MENU

「妊娠出産は一人ひとり違う 直感を信じるためにも正しい知識を」出産・産後ドゥーラ 中島香揚子さん

  • URLをコピーしました!
赤ちゃんがよく寝てよく食べてよく笑う
インファント・マッサージのクラスの参加者と中島香揚子さん(左端)
Photo © Brian Chu photography
もくじ

産後の人生を変えた、助産師との出会い

私が産後ドゥーラという仕事について知ったのは、シアトル地域で活動されている助産師の押尾祥子先生に二人目の出産前後のサポートをお願いしたことがきっかけでした。押尾先生と連絡を取り合っていたある日、「赤ちゃんが生まれた日本人のご夫婦の様子を見に行ってあげてくれない?」と言われ、個人的にお伺いしてみたのです。そのご夫婦は初めてのお子さんを迎えた直後でへとへとに疲れ何をしていいのかわからない、赤ちゃんが泣いてもどうしたらいいのかわからない、右も左もわからない状態でした。そこで、「とりあえず、抱っこして母乳をあげてみましょうか」というところから始めました。

私が赤ちゃんを見ている間にお母さんがシャワーを浴びたり、ご飯の準備や洗濯、お片付けなどの手伝いをしたり、育児の話をしたりしているうちに、家族でも友達でもないけれど近い関係になっていったのです。例えば、「サーモンが安いから、一尾買ってきて分けましょう」というような感じですね。お父さんもお母さんも最初は機械が赤ちゃんを抱っこしているみたいだったのが、次第に自然に抱っこして揺らしてあげるようになり、お会いするたびに表情が明るくなり、親への階段を上っているように見えました。「わあ、すごい。1ヶ月でこんなにも変わるんだ」と感動し、押尾先生に「すごい経験をさせてもらいました」と話したところ、「それなら、勉強して産後ドゥーラの資格を取ったら」と言われたのです。そして、バスティア大学のドゥーラワークショップを受講し、母乳や産後の心と体の変化などを学び約半年かけて実地研修後資格を取りました。

妊娠中から産後までのトータルサポートを

当時、私の子どもたちは小学生でしたので、家族との調整が大変なこともありました。出産ドゥーラが自分の家族がいる立場でよその家族もサポートするには、まず自分の家族を第一に考えることが大事。出産はいつも予期せず始まるものの、家族のご飯や子どもたちの送り迎えも調整してから出かけます。子どもたちに「帰ってこないね」と言われたり、文句を言われたりすることもありますが、家族の支えがあってこの仕事ができていると思います。

さまざまな家族のサポートをするようになって、妊娠、出産、産後、それぞれの流れが見えてきました。そこで、さらにインファントマッサージ、出産ドューラ、チャイルド・バースの教育を受け、資格を取得しました。資格は2~3年に一度、再審査を受け、合格する必要があります。一年に何日か出産関連のワークショップにも参加します。参加することで、決められたポイントを取得し、資格を維持できます。習うことは尽きません。

妊娠出産は一人ひとり違う 直感を信じるためにも正しい知識を

今、出産や育児が日常から離れてしまっています。新生児を抱っこするのは自分の赤ちゃんが初めてという方がほとんどです。授乳している人が身近にいればいいのですが、実際に授乳している人がいてものぞきこんでまじまじと見ることがないので、母乳に関しても経験はないけれど情報だけは氾濫しているという状態です。なので、赤ちゃんの泣き声、子どもの声は、「ハッピー・ノイズ」といって、本来は幸せにしてくれるもののはずなのに、赤ちゃんの泣き声は逆に親を不安にさせてしまう傾向さえあるようです。

妊娠出産についても、今はみなさんがネットで検索して、怖くなってしまう。これは本当に良くない。お産は特にそうですが、必要以上の恐怖感はお母さんの体も心も緊張させてしまい、必要以上の医療介入につながってしまいます。

お産は一人ひとり違います。お友達の話も一つの例として聞くことはいいですが、お友達の1回の経験は全世界で行われている出産の一つでしかありません。ですので、まずはじめに心に留めておいてもらいたいことは、「女性の妊娠、出産、母乳育児は、女性の自然で生理的な機能」ということです。でも、それは「それなら、妊娠中に何も特別なことはしなくてもいい」ということではありません。その自然で生理的な機能を発揮するために、時間をかけて心と体の準備をする必要があります。お産はそのお母さんの人生で一番大きな出来事だと思います。何人出産しても、その赤ちゃんとのお産は一生に一回だけ。十分な心と体の準備をして、何がいいのか判断しなければならない時、自分の直感を信じる自信を持ってほしいと思います。

どっしり重い、3.2キロの赤ちゃんの人形は、出産準備クラスで使う

でも、その直感を信じるには、正しい情報を正しいところから得ておくことが大切です。それはどこかと言われると、いろいろな病院の出産準備クラスや、病院外での出産準備クラスなど、いろいろあります。クラスによってテーマもさまざまですし、お産の流れ、陣痛が始まると心と体に何が起きるのか、陣痛促進や緩和など何ができるのか、どうして陣痛があるのか、赤ちゃんが生まれるとなぜ母乳が出るのかなどについて、きちんと学ぶことができます。

例えば、アメリカはエピデュラル(硬膜外麻酔)を使った無痛分娩が主流です。日本から来られてアメリカに住んでいる日本人の方が、きちんと情報を得る前からそれを希望することが増えていると思います。私はエビデンスにもとづいた情報を提供し、エピデュラルのリスクもベネフィットも理解し、医療介入の面も生理的な面も見た上で考えてみましょう、とお話しします。そして、ドゥーラとしてサポートするときは、赤ちゃんの親が考えている方針や選択を尊重し、それにあったサポートをします。

カップルで妊娠出産についてきちんと話し合っておくこと

出産する女性は言わば「ランナー」。そして、出産に立ち会うパートナーとドゥーラは「コーチ」。「コーチ」といっても、「がんばれ」とお尻をたたくコーチではなく、カーリングのように、走るお母さんの目の前の小石を取り除いたり、水がほしいと言われる前に水を出す、そういうコーチです。

ですので、正しい情報をもとに、お互いの意見をできるだけ出しあい、陣痛が始まる前に、赤ちゃんが生まれる前に、お互いの気持ちをそろえていくことが大切と思います。例えば、女性が「私はエピデュラルを使いたい」と言うと、パートナー(夫)が「君の体だから、君が考えてよ」と言う。ここで、「君の体だから」と投げないでほしい。また、自然分娩をしたいと考えるなら、パートナーにどういうことをしてもらいたいか、どういうことができるのかを具体的に話し合うと良いと思います。

また、もしもお産が長引いたり、母親や赤ちゃんに何かしらの異常が見えたらどうするかなど、もしものことも話し合っておくようにしましょう。決めてあったことを変えなくてはならない状況になることもありますから、臨機応変に対応する、柔軟性も大切です。

出産した女性のケアも、パートナーのケアも、両方が大事

出産に立ち会うパートナーの心が乱れるのは自然なことです。初めての経験で、大変な思いをして赤ちゃんを産もうとしている人を見るのは本当に辛いかもしれません。でも、どうにか陣痛に対応している当人に向かって「大丈夫?」と聞くことは、自分の不安を伝えることになります。なので、自分の心が乱れたら、そばにいて手を握り締めて、髪をなでて、キスをする、それはパートナーにしかできない、看護師やドゥーラにはできないサポートです。マッサージしたり励ましたりするのもすばらしいですが、一番大切なのは、母親の心を支えてあげることです。

出産・産後準備クラスのリユニオンにて
お産や育児の話題で、話は尽きない

そして、出産に立ち会ったパートナーも、泣いていいのです。産後1-2週間してからでも、気持ちを出す機会を設けてあげないと、参ってしまいます。後を引きずらないためにも、聞き手としての助産師さんやドゥーラと一緒に、またはカップルの間ででも、私はこういう気持ちだった、僕はこういう気持ちだったと話し合う。出産を経験した人たちが気持ちを話して心の整理をすることを birth debriefing と言います。大切なことなのですが、している人はあまりいないと思います。でも、これをすることによって、次へのステップをスムーズに始めやすくなります。

私は今、女性がお産や子育てについて気軽に話しあえる「お話し会」を毎月行っています。赤ちゃんが小さいときはなかなか外に出られなかったり、横のつながりを作りにくかったりしますが、お子さん連れで参加でき、安心して話せる会にしたい。考え方もお産も一人ひとり違うので、私がいつも一番勉強させてもらっています。

出産・産後ドゥーラ 中島香揚子さん 略歴
助産師の押尾祥子先生との出会いをきっかけに、ドゥーラの仕事に興味を持つ。バスティア大学で2012年に産後ドゥーラの資格を取得。現在はさらに資格を取得し、チャイルド・バース・エデュケーター、出産・産後ドゥーラ、インファント・マッサージ・インストラクターとして活動している。公式サイトはこちら

  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ