著者プロフィール:水口 典久
兵庫県ワシントン州事務所所長。2012年4月にワシントン州にある同事務所に赴任し、兵庫県とワシントン州の経済・文化・教育交流の促進、および姉妹都市交流の支援を担当しています。兵庫県ワシントン州事務所の公式サイトはこちら。
はじめに
兵庫県とワシントン州が姉妹提携を結んだのは1963年10月。50年目となる昨年の8月19日には、兵庫県から井戸知事をはじめ約250名の訪問団がワシントン州を訪問し、州上院議会議場での記念セレモニーなど、各種の交流事業を行いました。
>> www.governor.wa.gov/wahyogo50/
私は、兵庫県側の責任者として、当事務所の雑賀裕子、ブライアン・チュの2人のスタッフとともにワシントン州側と準備を行いました。日本での地方自治体の姉妹都市交流は行政中心に準備が進められますが、米国ではボランティアを主体とする姉妹都市委員会を中心に進められます。また、予算も寄付集めが基本であるなど、全く違った進め方に最初は戸惑いましたが、最終的には、感動と笑顔あふれるすばらしい記念事業となり、市民レベルの活動が支えるアメリカの国際交流の進め方について多くのことを学びました。
実際にアメリカに住んでみて、こうした日米における考え方の違いを肌で感じています。両地域はこれまで、こうした考え方の違いをお互いに学ぶことによって成長してきたものであり、企業活動においてはその学びがブランド力となって企業の成長を支えていると考えています。
日米双方の市場で活躍する兵庫県企業と、兵庫県内でビジネス展開する米国企業について、ブランド力という視点から私のこれまでに経験をもとにご紹介をしたいと思います。今回は、ワシントン州に本社を持つ世界で第4位、全米で第2位の規模を誇る小売企業の「コストコ(Costco)」です。
ワシントン州発の世界企業「コストコ」の兵庫県での出店
私のワシントン州との最初の関わりは、約10年前、兵庫県庁国際経済課の海外企業誘致担当として、コストコ尼崎店の開設に携わったことから始まりました。アメリカでは「コスコ」ですが、日本ではコストコと呼ばれ、ワシントン州のイサクア市に本社を設置しています。2003年4月17日の尼崎店のオープンニングには、創業者のジム・シネガル氏が出席し、井戸知事、在大阪・神戸米国総領事をはじめとする関係者によるテープカットなどの式典が行われました。当時はシネガル氏のご子息であるマイク・シネガルさんが日本法人の社長をされていました。
その時の私の印象としては、会員制の倉庫での大きなロットでの販売であり、中小の飲食店などの仕入れ先としてはニーズがあるが、一般消費者に対しては、本当にこうした大量ロットの商品が売れるのだろうかとの疑問がありました。海外企業の進出では、地域のマーケットの消費行動に併せてローカライゼーションを行うことが基本であると考えていたからです。
コストコは、1999年4月に福岡県に最初の店舗を開店。現在、日本では18店舗を営業しており、兵庫県では、尼崎店のオープン後、2012年2月に神戸店がオープンするなど、着実に成長を遂げています。
ワシントン州に赴任する前に神戸店を見てきましたが、開店直後から駐車場待ちとなっていました。店内に入ると、高く詰まれた商品や大量のパックで売られている商品が並んでおり、そこには尼崎店同様に、私がイメージするアメリカのスーパーマーケットがありました。
しかし、ワシントン州に赴任して、アメリカの一般的なスーパーマーケットに行ってみると、コストコのような大量ロットでの販売ではなく、商品が一つずつきれいに棚に並んでいました。野菜や果物も量り売りで必要な量だけ買うことができます。大量ロットの販売は、コストコの販売マーケティングの特色であること、他のスーパーマーケットとのその違いがコストコのブランド力であり、同社の成長を支えていることに気がつきました。
日本において新たな買い物の楽しさを生み出す
2003年の尼崎店オープン時には、一般消費者への普及は難しいと思っていましたが、最近では経済雑誌などにも取り上げられるほど、コストコの日本での成長は話題となっています。
マーケティングとは、消費者が求めているものをイメージして、それを具体的な商品として作り上げることであると言われますが、まさしく、コストコはこれまでになかった「アメリカを感じながら買物をする楽しさ」を日本の消費者に対して生み出しており、また、大量ロットでの販売は、主婦が友達と一緒に買物に行って共同購入するという新たな行動を生み出しています。
コストコの日本法人のサイトには世界のコストコの会員数などの情報が次のとおり掲載されています。
>> www.costco.co.jp/p/aboutcostco/worldwide
ゴールドスター会員(会費4,000円(税抜))は全ての個人の方が対象です。ビジネ
ス会員(会費3,500円(税抜))は、すべての事業者、自営業、非営利団体、官公庁等の事業者、または事業主に相当する方が対象で、6名までの追加会員を登録できます。また、いずれも1名の家族カードを無料で取得できます。個人会員が2,890万人、ビジネス会員は1,010万人であり、個人会員の占める比率が高くなっています。
日本だけの数字はありませんが、現在の成長を見ると、日本においても、確実に、一般消費者の需要を開拓しているものと考えられます。
倉庫店総数 | 641(2013年10月18日付) | ||||||||||||||||
各地域の倉庫店数 |
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会員数 (2012年12月15日付) |
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創業者・シネガル氏の講演からわかるコストコのブランド力の源泉
2013年8月22日、兵庫県・ワシントン州姉妹提携50周年記念事業としてシアトルで関西セミナーを開催し、基調講演者としてシネガル氏にコストコの世界戦略や日本での展開についてお話をいただきました。創業者としてのオーラを感じる魅力的な講演であり、コストコが日本でも着実に事業拡大を進めている理由がよくわかりましたので、ご紹介します。
【シネガル氏の関西セミナーでプレゼンテーション要約 (2013年8月20日、シアトル市内ベル・ハーバー国際会議場にて)】
本日は、ご招待とプレゼンテーションの機会をいただき感謝いたします。
会場の皆様は、コストコ第一号店がこのシアトルにあることをご存知でしょうか?実は来月9月15日でこの第一号開店から30周年を迎えます。
<コストコの歴史について>
コストコは、1982年10月にジェフ・ブロットマンと私の2人で、昔働いていたサンディエゴのプライスクラブを模倣したビジネスを行おうと、シアトル地域およびカリフォルニア州の投資家から750万ドルの資本を調達し、立ち上げたのが始まりです。そのころ、同様の動きが各地で起こっており、ウォルマート系のSam’s Club、K−Mart系のPace、 Wholesale ClubやPrice Savers等が立ち上がっていました。当時はまさか、はるか彼方の日本に進出できるとは考えておらず、せいぜいタコマ市に進出できれば十分だろうと考えていました。
当初のビジネス・プランは、ノースウェスト地域に12店前後を立ち上げ、各店舗で平均売上げ8000万ドル、全店合計で10億ドルの売上げを達成し、少なくとも3%の利益を投資家に提供することでした。しかし、立ち上げ初年(1984年会計年度)で売上げ1.01億ドルを達成し、ソルトレイクシティ、タコマ、サウスセンター、フロリダに新たに店舗をオープンすることになりました。1988年にフレッシュ・フード・ビジネスを開始するなど、毎年何か新しい分野に挑戦していきました。1992年にメキシコに進出。1993年には英国に進出し、名前をPrice CostcoからCostco Wholesaleに改名しました。1995年に韓国に進出しましたが、皆様ご存知のとおりアジアでは土地の価格が高く、広い売り場スペースを確保するために店を垂直に拡大する必要がありました。翌年にはニューヨークに出店、1997年にはメンバーシップ・カードを導入し、メンバーへの様々なサービスを追加しました。1999年にEコマースビジネスを開始し、現在ではEコマースで25億ドルの収益を挙げています。1999年に日本初の店舗を久山(福岡)にオープンした際は、息子のマイケルが日本進出の責任者となって舵取りを行っていました。2000年にメンバー向けの旅行関連サービスを導入、2004年にアメリカンエクスプレスと提携したメンバーへの還元サービスを導入。2006年に洗車サービスを開始しています。
<現在のコストコについて>
コストコは現在、全米第2位、世界では第4位の規模を誇る小売企業です。会員数は3830万世帯、会員カード保持者は6990万人。2013年度の売上げ予測は1028億ドルで、世界に632の店舗と178,000人の雇用者を抱える大企業に成長しました。
コストコの商業戦略は、単純かつユニークであると言えます。(1)商品数を限定すること(例えばウォルマート等が14000アイテムをそろえるところ、コストコは3800アイテムに絞っています)、(2)それでいて、幅広いカテゴリーをカバーすること、(3)質の高いナショナル・ブランドを扱うこと、(4)取捨選択されたプライベート・ブランド(カークランド・ブランド)を展開すること、(5)全ての商品においてかなりの低価格を保証すること、(6)パッケージの改革、(7)新しい商品とサービスの提供です。
<コストコの使命>
コストコの使命は、「可能な限り安い商品とサービスを提供するよう努力し続けること」であり、効率的な運営、全部門におけるコスト削減を徹底しています。また、広告を利用しない(テレビ、ラジオ、紙媒体など一切行わず、全て口コミに頼っています)、PR部門を設置しない、主要クレジット・カードとの契約を行わない、ショッピング・バッグを配布しない、などの業務管理を行っています。コストコは1985年に上場しましたが、純売上高13.7%、純利益13.8%、株式価格17.2%の成長を遂げました。世界中に17.8万人の従業員を雇用していますが、素晴らしい従業員たちです。その報酬は、アメリカのみならず、世界において高い標準をキープしており、米国での平均時給は20.79ドルに達しています。離職率も年間11%と低く、一度コストコに入社した社員は長い間コストコに貢献をしてくれています。
今後の課題は、過去15年と同様の向上を今後の15年で達成していくこと、ステークホルダー(お客様、株主、従業員)へのコア・バリューを提供していくこと、製品とオペレーションの質をキープすること、小さい企業のように考え行動すること、です。これらは簡単なことではありませんが、実行していく所存です。
<コストコと日本>
コストコの日本第1号店は1999年にオープンした福岡の久山店ですが、現在は日本で17店舗展開しています。2013年の8月末には、愛知の中部空港に1店舗、2014年は大阪に1店舗増える予定です。2014年3月には兵庫の三木に物流センターがオープンします。
日本のコストコで最も売れる商品の一つは、驚くべきことに米国、韓国と同様、ホットドッグです。同様の売れ方をしている製品としてダウニーの柔軟剤がありますが、これは大変興味深いと考えています。
これがコストコのストーリーです。日本・関西でも展開できていることは大変喜ばしいことだと考えています。これからも北米のみならず、アジアでの展開を進めていきますが、特に日本は最も注力している地域であり、拡大していきたいと考えています。2014年4月には日本で19店舗展開することになりますが、今後はその数を50店舗にまで増やす計画でいます。本日はお招きいただきありがとうございました。
まとめ
シネガル氏が講演で語った、「コストコの使命は、可能な限り安い商品とサービスを提供するよう努力し続けること」、そして、その使命を果たすための7つの商業戦略は、日本でも同様に実践されています。それがブランド力となって、「倉庫に積み上げられた商品や大量ロットの商品をアメリカを感じながら買う」という新たな楽しさを日本の消費者の間に生み出すとともに、「可能な限り安い商品とサービスを提供する努力」が確実に受け入れられているのだと思います。
アメリカの商業界のカリスマであるシネガル氏から学ぶべきことはたくさんあります。兵庫県三木市では、2014年3月に完成予定の物流センターのオープンに向けて職員の募集が始まっており、県内の新たな雇用創出という意味でも大きな貢献をいただいています。
次回は米国で販路を拡大している川崎重工業についてお話したいと思います。
掲載:2014年2月