアに関連するあらゆる分野に及ぶ貴重な研究資料を保管しており、その中には作成された国では入手できないものも含まれます。
タテウチ東アジア図書館は、ワシントン大学の東アジア研究において必要不可欠な存在であり、北米においても東アジアに関する研究と教育のための地域、国家、国際的な情報基盤を提供している有数の図書館の一つとなっています。