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第4回 兵庫県と米国・ワシントン州との学生交流 -国際人とは何かを学ぶ学生たち-

著者プロフィール:水口 典久
兵庫県ワシントン州事務所所長。2012年4月にワシントン州にある同事務所に赴任し、兵庫県とワシントン州の経済・文化・教育交流の促進、および姉妹都市交流の支援を担当しています。兵庫県ワシントン州事務所の公式サイトはこちら

昨年の8月19日、ワシントン州議事堂で開催された兵庫県とワシントン州の姉妹提携50周年記念式典に、兵庫県からは知事をはじめ250名の訪問団が参加し、教育・文化・経済など各分野で笑顔と感動の交流を行いました。

この50周年をきっかけに、兵庫県とワシントン州の交流はより活発に行われています。今回は、ビジネスの話題から少し離れて、兵庫県と米国・ワシントン州との間で行われている学生交流の取り組みについて、ご紹介します。

大学間交流 - 交換留学などによる海外体験 -

 (1) 兵庫県立大学シアトル事務所としての新たな役割

今年の7月から当事務所に新たな機能が加わりました。それは、兵庫県立大学シアトル事務所としての機能です。兵庫県は世界に5つの海外事務所を設置していますが、そのうち、シアトル、パース、パリ、香港の海外事務所に県立大学の事務所が設置されました。役割としては、県立大学の (1)学術交流協定先大学との交流、(2)インターンシップ(ボランティア)の受け入れ、(3)海外研修訪問団派遣事業に関わる業務補助などです。

県立大学の看板の前で

ワシントン州では、エバーグリーン大学と県立大学の前身の神戸商科大学が大学間協定を締結し、1979年4月からは学術交流を、1988年9月からは学生交流を行っています。兵庫県立大学の本田祥恵さんがエバーグリーン大学に交換留学生として留学し、同大学での授業終了後、7月から8月まで当事務所でインターン生として、研修を行いました。

本田さんは研修を始める前、「留学を通して一番大きく変わったのは、自分の中での「国際人」の定義です。私の留学の目的は国際人になるためでしたが、留学前は 『英語を流暢に話し、言葉の壁を感じることなく会話ができる人だけが国際人である』 と思っていました。でも今は、 『自分の意見を持ち、他国の人にそれをしっかり伝えることができる人が国際人なのではないか』 という考えに変わっています」と話してくれました。

ジャングルシティの「留学生による留学生のための学校案内」に本田さんの記事がありますので、ぜひご覧ください。

(2) 神戸大学からの短期インターンシップ(ボランティア)の受け入れ

神戸大学からの短期インターンシップ(ボランティア)の受入れを2003年からスタートし、これまで当事務所で30名の学生の受け入れを行っています。この取り組みは2004年からパースの兵庫県の海外事務所でも行われています。

今年も8月25日から9月12日まで、2名の神戸大学の学生が、ホームステイをしながら当事務所において、9月6日と7日にベルビュー・カレッジで開催されたイーストサイド日本祭り(秋祭り)における当事務所のブースでの兵庫県の PR の企画・準備・実施を担当しました。また、神戸大学とワシントン大学は、全学・部局間協定を結んで交換留学を行っており、ワシントン大学で学ぶ神戸大学の留学生も当事務所での活動に参加してくれています。

姉妹都市交流による高校生・中学生の相互派遣
- 約30年~40年続く学生相互派遣 -

神戸市とシアトル市をはじめ、兵庫県の10の市町とワシントン州の12の市が姉妹都市提携を結んで交流を行っています。その取り組みの中で、特に、中学生と高校生の相互派遣が活発に行われています。これは、お互いにホームステイをしながら学校訪問や文化体験を行うもので、例として、3市の交流についてご紹介します。約30年から40年にわたって、こうした学生の相互の交流が続いていることは、両地域の行政と市民ボランティアの方々の努力と連携の賜物だと思います。

(1)ワラワラ市と篠山市(1972年提携)

今年の3月24日から4月4日まで、姉妹都市である篠山市とワラワラ市の交流事業として、篠山市の高校生11名がワラワラ市を訪問しホームステイをしながら交流を行いました。

クミンズ市長を表敬訪問

3月25日のクミンズ市長への表敬訪問など、姉妹都市委員会の会長のキーツご夫妻が約20年にわたって、ワラワラ市側の交流の要として尽力しておられました。クミンズ市長は教師から市長になられ、篠山市の高校生と意見交換を行うなど、温かく迎えてくださいました。

キーツ会長の話では、姉妹都市交流にはワラワラ市からの直接の支援はありませんが、公園の建物の管理(会場使用の手続きなど)が姉妹都市委員会に任されており、その収益を姉妹都市交流に役立てているとのことです。

篠山市においても、ワラワラ市と同様、市民組織である姉妹都市委員会が1972年に設置され、42年を迎えた今でも、高校生の交換留学を柱に、着実に交流が行われています。今年の10月には、ワラワラ市の高校生が篠山市を訪問する予定です。

(2)オリンピア市と加東市(1981年提携)

浴衣を着て花火大会に参加

7月31日から8月9日まで、ワシントン州の州都のオリンピア市の高校生16人が加東市を訪問しました。オリンピア市では オリンピア・加東姉妹都市委員会のミラー会長を中心に姉妹都市委員会のメンバーがボランティアとして交流活動を積極的に支えられています。

1981年の姉妹都市提携と同時に市民交流団の派遣がスタートし、学生の派遣事業は1988年から27年間、相互派遣として毎年実施しています。 訪問団は、加東市国際交流協会のアレンジにより、ホームステイをしながら、市長を表敬訪問したほか、県立社高校での部活動(剣道・柔道・書道・美術など)を体験するとともに、保育園で児童との交流、また、盆踊りの指導を受けた後、浴衣を着て同市花火大会に参加するなど、多くの市民と交流しながら日本文化を学びました。

また、訪問団は兵庫教育大学で学生と交流するとともに、県立広域防災センターを訪問し、日本の防災について学ぶとともに、地震体験装置や火災時の煙からの避難訓練なども体験。最終日には涙しながらホストファミリーと別れを惜しみ、「必ず日本に帰ってきます」という言葉も聞かれました。

  

(3)レントン市と西脇市(1969年提携)

西脇市とレントン市は1969年に姉妹都市提携を結び、今年で45周年を迎えました。また、中学生の相互交流は今年で28回目を迎え、今年秋のレントン市の中学生の西脇市への訪問は27回目を迎えます。8月16日から26日まで、西脇市から中学生14名が、レントン市の中学生の家庭にホームステイをしながら、レントン市長・教育長への表敬訪問、学校訪問、シアトル市内観光など、レントン市の中学生と一緒に活動しました。

ロー市長を表敬訪問し、生徒が英語で代表あいさつ

レントン市側でこの活動を支えているレントン市・西脇市姉妹都市委員会のリシャート会長が交流のスタートからずっと支援されています。

お昼の食事も両市の子供たちがそれぞれのホームステイ先で準備されたものを一緒に食べている姿に、レントン市民の家庭の温かさを感じました。

ロー市長は、2011年4月に西脇市を訪問されたことがあり、「西脇市は美しい街であり、素晴らしい人たちがいる」と話されるなど、今年10月18日からの片山市長を代表とする姉妹提携45周年記念西脇市市民親善訪問団のレントン市訪問を楽しみにされています。

姉妹校交流 - 縁で結ばれる学校 -

(1)「ニューヨーク市立バルーク高校」と「県立伊丹高校」との交流

今年の6月まで在ニューヨーク日本国総領事館で勤務されていた神戸市出身の金子稔弘前領事に縁を繋いでいただき、2012年12月から県立伊丹高校とニューヨーク市立バルーク高校との交流が行われています。

2013年12月にバルーク高校を訪問した県立伊丹高校生

秋田校長先生は、「行く前は英語が話せるかどうかで頭がいっぱいだった生徒が、帰国後、『英語はもちろん大切だが、もっと大切なのは人間だとわかった。自分を磨く、もっと力をつける』と話すなど、バルーク高校との交流によって生徒の成長を感じる」と話されています。

また、「今年の夏は、過去3回は生徒15名ずつの相互訪問、ホームステイでしたが、今回のバルーク高校の生徒は5名でした。訪日の7月が近づくにつれ参加を取りやめる生徒がじりじり増えて、実は大変に心配しました。その原因が『お金が貯まらなかった』であり、バルーク高校の生徒たちは日本へ来る費用を自分で働いて用意することを知って、日米の違いを感じた」と話されました。なお、今年の12月には15名の伊丹高校生がバルーク高校を訪問します。

同校のホームページには、交流に参加した生徒の感想が掲載されています。ここで、2013年7月にバルーク高校の生徒を受け入れ、12月に同校を訪問した伊丹高校の女子生徒の感想文をご紹介します。

私はこのバルーク高校との国際交流プログラムを通して、自分の意思を相手に伝えることの大切さや日本とアメリカの文化の違い、積極性などたくさんのことを学びました。私はこのプログラムに参加するまでは、海外に出た経験もなければ、同年代の外国人の子と交流したこともありませんでした。だから自分の未熟な英語でちゃんと伝わるのかとか、間違った英語で相手を不快にさせてしまったらどうしようとかすごく不安でした。でも今は、英語の得意、不得意に関わらずお互いを理解しようとする姿勢や、自分の意思を伝えようとする気持ちの方が大事だったなと思いました。

>> 県立伊丹高校ホームページ

(2)イェルム市立プレイリー小学校と明石市立松ヶ丘小学校の音楽を通じた交流

ソコリック・奈緒子先生

50周年記念式典で日本語の歌を披露したイェルム市立プレイリー小学校が、明石市立松ヶ丘小学校と音楽を通じた交流の準備を進めています。

イェルム市プレイリー小学校のマクラーレン校長先生と松ヶ丘小学校の谷口校長先生は書簡で話し合いを進め、今年の7月にはプレイリー小学校で子供たちの音楽指導を行っているソコリック奈緒子先生が松ヶ丘小学校を訪問し、今後の交流について相談されました。

明石市立松ヶ丘小学校では、地域の方々も参加する「ふれあい音楽会」を毎年開催し、今年4月28日には、指揮者の佐渡裕氏が同校を訪問して音楽特別授業を開催するなど、音楽に力を入れています。

昨年8月19日の50周年式典で歌う子供たち

また、イェルム市プレイリー小学校の子供たちは、50 周年記念式典後も、ソコリック先生の指導のもと歌唱力をますますつけており、1月18日のオリンピア市のお正月イベントや、4月25日のシアトル桜祭など地域のイベントで、日本語の歌を披露しています。

プレイリー小学校では10月15日に開催する音楽祭で、松ヶ丘小学校との交流を発表する予定です。兵庫県とワシントン州の初めての小学生の交流が進むよう、私も応援しています。

50周年記念式典での子供たちの素晴らしい歌声は、次のサイトで映像をみることができます。 ※54分から59分(『さくら』『上を向いて歩こう』) 

tvw.org

国際交流における学生交流の意味

(1) 市民が支える米国の国際交流

日本での地方自治体の姉妹都市交流は行政中心に準備が進められますが、米国ではボランティアを主体とする姉妹都市委員会を中心に進められます。昨年の兵庫県・ワシントン州姉妹提携50周年記念事業においても、予算も寄付集めが基本であるなど、全く違った進め方に最初は戸惑いましたが、最終的には、感動と笑顔あふれるすばらしい記念事業となり、市民が支える米国の国際交流の進め方について多くのことを学びました。

兵庫県とワシントン州の姉妹都市交流をベースとした学生交流を見ても、ワシントン州では市民ボランティアが中心となった姉妹都市委員会が、イベントなどでの寄付集めによる予算を基本に、市民ボランティアが協力し、兵庫県からの学生の受け入れやワシントン州からの学生の派遣を行っています。

また、学校間交流では、県立伊丹高校の秋田校長先生が話されているように、アメリカの学生の渡航経費は、家族からの支援ではなく、自分たちで寄付を募る活動やアルバイトをして準備をしています。

(2) 国際人とは何かを学ぶ学生たち

インターネットが発達して、世界の情報を簡単に入手できるようになりましたが、留学をして「国際人」とは何かとの考え方が変わったと話してくれた兵庫県立大学の本田祥恵さんのように、勇気を持って一歩踏み出した学生は、米国・ワシントン州で貴重な経験をしています。

兵庫県の各市の代表としてワシントン州を訪問した高校生・中学生や、学校の代表として、ニューヨークの高校を訪問した高校生は、これまでに学んだ英語が通じるか心配をしながら到着します。しかし、その後、素朴な人の優しさに触れ、日本とアメリカの違いを学び、お互いを思いやることの大切さと、日本の良さを知ってもっと日本のことを学ばなければと感じ、国際人は何かということを学んでいます。

こうした地域間の国際交流は、多くの関係者に支えられながら、兵庫県の若者に、海外の同世代の若者との交流と、世界の中での日本そして郷土の文化、歴史に関心を持つきっかけをつくり、その経験がその若者の成長に役立っていると考えています。

当事務所では、今後とも、こうした兵庫県と米国・ワシントン州との教育交流を支援していきます。

掲載:2014年10月

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