これまで5回にわたり「日本企業の課題と存続へのアプローチ」と題し、日本企業の抱える課題を考え、今後どう存続していくことができるかということに関する内容で書かせていただいてきました。
しかし、日本の商習慣にどっぷり浸かっている経営者や会社員の方々は、「売り上げ」や「利益」というポイントを突く言葉の出てこないこのコラムを読んでも、「何をもって企業を存続していくのか」をまだ完全に理解されていないかもしれません。
最終回の今回は、まとめとしてその「何をもって」という点について考えていきたいと思います。
企業の「軸」と「芯」をはっきりさせよう
企業などの組織が存続し続けることは、簡単なことではありません。日本独特の「老舗」といわれる商売でも、変化についていくことが難しいのが現状です。本来「老舗」というのは時代の変化を柔軟に生き抜いてきたからこそ「老舗」と呼ばれるほどに成長してきているわけです。人や社会に受け入れられない企業は、財政状況も悪化するのは当たり前ですし、そうなってしまうと存続など長期的なことを考えている暇もないでしょう。「自転車操業」という状況に陥ることも多いかもしれません。
世界各地の経営者と話していると、ある共通の難しさを抱えていることに気づきます。その中でも大きなことは、「短期的な目標達成と長期的な目標設定に自分と会社の時間とリソースをどう配分すればよいのか悩んでいる」という点です。
売り上げや利益などの金銭的な結果だけを追いかけると、企業は短期的な成果物を取りにいく作業と長期的な目標の狭間で軸を見失ってしまいます。それは、ある意味当たり前のことです。限られた企業のリソースの中で、短期的な活動と長期的な活動というのは、言わばシーソーの関係にあるのです。軸のずれたシーソーに乗るのは、誰しも怖いもの。そこに乗っている社員や社員の家族、お客様や投資家は徐々にそのシーソーから降りていってしまうでしょう。それでも華やかに見せかけたシーソーには、わずかながら新しい社員やお客様が寄ってくる状態が続いたとしても、やがては評判が落ちて徐々に先細りになってしまいます。
例えば、ボーイングを例にして考えてみましょう。同社には航空機を設計し、世に送り出すという役割があるわけですが、製造した航空機に人を乗せることではなく、市場に必要とされる航空機を世界中の人たちと協力して設計し、その部品を供給してもらうことで、ボーイングの収入を世界中で分かち合うという「軸」を持っています。ボーイングの場合、「芯」は「航空機を生産し続けること」、「軸」は「世界の人が関わってくれる航空機を設計すること」でしょう。
マイクロソフトの場合、会社の理念というのが今までいくつかありました。例えば初期は「世界のデスクに1台づつPCを」というものでした。現在は「地球上のあらゆる人と組織がより多くのことを達成できるように」というものです。どちらも時代に沿った「軸」ですが、「人の世界をより便利にする」という「芯」は変わっていません。
このように「軸」と「芯」をしっかり据え置くこと、時代の変化に対応することが、企業が継続する鍵でしょう。それが会社の使命となり、社員の使命感を刺激することになるのです。
企業として、常に「やさしさ」「思いやり」を大切に
使命感をしっかり持った企業でも、社会にいる人たち、すなわち協力者やお客様、株主などの「人」に嫌がられていては、うまくいきません。日本では企業が何か失敗をすると、社会もやさしさや思いやりを忘れた態度を取りますし、逆に企業が優しさや思いやりに欠けていることも多くあります。こうした状況をアメリカから観察していると「どっちもどっち」に感じます。
しかしアメリカではあまりそうした感覚を持って企業を観察することがありません。アメリカの企業も失敗や失態はあります。しかし、間違いを潔く認める企業は逆に社会の人に応援されます。間違えたからといって「すぐに社長はやめなさい」となることは少なく、「この間違いに責任を持って対処してください」となります。以前、ユナイテッド航空職員の利用客に対する態度が大きな問題になったことがありましたが、その時もユナイテッド航空の社長は次の日にお客様と株主にメールなどでお詫びし、調査して出た結果を確認して自分の責任で状況を正していくプランを出すと宣言しました。
結局、企業も社会も人で成り立っているわけで、人は失敗することもあれば、悪いことをしてしまうこともある。それはどちら側にいても同じことで、企業としてはいかに「社員とその家族」「お客様」「投資家」「社会(未来のお客様)」全ての人に対して思いやりを持って対応できるかが鍵になります。そして、社会もそうした潔い企業を応援するぐらいの気持ちを持って欲しいものです。
CSRの回でもお話しした通り、企業の役割を有償・無償、どんな方法をとるにしても、人や社会へ向けた活動をやさしさを持って行う限り、企業は存続することができるようになるわけです。
現在の日本の若い世代の方には、こうしたことが感覚的にわかっている人も育ってきているようです。こうした小さな努力をやがて大きなものにしつつ、長く存続して社会に寄与できる企業が増えてくれると良いと思っています。
執筆:鷹松弘章(たかまつ・ひろあき)
1998年にMicrosoft Corporation 日本支社に入社し、2001年から米国本社にて技術職の主幹マネジャーとして Windows などの製品開発の傍ら、採用、給与・等級の決定やレイオフに携わる。2017年にデータ解析大手の米国 Tableau Software(タブロー)入社。スターティアホールディングス株式会社などの社外取締役も務める。個人でもエグゼクティブコーチングやコンサルタントとして活動。日本国内の大学・高校・企業などで講演活動も行っている。詳しくは hiroakitakamatsu.com で。
このエッセイの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。