そこで、次は排卵のタイミングを計って性交するステップに進むことになりました。タイミングを計るため、生理が始まってから何日目かにクリニックに行き、超音波検査で卵胞(follicle)の大きさをチェックし、直径を目視で計ります。卵胞は排卵の直前には一定の直径に達するのですが、それより小さすぎる場合はまた数日後に同じ検査を受けます。卵胞の直径が一定の大きさに達した時点で、お尻に HCG(Human Chorionic Gonadotropin:ヒト絨毛性ゴナドトロピン:性腺刺激ホルモン)の注射を受けて排卵を促進し、「この日の何時に性交をするように」と指示を受けました。
最初は卵胞を見るだけでサイエンス・フィクションのようなおもしろさを感じ、クリニックに行くのも楽しみでした。「この日の何時に」と言われた時に性交をするのは抵抗がある人がいるかもしれませんが、「そうしないと妊娠できない」と言われたら、とにかくやるしかありません。
私たち夫婦は当初、そういう科学的な治療を楽しんでいました。母親にも話し、科学の進歩はすごいなどと喜んでいたものです。1回目の治療の後に生理が来た時はガッカリしましたが、「まだ1回目だし」と前向きに考えることができました。でも、2回目、3回目も失敗すると、生理が来るたびに落ち込みます。
周りには治療を受けていることは言っていなかったので、落ち込んでいるのを悟られないようにするのにも気を使うことになりました。これまでも私が何も聞いていなくても「あの人、婦人科の病気で病院にかかってたんだって」「不妊治療もしたらしいよ」といったことをわざわざ言ってくる人がいたので、「人の口に戸は立てられない」ということは身をもって体験していましたから、自分の治療のことは絶対に言う気にはなれませんでした。
もちろん、こういったことを気軽にしゃべる人もいるでしょうが、人は人。私はいろいろ聞かれることも嫌でしたし、意見や批評も聞きたくなかったので、黙っていることにしました。特に夫も関わる不妊治療では、夫のプライバシーを守ることも大事です。軽はずみにしゃべってしまって後悔するより、誰にも一言も言わないことを選びました。
でも、このタイミング法を1年続けても妊娠しなかったので、だんだんイライラし始めました。さらに、私の生理の周期が治療を始めた1年前の28日~30日周期から30~33日周期ぐらいに開き始めたことで焦りも加わりました。
「どうもタイミングではだめなのではないか」と夫婦で話し合い、また先生のカウンセリングを受けることに。カウンセリングでは、「そうですね、1年やっても効果がありませんね、それではこうしましょう」と、先生から言われなかったことに驚きました。何度も聞いてはいましたが、アメリカでは自分から医師に言って意思表示をしなければ次のステップに進んだり、治療法を変えたりする提案がなされないこともあると痛感しました。
そして、カウンセリングの結果、次のステップである人工授精(アイ・ユー・アイ: IUI – Intra Uterine Insemination)をしてみることになりました。