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第12回 Lawrence Halprin と、シアトルのフリーウェイ・パーク

筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

写真1

ダウンタウン・シアトルのコンベンション・センター南側にある Jim Ellis Freeway Park は、数あるシアトルの公園の中でも特に注目に値するものかもしれない(写真1)。

1976年にオープンしたこの公園の最も大きな功績は、インターステート・フリーウェイによって寸断されたシアトルの東側(Capitol Hill と First Hill)と西側(オフィス街)を結ぶのに成功したことであろう。

総面積5.2エーカーのこの公園は、上から見ると手のひらのような形をしており、一本の指は Capitol Hill(最北東端)、一本は病院街である First Hill(東端)、もう一本はコンベンションセンター(北西端)、そしてもう一本はダウンタウン・オフィス街(南西端)につながっているが、公園の半分以上が実はフリーウェイ(高速道路)の上に人口的に作られた土台に乗っている。

50フィート近くある成熟した木々の下に低木が茂り、綺麗に刈り取られた芝生の間を流れる小川の横を通ってこの公園を回遊すると、50フィート下では自動車がうなりを上げて往来しているとはとても感じられない(写真2)。

写真2

設計を手掛けたのは、1962年のシアトル世界博(現シアトル・センター)のランドスケープの設計も手がけた、世界的にも有名な Lawrence Halprin 事務所。Halprin 氏は大学院時代のクラスメートだった Philip Johnson や I M Pei などのモダニズムの建築家と交友があり、1949年の事務所オープン時から近代建築の強い心髄者だった。

また、常に利用者の視点に立って考えられた彼の公園設計理念は、利用者が隠れて見えなくなってしまいそうな原生林を思わせるエリアと、利用者自身があたかも役者であるかのようなエリアの両方を同時に経験するべきだということらしい。その理念は、手法の違いがあるにせよ、ちょうど100年以上も前にニューヨークのセントラル・パークを設計した Frederick Law Olmsted を思い出させる。

写真3

この公園の東側、University Street から Paul Pigott Memorial Corridor と言われる進入路を通って公園に入ると、40フィート以上ある杉やケヤキが、ジグザク状に配置された階段とその間を通りぬける車椅子用のスロープを囲んでいる。

2002年に公園内で起きた不幸な殺人事件を機に、犯罪が起きそうな人目につかない木陰は公園管理局によって伐採されてしまったため、残念ながら、利用者が隠れて見えなくなるような原生林のような場所は公園内で見られらなくなってしまったが、この進入路を歩くと森の中にいるような錯覚を起こす(写真3)。

公園南西側は Freeway Park Central Plaza と呼ばれ、広場の中心に30フィート以上あるコンクリート造の滝がある。Canyon と呼ばれるこの滝は、毎分2,700ガロンもの水をリサイクルする滝瀬になっている。

写真4

このコンクリートがむきだしの人工滝全体を見てまず思うことは、今はあまり見られなくなったブルータリズムという近代建築の手法だろう。

まるで堡塁を思わせるコンクリートの彫刻は時代とともにその斬新さは失われたかのようにも見えるが、天気の良い休日には、自然石を思わせる大きなコンクリートの壁の間にある回遊型階段を利用者が上り下りしたり、それを眺める利用者がいたりする様子を見ると、ここが Halprin 氏の2番目の設計理念を具体化している場所でもあることがわかる。

滝つぼの横に降り立つと、滝瀬の音が高速道路の騒音をかき消して、とうとうと流れる水の音とコンクリートの壁で囲まれた空間が、一種の瞑想空間を提供しているようだ。(写真4)

掲載:2011年7月

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