MENU

第5回 行政と企業の二人三脚で都市と企業の成長を実現

  • URLをコピーしました!

シアトルは今や全米経済成長率のトップを走る都市となりました。ボーイングやスターバックス、アラスカ航空などの産業に加え、IT関連のマイクロソフトやアマゾンが成長していることが要因です。

シアトル市の人口は72万人程度、日本の都市と比較すると、静岡市ぐらいの人口です。一つの経済圏としてのシアトル・タコマ・ベルビュー大都市圏は387万人と、横浜市を約15万人上回る程度で、大都市統計地域(メトロポリタン・スタティスティカル・エリア:MSA)の全米比較では約380中15位になります。そんなシアトルは、なぜ成長し、世界に羽ばたく数々の企業を輩出できているのでしょうか。

もくじ

シアトルが成長した大きな要因

もともとシアトルは「雨が多くて住みづらい」と言われていました。私がマイクロソフトのエンジニア採用の担当として世界各国を周っていた2000年から2010年ごろは、最終面接をマイクロソフト本社で終え、候補者に人事担当者がオファーレターを送っても、かなりの確率でオファーを受けてくれない時代がありました。その一番の原因は、面接に来たときのシアトルの気候。カリフォルニアやヨーロッパ南部から来る候補者は、面接時の雨にうんざりし、引っ越しをしてくることを嫌がったのです。この現象は家族がいる人ほど顕著でした。

当時、マイクロソフトの人事担当部署や、採用担当のマネージャー、そして社会貢献チームで集まり、「この問題をどう解決するか」という話し合いを何度もした記憶があります。そこでの会話は、「シアトル地域が家族で楽しめる街になるために、企業としてできることは何か」というものでした。

社員のボランティア活動なども盛んで、地元のNPOと協力するというシステムはあり、そこに文化的、教育的なNPOなども参加していました。当時、ボーイングやスターバックスも同じような採用の悩みを持っていたので、徐々に「お互いが協力して地域を盛り上げ、子供や家族を連れてきたい街にしよう」という動きが高まったのを覚えています。

文化的なことで言えば、オーケストラやバレエ、サイエンス・ミュージアム、水族館や博物館、すべてがNPOによる運営だったので、シアトル地域の企業は年間スポンサーとして億単位の寄付をしていたのです。

行政と NPO の負担を企業が減らす

もともと、シアトル地域の企業はマイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツなどの影響を受け、社会への貢献、地元への貢献という考え方が強い企業が多く、地元の行政機関やNPOとの協力がスムーズに運んでいたと思います。これには、NPOも、それを支援する企業も、税制優遇を受けられるという恩恵が大きな影響を及ぼしていました。

そうしたシステムを上手に活用するシアトルの企業は、教育・文化への金銭的・人的貢献を加速させました。NPOや行政機関のディレクターに企業の現役社員が就任したり、給料を受け取りながら勤務先の企業が連携しているNPOや行政機関で1年間働くプログラムを実施したりして、企業・行政機関・NPOが密接に連携していったのです。そうすることで、企業は税制優遇が受けられ、地元は盛り上がり、行政機関は「小さな政府」でいることができ、NPOは必要なリソースが集まるという循環が始まりました。

ちなみに、シアトル市は現在の人口が約72万人ほどと言いましたが、市議会の議員は8人の議員と1人の議長しかいません。合計で9名です。まわりの小都市の議員数は2名や3名程度です。日本の同規模の都市では考えられないサイズでしょう。

大きな視野で見てみると、アメリカの連邦政府は国のサイズに比べてとても小さいものです。それを可能にしているのが、先に述べたような企業から地元への金銭的循環にNPOや地元行政が含まれるからで、住民が税金を納め、国がその税金を地域に配分する作業が最小限に抑えられ、循環が加速する効果があります。さらに言えば、人口が多いところほどその循環が充実していくので、必要なところに必要な援助がいきわたりやすくなるわけです。

こうして、企業の地域貢献は、企業のため、地域のためとなり、結果として行政の負担を減らしながら、行政が都市計画の指針を出すことで、地元の企業やNPOがそれに沿って進んでいく性質を持っています。

最近、マイクロソフトがシアトル地域の収入格差から来る住宅問題に巨額の支出をして低所得・中所得者層の住宅整備を支援することを発表しましたが、街や地域の空洞化を起こしては企業の存続に関わることを理解している上での行動でしょう。

このように、都市計画とその実行は行政のものだけではなく、企業との二人三脚で行うという現代の方法の好例が、シアトルの発展から読み取ることができます。

執筆:鷹松弘章(たかまつ・ひろあき)
1998年にMicrosoft Corporation 日本支社に入社し、2001年から米国本社にて技術職の主幹マネジャーとして Windows などの製品開発の傍ら、採用、給与・等級の決定やレイオフに携わる。2017年にデータ解析大手の米国 Tableau Software(タブロー)入社。スターティアホールディングス株式会社などの社外取締役も務める。個人でもエグゼクティブコーチングやコンサルタントとして活動。日本国内の大学・高校・企業などで講演活動も行っている。詳しくは hiroakitakamatsu.com で。

このエッセイの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。

  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ