アメリカ合衆国の連邦最高裁判所が人工妊娠中絶を合憲とした1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を示した24日、西海岸のワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州の知事は、中絶や避妊の権利を保障する「リプロダクティブ(生殖)の自由に対する複数州のコミットメント」を共同発表しました。
今回の連邦最高裁の判断は、妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピー州法は違憲ではないとしたものです。(Dobbs v. Jackson Women’s Health)
これにより、各州はそれぞれ独自の州法で中絶の権利を保障したり禁止したり、規制を強化したりできるようになりました。
中絶の権利を支持する団体 Guttmacher Institute は、2018年のブレット・カバノー判事の就任で連邦最高裁の構成が変更されたことにより、「ロー対ウェイド」の判断が大きく損なわれるか、覆される可能性が出てきており、覆されれば、各州の1973年以前の中絶禁止令や、現在施行されていない1973年以降の中絶禁止令が発効する法的な道筋が確立される可能性があると警鐘を鳴らしてきました。
同団体によると、今回の最高裁の判断を受け、中絶を禁止したり、規制を強化したりすると見られる州は、全米50州のうち26州。そのうち13州では、「ロー対ウェイド」の判断が覆ったことで、自動的に、または州政府が迅速な手続きでほとんどの中絶を禁止する、いわゆるトリガー法が成立しています。
一方、西海岸のワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州は、今回の最高裁の判断に備えて、生殖医療へのアクセスを拡大するための行動を起こしてきました。
これら3州の知事が24日に発表した「生殖の自由に対する複数州のコミットメント」は、中絶や避妊薬を含むリプロダクティブ・ヘルスケア(生殖医療)へのアクセスを守り、他州が中絶禁止措置を拡大しようとする動きから患者や医師を守ることを約束しています。
ニュースリリースによると、ワシントン州の対策には、マタニティケアサービスを含むすべての医療プランに中絶と避妊も含めることを義務付ける「リプロダクティブ・パリティ法」(2018年)、カトリック系病院で診療する医師が、女性の生命が危険にさらされている場合、倫理的・宗教的な指示を回避し、医学的に必要な中絶を提供できるようにする「妊娠保護法」(2021年)、ワシントン州で中絶を求める人に中絶医療提供者がサービスを提供することをより確実にする「Affirm Washington Abortion Access Act」(2022年)が成立しています。また、ワシントン州法では、患者やクリニック関係者はクリニックの外での嫌がらせから守られます。その他、家族計画クリニックへの資金提供など、詳細はニュースリリースで確認できます。
また、インスリー知事は25日に行った記者会見で、中絶を禁止または厳しく制限している州からワシントン州に中絶を求めて来る人に対する他州の法執行当局からの告発の要請に協力しないよう指示する予定で、この方針を州全体の方針とするための法案を支持すると述べました。
州政府に加え、市や郡で中絶の権利を保障するところも、今回の最高裁の判断を受け、さまざまな対策を発表しています。シアトルのハレル市長は、「ノースウエスト中絶アクセス基金を通じて、生殖医療へのアクセス拡大の取り組みに25万ドルを投資することを求める」と発表し、シアトル・キング郡公衆衛生局主導の継続的な取り組みへの支援を補完するとしました。また、シアトルのあるキング郡のコンスタンティン行政長官は、安全な中絶を実現し、人工妊娠中絶を求めてキング郡に来る人に医療施設が対応できるよう、合計100万ドルを緊急補助金などとして提供することを決定したと発表しています。
大手企業の中には、社員の中絶手術にかかる費用を負担すると発表しているところもあります。
今回の最高裁判所の判断を受け、シアトルを含む全米各地で、この祝賀会と抗議活動が多数開催されています。