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第50回 5分間のエメラルド・シティ:スターバックスへの想い (2)

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東京都心のスターバックス

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実は small talk どころか、日本の店員の応対は、完全にマニュアル化されている。「お客様、お飲み物は店内でお召し上がりですか? お持ち帰りですか?」「ポイントカードはお持ちですか?」「(ないと答えると)それでは、お作りしますか?」「(「結構です」と答えると)、失礼致しました。」「お飲み物は、あちらのカウンターから、お取りください」、「ありがとうございました。ごゆっくり、どうぞ。」哀しくなる程に、いつもいつも同じパターンが繰り返される。そこに個性をキラリと光らせる隙間は入り込まない。お辞儀の仕方さえもが同じように見え、店員 A さんと店員 B さんを区別するのも難しい。きっちりと線引きをし、その明確な境界からはみ出ることなく、お行儀よく、折り目正しく生きることを期待されるのが日本である。昔も今も、それは変わりない。決まりきったパターンの中で、ほぼ機械的に応対をこなせねばならない店員の方も味気ないのではないか。そんな老婆心が湧き上がる。もっとも、「あら、そんなことないですよ。明文化されたパターンをきっちり守る方が楽だし、効率的じゃないですか」という反論が来るかもしれない。「大体、small talk なんてものが必要なんですか?日本の店員は接客の態度もきっちりとしていて丁寧。お釣りを間違えるようなこともない。日本のカスタマー・サービスは世界一、二の質を誇るといっても過言ではないでしょう?」「別に、店員のデートの話なんて聞いたところで、こっちには何のプラスにもならないし。マニュアル通りであっても、基本をきちんと抑えてくれる方がいいじゃないですか?」確かにそうかもしれない。だが、私は small talk の文化をあくまでも一例として引き出しているに過ぎない。

毎回どの店でも判を押したかのように繰り広げられる接客の手順は、折り目正しく生真面目な日本社会を反映するかのようだ。それは、あまりにも predictable つまり次に何が起こるか極めて予測しやすいだけに、安堵感が生まれやすい。終身雇用崩壊の声が高まる中、定年退職まで気の遠くなるような年月を同じ会社に捧げる企業戦士の生き方を彷彿とさせる。みんなと同じ。昨日と同じ。ワイシャツを着、ブリーフケースを提げ、通勤電車に吸い込まれる。その安定感の中では、冒険心や開拓者精神が育ちにくいのも、また事実だろう。芝生であぐらをかいたり、ゴロンと横になったりで、時には破れたジーンズの穴から膝小僧を覗かせたりしながらも、「これが、自分」と生きていく。それも悪くないよ、と口を尖らせたい衝動にかられるのは、私が若いうちに海外移住を決め込んだ異端児だからだろうか。

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