大小さまざまな IT 企業が集中するシアトル地域で行われているコンピュータ教育とは? Google で働くエンジニアの今崎憲児さんによる実録エッセイ。
筆者プロフィール:今崎 憲児(いまさき・けんじ)さん(通称:ケンジ先生)
Seattle IT Japanese Professionals (SIJP)スタッフ。現職は Google の Android 部門のテストエンジニア。神戸市生まれ、熊本県育ち。九州大学情報工学科修士課程修了、カールトン大学コンピュータサイエンス PH.D. 卒。シアトルには2004年から在住。その間、Amazon と Google でさまざまな職種を経験。今興味があるのは、子供に対するコンピュータ教育と熊本地震救済活動。公式ブログはこちら。
前回は教材の作成について述べました。今回はクラスの準備と授業の実施についてご説明します。
当日までの流れ
1. 場所と時間の決定
教材の作成と並行して、場所と時間などを決定します。現在は主にキング郡図書館を利用しています(申し込みリンク)。ただし、人気があるので、前もって予約(3ヶ月前から予約可能)が必要となります。また、土曜日はすぐ埋まってしまうため、日曜日のクラスの実施が大半となります。嬉しいことに、会場のレンタルは無料です。
2. 告知
場所や時間が決まったら、宣伝文を含む企画書を作り、告知を開始します。具体的には、登録されているメーリングリストに流したり、SNS(Facebook や Twitter など)、シアトルの日系メディアに告知します。これらの作業は、SIJP の広報部門の担当です。
このジャングルシティさんにも大変お世話になっています。
SIJP のスタッフはボランティアなので、スタッフの時間のある時に行います。効率をあげるため、ここでもスタッフ間の連絡には、チャットのように短くかつ瞬時に連絡できる Slack を利用しています。ただ、いろいろな仕事があり、このプロジェクトマネジメントの効率化は課題が残ります。
3. チケットの配布
告知と同時にチケットの配布を開始します。SIJP では eventbrite を使っています。使いやすく、無料でチケットが作成できるだけでなく、SIJP でも使用しているワードプレスのプラグインを使用して、さまざまな拡張が可能です。
最初のころは子供達が本当に参加してくれるか不安でしたが、たくさんの方々のご協力のおかげで、最近のクラスでは、クラス開催の1週間前にはチケットがなくなります。無料なので、キャンセルが比較的多く発生しますが、Eventbrite には Waitinglist の機能があり、キャンセル分のチケット発行が簡単にできて重宝しています。有料のイベントのチケットの発行も簡単にできます。
4. ティーチング・アシスタントの募集
ティーチング・アシスタントの数がクラスの成功を左右する場合があるので、SIJP 内で募集をします。過去、SIJP スタッフの忙しい時期と重なってしまい、子供達の保護者の方にお願いしたこともありました。その場合は前もって教材などを保護者の方と共有していました。皆様のご協力に、心から感謝申し上げます。
スライドは子供達の興味を引くように、絵や動画などをたくさん入れるようにしています。また、難しい漢字にはふりがなをつけるようにしています。SIJP のスタッフによるフィードバックをすぐに反映できるようにしています。基本的には、Google Docs 上で作成し、SIJP 内部で瞬時に共有できる環境で行っています。
授業当日
SIJP では、皆様の募金で購入したプロジェクターやスピーカーを使用します。これらを会場に運搬して、セットアップをします。ただ、日曜日の図書館の開館時間は午後なので、あまり準備に時間が取れない場合があります。SIJP の多くのボランティアにより準備が行われます。保護者の方に机や椅子の配置を手伝っていただくこともありました。
何にせよ、念入りな準備が欠かせません。例えば、コンピュータロジックの講座で用いるモンスターバトルでは、たくさんの材料が必要になりますし、床にフローチャートを書く必要があります。各処理ごとにアシスタントを置き、子供達がスムーズに流れるようにしました。これには、アシスタントとの念入りな打ち合わせが必須です。この時は早めに会場に入って、ミーティングをしました。
クラウドの講座では、子供達の人数分の Google アカウントのセットアップや、共同作業するためのいくつかの文書(Google Docs)が必要となりました。前日までに可能な限りの準備を行いますが、当日の微調整は必須です。
実際の授業
実際の授業では、できるだけたくさんのボランティアにアシスタントになってもらい、先生一人に対する子供の割合をできるだけ少なくするようにしています。
たくさんの SIJP のスタッフが、SIJP の T-shirt を着て、教室の中を忙しく動きまわっているのを見るのはなかなか面白いです。学生スタッフにも、とても助けてもらっています。
子供達をリラックスさせるために、ドリフターズのいかりや長介(古いですね)ではないですが、挨拶をして、子供達の元気な返事が聞こえるまで何回もやるいうところから始めます。
そして、簡単に SIJP の紹介をし、授業を開始します。授業で大切にしていることは、情熱を持って教えることです。そのためには、もちろん、先生自身が情熱を持てるテーマや教材を用意する必要があります。その情熱が子供達に伝われば、真剣に聞いてくれます。先生の方も、子供達に授業の内容だけでなく教える情熱も伝われば嬉しいです。見学に来られたある学校の校長先生が、筆者の顔を見て、「そんなに嬉しそうな顔は見たことがない」とおっしゃったときは苦笑いしました。SIJP のスタッフは、コンピュータのことなら情熱を持って教えることができる人達ばかりです。
また、子供の目線に立つことが必要となります。つまり、今、子供がどう考えているかを表情などから読み取り、汲み取ることです。場合によっては、子供は想定外の行動に出るので、それに対処し、アドリブを効かせることも必要です。
例えば、コンピュータロジックの勉強(?)のために PPAP のビデオを見せて、それを好きな人を聞いたら、意外でしたが、誰も手を挙げませんでした。そこで、一人ずつ質問し、なんとか「好き」という子供を一人見つけることができました。大人が面白いと思ったものが子供に受けなかった良い例です。
中には、鋭い子供もいて、コンピュータの基本である2進法を教えていた時に「3進法はないんですか?」と聞いてきて、びっくりしました。もちろん、3進法も可能です(もちろん、誰も使いませんが)。
子供の集中力は1時間が限界です。夢中になってその時間を超えてしまうと、集中力がすごく落ちてしまいます。なので、クラスは1時間で、途中で休憩をとるようにしています。ただ、教えることがたくさんあるので、いつも時間オーバーしがちです。
最近の授業では、授業の後半で、子供達が学んだことや実際に作った作品を発表する機会を与えるようにしています。UX の講座では、びっくりするようなアプリを作る子供達がいました。
最後に、授業のまとめをします。今日習ったことが、実際に IT 企業やプログラミングの時に、どのように使われているかについて話します。
例えば、コンピュータロジック講座では、実際にモンスターバトルのコードを Java と Python でみんなで円になって音読しました。
次回は、Google のカークランドオフィスで実施した、英語で行った活動についてご紹介します。
掲載:2017年6月