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「どんな時もあきらめない粘り強さで、ワクワクする仕事をしよう」ソラコム USA 川本雄人さん

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米国で日本人の両親の間に生まれ、中学進学前に日本に移住し、大学卒業後に IBM に入社した川本雄人さん。その後、在職中にカリフォルニア大学バークレー校で MBA を取得し、投資銀行を経て、アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンにて日本事業の立ち上げに関わりました。約2年後にシアトルの AWS 本社に転籍しビジネスディベロップメントディレクターとしてデータベースや AI 系サービスを統括していましたが、2018年にソラコムの米事業責任者に就任し、日本発のプラットフォームとしてグローバル企業になることを目指す活動を支えています。そんな川本さんに、アメリカと日本での幼少時代から仕事観まで、幅広くお話を聞きました。

もくじ

クラウドへの移行で時代が変わった

ソラコムについて話すとき、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が起こした変化ついて話すのが一番わかりやすいかと思います。10年前までは、多額の初期投資をして大きなサーバを買ってきて初期設定して、ネットワークを引いてと、いろいろな作業が必要でした。でも、AWS を使うと、そんな多額の初期投資の必要性がなくなり、必要なだけ時間単価でサーバを利用できるようになりました。例えば、電気を使う場合、自分で線を引いたり、発電機を買ってきたりする必要がないのと同じですね。ものすごい勢いでクラウドの需要が伸びているのは、そういうことなんです。大型のサーバを自社で管理するとか、他社に多額の金額を払って管理してもらうとか、そういったビジネスは減っていくでしょう。

そして今、あらゆるデバイスがネットワークにつながり始めています。スマート家電もそうですし、クルマ、監視カメラ、インダストリー4.0に代表されるような製造業の製造装置もそうです。クラウドと同じようなことがIoT(Internet of Things)でも起こっているんですよ。ありとあらゆる物がどんどんネットワークにつながっていくと、ではどうやってそのネットワークをつなげるのか、「コネクティビティ」ということが一番の問題になります。従来のやり方だと、アメリカならAT&TやVerizon、日本ならNTTドコモやKDDIと契約を結んで、事前に「これだけのデータ量を使います」「何年間使います」と決めておいて、最初に初期投資をするのが一般的です。でも、これから増えていくIoTデバイスの需要を最初から見積もることがすごく難しいのです。そこで、「AWSを時間単価で使えるように、コネクティビティも同じように使った分だけ支払うシンプルなモデルが欲しい」と、いろいろな人たちが思い始めているのが見えたので、ソラコムのビジネスモデルが生まれたわけです。

「日本発のテクノロジー・プラットフォームをグローバルに」という志に共感

代表取締役社長の玉川憲さん(左)、川本さん、CTO の安川健太さん(右)

ソラコムは、僕の AWS の同僚が創業した会社なのですが、「日本発のテクノロジー・プラットフォームを作る」という志に共感したので、入社を決めました。南中北のアメリカ大陸を担当し、最初はアメリカとカナダを一つのターゲットとして、その営業や事業開発、マーケティングを含めた責任者として活動しています。

1980年代やそれ以前は、ソニーやトヨタ、ホンダなど、日本から世界に羽ばたいた素晴らしいテクノロジー企業がたくさんあったわけですが、ここ20~30年ぐらいはそういうところが出てきていないんですよね。

僕はアメリカ生まれの帰国子女ですが、日本人という気持ちはすごく強くて、世界に羽ばたくテクノロジーカンパニーがしばらく日本から出てないということにモヤモヤしているところがあったので、ソラコムの志にすごく共感しました。サービスを開始して2年でこれだけのプラットフォームを作ったソラコムの技術、すでに日本で獲得してきた9,000以上のユーザ数を見て、すごく可能性を感じ、やってみたいと強く思ったのです。

AWS と戦略が似ているんですが、AWSがどこで最初に成功したかというと、スタートアップ層なんです。今はもうよく知られている Dropbox や Airbnb、その昔は Instagram も、もともと AWS で作られた会社でした。なぜスタートアップがAWSを使ったかというと、サーバなどのインフラへの初期投資を抑えスモールスタートを可能にしたからです。実際にお客様がついて軌道に乗ってきたら、必要に応じてサービスをスケールする事ができます。スタートアップ立ち上げにかかる投資が小さくなったので、スタートアップ投資家も多くのスタートアップを支援できるようになりました。結果的に、星の数ほどのスタートアップが AWS を使ってアイディアを形にし、シェアリングエコノミーや動画サービスなど、社会を変えるイノベーションが生まれました。

ソラコムも同じようにスタートアップに使ってもらいたいと思っています。例えば、私たちのお客様に、Opendoor という不動産取引のプラットフォームがあります。従来の不動産売買では売り手がエージェントにいくらかの仲介料を払う必要があるところに、そのエージェントなしで売買できる仕組みを作ったのが、その Opendoor です。不動産を売りたい人が Opendoor に連絡すると、市場価格より少し低い売却価格を提示されます。その価格で良ければ、売り手は Opendoor に不動産を売却するんですね。Opendoor はその家を売れる状態にして、売りに出すわけです。ドアにはソラコムの SIM を使ったスマートロックがかかっているので、家の中を見たい人は、同社のサイトで見学を申し込み、その家まで行き、自分のスマホを使ってスマートロックをあけ、セルフサービスで見学できるようになっています。今後もそういう企業を見つけていこうと、シアトルやベイエリア、シリコンバレーなどで営業活動をし、デベロッパー向けにワークショップもやっています。

知らないうちに受けていた、世界のトップスクールからの影響

父がカリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得して、そのままアメリカの企業で働いていたので、僕はアメリカで生まれ、11歳の時に家族と日本に戻りました。

理系に行けと言われていたわけではありませんが、子供の頃に一つ言われていたのは、「MBAに行きたいならお金を出してやる」。結果的には僕はIBMから留学する形で父親も卒業したカリフォルニア大学バークレー校でMBAを取得しましたが、その言葉が頭に残っていたと思います。

また、コンピュータサイエンスやエンジニアリングで有名なバークレーの父のクラスメートとのソーシャルイベントに子供の頃から無理やり連れていかれていたことも、今になって父親に感謝していることの一つです。そういう世界の人たちがどういう考え方を持っていて、どういう仕事をしているのかとか、そういったことを身近に感じることができ、自分がテクノロジー業界に入っていこうとか、スタートアップ的なことをやってみようとか、そういうことを考えるベースになったのかもしれません。

両親が日本人で、家でも日本語を話していましたから、日本に戻っても言語的な苦労はそれほどありませんでした。苦労したのは、父親の仕事の関係で一年ほどして奈良に引っ越してからですね。関西とその周辺は言葉も違いますし、特有なカルチャーがありますよね。そもそも関西弁がわからないこともそうだったし、一番面白い人が人気者になるとか、ギャグが言えないとクラスであまり認められないとか、そういうカルチャーでは実はすごく苦労しました。笑いのセンスが必要ですよね(苦笑)。

一番大事なのは、「あきらめない力」「結果を出せる人

日本発のプラットフォームになることを目指す一方で、グローバル企業になることも目指していますが、やはり一足飛びではそこには行くことはできませんから、私のように日本とアメリカの間に立って橋渡しができる人が必要なのかなと思います。

かと言って、日本とアメリカで暮らした経験があれば誰でも間に立てるかというと、そうではないですね。創業者も私もAWS出身で、アマゾンの「Our Leadership Principles」にとても共感しているのですが、ソラコムもそれに影響を受けたリーダーシップ・ステートメントを持っていて、そのカルチャーにフィットする人がどうかを見て採用していますね。結局、採用が一番大事なんですよね。特にアメリカでビジネスを立ち上げるにあたって採用を失敗してしまうと、事業スピードが1~2年遅れてしまうので、とても慎重になります。

ちょっと前に流行った言葉で、「grit」というのがありますよね。その「諦めない力」「粘り強さ」というものは、テクニカルなスキル以前に、ものすごく大切だと思うんです。もう一つは、アマゾンのリーダーシップ・プリンシパルにもある、「Deliver Results」。「結果を出すこと」です。ものすごく賢い人や知識がある人にたくさんお会いしてきましたが、必ずしも結果を出せるかというと、そうではないんですよね。結果を出す人というのは、結果的に見ると「grit」を持っていたり、諦めない力を持っている、必ずしも IQ ではない。つまり、一番大事なのは、やはり結果を出せる人で、結果を出せる人というのはどういう人かというと、「grit」を持っている人ということになると思います。

新しく何かを始める場合、結局、新しいこと、わからないことが多くて、正解はない。なので、2~3ヶ月かけて計画を練って方向性を決めたとしても、間違っていたら悲惨ですよね。事業が3ヶ月ぐらい遅れてしまう。それよりも仮説検証を繰り返し、こういう仮説のもとにこれをやってみようとやってみて、それがだめならそれをベースにまた次のことにトライする、そういう性格やスキルの人が成功しやすいと思います。これには、技術も業界も関係なく、仕事でも部活でも受験勉強でも、何かをあきらめずにやってきた人には、そういう力があると思います。

諦めないことは、ある意味、才能ですね。特に、スタートアップでは、毎日が天国と地獄を行ったり来たり。ある日は自分が天才のように思えても、翌日は奈落の底に突き落とされるようなこともあります。なので、最終的なゴールを常に明確に保ちながら、そんなアップダウンの中でもひたすらゴールに向かっていける心の強さが必要かと思います。

シアトルの強みは、IT 企業が集中していることと暮らしやすさ

シアトルにアマゾンとマイクロソフトがあることは、人材を集める上でも、圧倒的な強みだと思います。今、ソラコムのオフィスのあるコワーキングスペースでも、元アマゾンとか元マイクロソフトとか、そんな人がそこらじゅうにいますので、両社がシアトルのテクノロジーコミュニティのベースになっていると感じています。

シアトルに来る前は、実はそんなに期待値は高くなかったんですけど(笑)、実際に来てみると、シアトルは暮らしやすいところじゃないですか。ワークライフバランスが高いし、ロサンゼルスやベイエリアに比べると通勤のストレスもそんなにないですし、そこそこ都会なのに、ちょっと外に行くと大自然があったり。子育をするにしても、教育レベルも高いし、気候も温暖で、インターナショナルな人も多いです。アメリカの他の地域と比べると、シアトルの人は空気を読んだりするとこが何となく日本人気質的なところがあったりします。また、西海岸だからアジアにもすぐに行けるという立地条件的もいいですよね。うまいミックスがあるなと思います。だから一度住むと離れがたいというのはあるでしょうね。気づいたら4年以上住んでいます。

仕事はワクワクすることが大事

実は、こうありたい、こうなりたい、という強い思いがあるわけではないんです。例えば、「自分でスタートアップをやって世界を変えたい」とかいう思いはなくて、純粋に自分がワクワクすることや面白いことをやっていきたい。老後に振り返ってみて、後悔がなかったなと思うキャリアを積んでいきたい。だから「ワクワクすること」「いろんなことにチャレンジしていきたい」「グローバルに活躍したい」「それなりにお金を稼ぎたい」そういうところを軸にしてキャリアを考えているんです。

若い学生さんとお話しすると感じるのは、何を軸にして考えたらいいのかわからないのだ、ということですね。やはり、「好きなことをやれ」と言われるのが一番難しいと思うんです。「これが好きでたまらない」みたいな思いが何に対してあるのかわかっていない人に「好きなことをやれ」と言っても、その人は何をしていいかわからない。それより、面白いとか、ワクワクするとか、そういうふうに感じるものにチャレンジしてみればいいのではないかと思います。

また、特に学生さんは、テクニカルに考えすぎかもしれません。「今、AI が来てる、だから AI をやるんだ」とか。でもそれはまったく逆だと思うんです。「AI のことを考えるとワクワクしてたまらない、なんかすごく楽しいからやってみたい」。そういうことだと思うんです。トレンドを理解していることも大切だと思うのですが、それ以上に、ワクワクすること、パッションを感じることがあればチャンレジしてみるのが良いと思います。

なので、自分はどういうときにモチベーションがわくのかという考え方の方がいいかと思いますね。人に評価されることがワクワクという人もいれば、メディアに出て自分が目立つことがワクワクという人もいるだろうし、むしろコツコツと自分でプログラミングをして何かを作り上げることがワクワクという人もいるでしょう。どういうときに自分は一番モチベーションがわくのか、どういうときにワクワクするのかということを知ること、つまり、自分を知ることが大切ですね。

日本を市場として見てみた場合、悲しいですが、今後、市場規模は小さくなっていくんですよね。人口は減っていくし、どうしても市場として伸びる可能性は低い。そんな小さくなっていく市場と、今後伸びていく市場と比べると、やはり今後伸びていく市場でキャリアを作る方が楽しいと思うんです。

僕らは、グローバルなテクノロジープラットフォームを作っていきたい。そのためにもアメリカで成功させなくてはという使命感がすごくあります。なので、そこに共感してくれる方や企業とはぜひお話しさせていただきたいと思っています。このテクノロジーをどんどん広げていくことを考えると、ワクワクします。

川本雄人さん(かわもと・ユージーンさん)
米国で日本人の両親の間に生まれ、中学進学前に日本に移住。大学卒業後、IBM 入社。在職中にカリフォルニア大学バークレー校で MBA を取得し、投資銀行勤務を経て、2011年にアマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンにて日本事業の立ち上げ、2013年末にシアトルの AWS 本社に転籍しビジネスディベロップメントディレクターとしてデータベースや AI 系サービスを統括、2018年にソラコムの米事業責任者に就任。

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