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第50回 5分間のエメラルド・シティ:スターバックスへの想い (2)

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シアトルへ出張中に訪問したスターバックス本社

シアトルへ出張中に訪問したスターバックス本社

面談に応じてくれたスティーブは、実に気さくな紳士だった。カジュアルな服装がいかにもシアトルらしい。クールビズだのスーパークールビズだのスローガンが声高に提唱されつつも、堅苦しいワイシャツに身を包み、通勤電車でぎゅうぎゅう詰めにされ、肩で息をしながら会社へと向かうサラリーマンたち。Japan, Inc. の光景を見慣れた目には、西海岸のリラックスしたスタイル(もっとも、これは服装にはとどまらず、ライフスタイル全般に通じることだが)は新鮮に映った。コンプライアンス関連の話をあれこれと聞いた後、私は肝心の質問をした。日本のスターバックス、アメリカのスターバックス。両社を隔てるものは何なのだろう、と。

それは、こういうことだ。シアトルでスターバックスに入り、モカを注文するとしよう。お馴染みのグリーンのロゴをつけたエプロン姿のバリスタが、耳たぶに光るピアスを揺らせながら、カウンター越しに微笑みかける。「ホワイト・チョコレート・モカ? Good taste! 僕もそれが一番のお気に入りなんだよ。」または、注文とは全く別に、こんなコメントが出ることもある。「そのネックレス、素敵だね」、「最近、天気がいいでしょ。この週末は、何か特別な予定でも入ってる?私は、ボーイフレンドとビーチにでも出かけようと思ってるのよ。」アメリカ人が得意とする small talk である。実際、私の行きつけだったスターバックスでは、店員と客の間で日常的にお喋りに花が咲いていた。「うちの息子、ようやく仕事を見つけてね。やっと、無職の生活にピリオドを打ったんだ。」初老の男性が、キャラメル・マキアートを待つ傍ら、父親として安堵の表情を覗かせれば、湯気の向こうでバリスタが目を細めつつ、快活に言う。「おめでとう!これで、あなたも奥さんも、ひと息つけるって訳ね。」私の場合、生後間もない娘をスリングに入れ連れて行った回数が多いせいか、赤子を中心に会話が展開していった。「あれっ、見るたびに大きくなってるよね」、「プーさんの帽子、似合うじゃない」、「うちの妹も妊娠して、予定日が来年の夏なんだよ。指折り数えて、待ってるんだ。」

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