自分の曲で世界を感動させたい
2013年には、コンサートの視察を兼ねて、初めてシアトルを訪れた。そのきっかけを作ったのが、バイオベンチャー企業アキュセラ社の会長兼 CEO である窪田良さん。まったく異なる世界で活躍する2人は、共通の知人を通じて数年前に知り合い、すぐに意気投合したという。
窪田さんは薬の開発、僕は作曲とジャンルは異なりますが、世界中の人を感動させたい、世界に影響を与えたいという想いは同じです。周囲から「おかしい」「無理だよ」と思われているようなことも、「もしかしたら可能性があるかもしれない」と信じて、本気でチャレンジしている。そうした部分に、お互い感じるものがあるように思います。窪田さんが日本に一時帰国する際には、よく2人で飲みに行きます。とは言え、あまり熱い話をすることはなく、他愛もないボーイズトークに花を咲かせているのですが(笑)。
2013年、窪田さんにシアトルにお招きいただいて、「Celebrate ASIA」のコンサートを見に行きました。その時に辻井伸行さんが演奏されていたピアノが本当に素晴らしくて、観客の方々も皆、スタンディング・オベーションをしていたんです。僕はその時、「アメリカ人を熱狂させるアジア人」を初めて目の当たりにした気がしました。僕自身、海外へのコンプレックスを持っていたのだと思います。でも、辻井さんの演奏を聴いて、「僕も自分の曲でアメリカの人たちを感動の渦に巻き込みたい」という気持ちがわき起こりました。
今回、「Celebrate ASIA」のために書いたのが 『Revive – 琴と尺八と管弦楽のための協奏曲』 です。琴や尺八を使った曲と聞くと、『さくらさくら』 や 『春の海』 のような定番曲を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それらとはまったく異なる仕上がりになっていると思います。琴や尺八の持つ「音」は強烈で、その音色を聞いただけで日本らしいイメージが自然と浮かびます。ですから、僕の方では、あえて「日本らしい曲」にしようとはしませんでした。例えば、第3楽章は、若者がクラブで聞くような音楽をオーケストラで演奏しているような雰囲気もあります。きっと、新鮮な感じを受けられるのではないかと思います。ぜひ、会場に足を運んで、実際に聞いてみてください。
日本の劇伴音楽界で、さらなる活躍が期待される菅野さん。今後は日本にとどまらず、「世界に飛び出していきたい」という野望も抱いている。
日本のアニメは、海外でとても人気がありますよね。僕はアニメ作品の音楽を手がけることも多いので、アニメを通じて、世界中の人に自分の音楽を聞いてもらえるようになることを期待しています。それから、いつか海外の映画音楽も手がけてみたいですね。
生涯をかけて実現したい目標は、ベートーベンの 『第九』 を超える作品を作ること。どんなジャンルでも、古いものは新しいものに取って代わられるのが宿命ですが、第九は時代を超えて、国を超えて、今なお世界中の人々に愛され続けています。そんな曲を書き上げることが、僕の究極的な夢なんです。
東日本大震災後は、継続的な支援活動も行っている。被災地でミニコンサートを開いたり、複数の作曲家が共同して復興支援のためのアルバムを作り、CD やコンサートの売り上げを寄付したりした。2月26日(木)には、シアトルの東にあるレドモンド市で行われるチャリティ・イベント「Tohoku Revive」でも、菅野さん自らピアノ演奏を披露する予定だ。
シアトルのお気に入りスポット
趣味で絵も描く菅野さん。2013年のシアトル滞在時には、毎日のように美術館やギャラリーを巡ったそうだ。「シアトルは街全体がアートにあふれていて、あちこちで絵やオブジェを目にしたのが印象的でした。僕自身、アートが大好きなので、滞在を心から満喫しました」
取材・文・一部写真:いしもと あやこ
かんの・ゆうご/1977年生まれ。東京音楽大学作曲科卒業。音楽好きの両親の元、4歳でピアノとクラシックギターを始める。大学在学中よりアーティストへの楽曲提供を行い、2004年、フジテレビ系月9ドラマ 『ラストクリスマス』 でドラマ劇伴デビュー。以降、『ガリレオ』 『ホタルノヒカリ』 『SP』 『ガンダム G のレコンギスタ』 など、数多くの人気ドラマや映画、アニメの音楽を手がける。2014年には NHK 大河ドラマ 『軍師官兵衛』 の音楽を担当。また、シアトルでアジア音楽を楽しむ恒例のコンサート 「Celebrate Asia」(2015年3月1日開催) のために 『Revive – 琴と尺八と管弦楽のための協奏曲』 を作曲した。現在、年間300曲以上の楽曲を作曲するかたわら、オーケストラを率いたコンサート活動も精力的に行う。
【公式サイト】 菅野祐悟の公式ホームページ