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第1回 「働き方改革」ではなく、「働き方文化の改革」を

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今日の日本では「働き方改革」という言葉が、流行り言葉となってあちらこちらで使われています。日本ではどうしても「働き方」=「勤務時間」という概念がいまだに強いように思いますが、そもそも働き方改革とは、具体的に何を指すのでしょうか。

有給休暇に関するデータなどもありますが、国際的に見ると日本は飛びぬけて祭日の多い国で、有給の取得を遠慮させられたりしても、結局、働く時間はそれほど長くないのです。それにも関わらず、日本は働き方がおかしいなどと言われたり、改革しなければと言われたりするのはなぜなのでしょう。

もくじ

働き方は「時間」「祝祭日の日数」だけで決まらない

実は働き方というのは、「時間」や「休暇」だけを指している訳ではありません。例えば、私の今の職場での例ですが、私がマネージャを務めるチームでは、週に一回ほどあるチームミーティングで全員が同じ会議室に揃うことは珍しいです。どういうことかと言うと、ある人は自宅から、ある人はオフィスから別のオフィスへ移動中の車から、ある人は出張先や旅先の外国から、携帯電話のカメラや会社支給のラップトップのカメラを使ってお互いに顔を見ながら、ミーティングができるからです。自宅からの人は後ろを子供が走っていたり、犬がいたりします。そんなふうに場所を選ばずに仕事をしているわけです。

もうひとつの例で言うと、私は自分が管理しているチームには、「基本的な勤務時間に、家の用事、子供の学校や習い事などに時間を使う場合でも、有給休暇を使わないように」と必ず念を押します。それは、今の時代、携帯電話やラップトップ、タブレットなどを持っていればどこでも仕事ができるので、まったく仕事をしない・勤務先からの連絡も受けない状況でない限り、有給休暇を申請する必要がないのです。

私は新卒時代に日本でソフトウェアのエンジニアとして働きましたが、当時の統括部長はとても先進的な方で、「電車に乗っていても、バスに乗っていても、ご飯を食べていても、君たちは仕事のプログラミングのことを考えている。それは紛れもなく勤務時間なのだから、有給休暇はきちんと取って休みなさい」と、おっしゃっていました。

最近、日本の会社をお手伝いする機会が多いのですが、日本の会社員の方にこういう話をすると、「そうは言っても上司が、会社が、それを許す文化がない」という言葉が返ってきます。おそらく、かなりのケースでそれが今の日本の現実なのでしょう。

しかし、そうなると、働き方を改革するということは、文化や考え方を改革しなければ、働き方は改革されないのです。なので私は最近、「働き方改革」という言葉を使うことをやめ、「働き方文化改革」と言うようにしています。

未来の世代の働き方は?

働き方は、この10年から20年の間にさらに激変するでしょう。すでに、欧米の「ミレニアル世代(1980年から2000年の間に生まれた世代)」は、会社に帰属して会社の指示を受けながら働くという働き方を止めて、生活・子育て・仕事・健康管理・休暇が今よりも緊密に絡み合った働き方を求めており、それを実現している例がたくさん出てきています。

例えば、世界のトップを走るゲームプラットフォームメーカーで、シアトルの東隣のベルビュー市に本社を構える Valve 社では、有給休暇もなければマネージャもいません。全員が働きたいときに働きたいプロジェクトを選んで働くというスタイルで、世界のオンラインゲームプラットフォームの市場では群を抜いています。そういう働き方をすると、実は効率良く働くことができるという好例です。会社の中には、社員の子供たちが放課後に来て遊んだり勉強したりする場所もあれば、ご飯を食べるスペースも大きくとって有ります。詳しくは、日本のゲーマーの方が翻訳した Valve 社の新入社員マニュアルを参照してください。

もっと言えば、これからの世代は会社に拘束されることを極端に嫌うでしょう。これは日本でも同じことが言えます。スタートアップなどが増えていることからもわかるように、「自分たちで会社を興す」という機運が高まっているのは、法整備だけでなく、人の考え方が変わってきたからです。アメリカでは、こうした世代の会社は兼業・副業に関してできるだけ自由なルールを作り、これからの世代を採用していこうと躍起になっています。しかし、これから20年先にはこうした世代、そしてその次の世代が世の中の中心になっていくことを考えると、もっと個人と個人とが繋がって仕事をするスタイル、それもプロジェクトベースに仲間を変えていく形で仕事をしていくスタイルがさらに一般的になるはずです。これが、今の世界の働き方の方向性であり、自然の流れになってきていると思います。

もちろん、学校の先生や医者道路工事の作業員など、実際にその場所に行く必要のある仕事、ある程度の時間をひとつの場所で拘束される仕事はまだまだありますし、変えられない部分もあるでしょう。しかし、変えられる部分は変えて、もっと自由に、そして家族や友人、ペットとの時間を大切にした働き方という形を作るのが、私のいるIT業界の人たちが社会に対して貢献しようとしているものなのかもしれません。

執筆:鷹松弘章(たかまつ・ひろあき)
1998年にMicrosoft Corporation 日本支社に入社し、2001年から米国本社にて技術職の主幹マネジャーとして Windows などの製品開発の傍ら、採用、給与・等級の決定やレイオフに携わる。2017年にデータ解析大手の米国 Tableau Software(タブロー)入社。スターティアホールディングス株式会社などの社外取締役も務める。個人でもエグゼクティブコーチングやコンサルタントとして活動。日本国内の大学・高校・企業などで講演活動も行っている。詳しくは hiroakitakamatsu.com で。

このエッセイの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。

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