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「枠にはまらない、自分のスタイルを」アーティスト 太田翔伍さん

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太田翔伍さん(Photo courtesy of Starbucks)

大統領選挙の投開票日の直前、「米国が分裂している今、我々の価値観や、互いを尊重する必要性を思い出すために、結束のシンボルを」と、シアトルに本社を置くスターバックスが発表した「グリーン・カップ」。デザインを手がけた日本人アーティストの太田翔伍さんに、留学や起業などについてお話を伺いました。

スターバックスが2016年ホリデー・シーズンに発表した
太田さんデザインのグリーン・カップ
もくじ

両親が提案してくれた留学

アートは好きでしたが、仕事にしたいとはまったく考えていませんでした。日本で生まれ育ち、留学も「とりあえず英語を話せるようになったら」という感じで。

でも、アメリカに留学したことがあった母は、自分の子供も一人ぐらいは留学させたいと思っていたらしい。それで、日本の大学に受からなかった僕に、「アメリカに行ったら」と言ってくれました。僕は3人兄弟の次男なのですが、兄弟の中で体が一番丈夫で、離れてても安心というのも理由だったそうです。父も「好きなことをやれ」と。

まわりでは「留学したいと言っても、両親に止められた」という友人が多かったので、僕はとてもラッキーですね。

アーティストとして仕事ができるように計画

アイダホ大学を選んだのは、たまたま兄の幼馴染が留学していたから。知っている人がいるところだと、家族ももっと安心ですし。

幼い頃からサッカーや水泳などいろいろな習い事をさせてもらいましたが、特にアートをやっていたということはなかったにも関わらず友人の勧めでアートを専攻し、一からいろいろなことを学びました。でも、留学生としてもアーティストとしても就職は難しいことを知り、就職できるようにグラフィックデザインのクラスを取り、今に至ります。

卒業が間近になった時、40~50社のグラフィックデザインにレジュメを送りました。1社はオレゴン州の企業で面接まで行ったのですが合格せず、その後、シアトルの Modern Dog Design から連絡があり、インターンとして採用してもらうことができました。実は、一番行きたかったのが Modern Dog だったんで、本当に嬉しかったです。彼らの制作したコンサートのポスターに惚れちゃって。アートを中心にした作品が多くて、かっこいいなとずっと思ってました。

プロと仕事をすることで多くを学んだ7年間

入社してから、本当にたくさんのことを学びました。学校で学んだことは少しは足しになりましたが、プロと一緒に仕事をするのはまったく違う。

インターンシップは1年ほどで終わり、その後に専門職ビザ(H1B Visa)のスポンサーもしてもらって正社員になることができました。専門職ビザの申請はまず、審査に選ばれるための抽選が行われますから、それで選ばれなくて母国に帰国しないといけない友人もいました。だから僕は本当にラッキーです。専門職ビザにかかる費用や時間や労力については、社長にちょっと愚痴られましたけどね(笑)。

Modern Dog Design は、来るものは拒まずのグラフィックデザイン会社で、おかげで僕も本やページのレイアウト、企業ロゴ、ブランディング、パッケージデザイン、ウェブサイトのデザイン、イラストレーション、CDジャケットなど、本当にいろいろな仕事をさせてもらいました。

小さなデザイン会社だからこそ、仕事のやり方、見積もりの出し方、コミュニケーションの仕方、インボイスの仕方まで教わりました。ビジネス面でもさまざまな部分に関わることができました。そうした経験が、独立した今、すべて役立っています。

楽しみにしていた音楽ポスターの制作はあまり収益にならないということで、家に持ち帰ってやっていました。

独立するという夢を実現

将来は独立したいと思っていましたが、そもそものきっかけになったのは、Modern Dog Company が Disney や Target などを作品のコピーライト侵害で訴えた訴訟です。

Modern Dog Design が訴訟にかかる費用のために、スタジオを売却し、業務の規模を縮小し始め、僕が最後の従業員になり、そしてある日、契約社員になっても大丈夫かと聞かれたことで独立を決めました。

最初の3~4ヶ月は Modern Dog でもプロジェクトを続けましたが、その後はきっぱりやめて、自分のスタジオ Tireman Studio としてプロジェクトをやっています。

「意味が伝わる、シンプルな作品を」

スターバックスで以前に働いていた知人が社内のアートバイヤーに紹介してくれたことがきっかけで、今回の「グリーン・カップ」の前にも小さなポスターや精密画、壁紙など、いろいろなことをやってきましたが、僕は色んなスタイルを持っているので、「今度はこんなスタイルで」と提案を受けて、こちらからも提案して話し合い、決めていきます。それが今回のグリーン・カップにつながりました

写真上:シアトルにあるスターバックスの 1st & Pike 店にホリデー・カップと同じテーマの作品を描いた。

シアトルの 1st Avenue と Pike Street の交差点にある店舗や、ニューヨークの店舗の窓ガラスに同じテーマで作品を描きました。今後は、サンフランシスコ国際空港とシアトル・タコマ国際空港でも同じテーマで作品を描く予定です。

作品は、直感で、シンプルなものを作るのが好きです。スターバックスのグリーン・カップだったら、「ユニティ」「みんなをつなぐ」がテーマで、ああいう作品になりました。あまり深追いしたくないんですね。意味が良くても、ビジュアルがだめだったら伝わらない。音楽もそうですよね。アルバムのグラフィックデザインを見た瞬間、かっこいいと思ったらひきつけられる。Tシャツもそう。見た目が良くて、内容がシンプルなら、伝わりやすいと思うんです。

「もっともっと大きな作品を作ってみたい」

僕にはもうすぐ2歳になる息子がいます。妻は今は専業主婦で、働いているのは僕だけということもあり、父親としてがんばらないといけないという責任感があります。と言っても、スタジオにこもって仕事をし続けるのではなく、子供と一緒にいる時間もたくさんほしい。なので、最近はヘッドホンをつけて、さらに集中して仕事をし、仕事と子供との遊びの両立も工夫するようになりました。

息子には好きなことをやってもらえばいいなと思っています。特に何かしてほしいというのは今はないですね。僕の影響があるとすれば、一緒に絵を描いたりすることぐらい。僕の母が言っていたように、好きなことを見つけ、健康であることを大切にしたいです。

僕は小さなプロジェクトから、スターバックスとのプロジェクトのような大きいものまでいろいろやっていますが、今後はものすごく大きな壁やビルに絵を描いてみたい。有名アーティストがそういった作品を作っていますが、僕もチャンスをもらえたらぜひやってみたい。または、会社のアート・ディレクションをまかされてみたいです。

自分のスタイルを作り出して、楽しく。

僕の場合、水彩画、細密画、ステンシルなど、いろんなスタイルで、またはいろいろなスタイルを混ぜて作品を作っています。そういう人は結構珍しいようですが、それが僕のスタイルで、とても楽しいと思っています。

例えばスターバックスなど、そうしたいろいろなスタイルで作品を作れることを重宝してくれるクライアントもいます。

先輩ヅラするようなことはできませんが、これからアートを学ぶ世代に言えることがあるとすれば、そういった「自分のスタイル」を見つけることですね。枠からはずれて、ファンキーなものを作ってみる。一つのスタイルを突き詰め高めていくのももちろんすごいことですが、もしそうできなかったら、逆にいろいろやれるようになったらどうかなと考えてみる。

あとは楽しんで仕事をすること。そこが大事だと思います。楽しくないと、向上心もなくなり、挑戦もしなくなりますから。そして健康に気をつけて。何事も健康があってこそです。

おおた・しょうご/岐阜県出身。日本の高校を卒業後、アイダホ大学でアートを専攻。2005年の卒業と同時にシアトルのデザインスタジオ Modern Dog Design Co. にインターンとして採用され、1年後に正社員に。2012年11月に Tireman Studio として独立。一児の父。

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