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第2回 オルムステッドの遺産 シアトル公園計画の歴史(前編)

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筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

1900年初期のキャピトル・ヒル周辺

写真1: 1900年初期のキャピトル・ヒル周辺 ©MOHI

街のすみずみまで落ち葉が目につく季節になった。この時期、普段あまり気に留めていなくても、紅葉・落葉狩りに近くの公園に足を運ぶ人も多いのではないだろうか。

お気づきのことと思うが、シアトルはとにかく公園が多い。市内に大小450の公園、485の施設建物、185の競技施設、122の子供用の遊戯場があり、公園と関係施設の総面積は総計6,200エーカーにもなる。シアトル市全体の面積(水面部分を除く)が83.87平方マイルなので、簡単に計算しただけでも、市面積の11%が公園か関連施設に使われているということだ。人口比で見ると、市民一人あたりの公園面積は約42平方メートル。東京都の5.61平方メートルと比べてみると、約7倍以上ということになる。

1851年にデニー氏が率いるグループがアルカイ・ビーチにたどり着いた時はまったく未開の原生林だった場所なのだから、そのくらいの森林が残っていてもおかしくないと考える方もおられるかもしれない。しかし、自然保存という発想がなかった当時、ワシントン湖畔の一部を除いて開発できるところは全て原生林を伐採してしまった。そのようにして20世紀初頭のシアトルは、入植当時の面影はまったくない碁盤目の街区が連なる一地方都市になってしまった。(写真1)

ただし、ひとつだけ他の地方都市と違ったのは、入植から52年たった1903年に稀に見る「総合公園計画」を立てたことだろう。この 『A Comprehensive System Of Parks And Parkways』 と呼ばれる計画書は当時、米国で最も注目されていた造園設計事務所、オルムステッド・ブラザーズ事務所(Olmsted Brothers)のシニア・パートナー、ジョン・チャールズ・オルムステッドによって作成された。

このオルムステッドという名前を聞いてぴんと来る人も多いはずだ。ニューヨークのセントラルパークを設計したことで有名なフレデリック・ロー・オルムステッドは、その当時すでに高齢のためシアトルまで来られず、養子であるジョン・チャールズが事務所の代表としてシアトルに派遣され、数ヶ月の滞在後、この総合計画書を書き上げた。

シアトル市公園局提供の公園地図

写真2: シアトル市公園局提供の公園地図-オルムステッドの関わった公園・施設が記されている

その計画書の中で彼は、「住宅開発によってどんどんなくなっていく水辺(レイク・ワシントンやピュージット湾)と山々の遠景が見える土地、残されている未開発の森林をできるだけ早く取得して、市民が利用できるようにする」ことを推薦している。

当地のオルムステッド友の会役員のスーザン・オルムステッド氏(ジョン・オルムステッドの遠縁にあたるらしい)によると、彼は早い時期から「借景」(マウント・レーニア、レイク・ワシントン、ピュージット湾などの借景)という手法を計画の中に取り入れていたらしい。彼の設計の最も重要な目標は公園、もしくは屋外遊技場をシアトルのすべての住宅から半マイル以内の距離に作ることだった。それと同時に、スワード・パークを起点として、ディスカバリー・パークまでの約20マイルのパークウェイ(公園通り)を作り、その上にいくつもの公園が連なるという構想を描いていた。その中には、既に市が市営公園として所有しているものもあれば、これから取得、もしくは開発する公園も多数含まれていた。

オルムステッド事務所

写真3: シアトル市公園局提供の公園地図-オルムステッドの関わった公園、施設が記されている(PDF はこちら

その後、1908年に再びシアトルを訪れたジョン・チャールズ・オルムステッドは、ウエスト・シアトルやマグノリアを含めたシアトル市全域に及ぶ公園計画、そして小さな公園、遊戯場の建設を提案をしている。彼はその計画書の中で、屋外遊戯場がいかに健全な都市生活に重要であるかも指摘している。(写真2)

オルムステッド事務所はそれ以後1936年まで、計画書にもとづいて進められた公園の設計・監理のため、何度となくシアトルに足を運び、民間の仕事も請け負っていた。(写真3)

オルムステッド事務所が直接または間接的に関わった公園、施設、パークウェイなどはまだシアトル市内に数多く残っている。来月はその中でも最も優れていると思われる公園とパークウェイを紹介したい。

掲載:2009年11月



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