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「手作り味噌の味を広めたい」 杉山正一さん&杉山アンナさん 『よか味噌』経営

「手作り味噌の味を広めたい」 杉山正一さん&杉山アンナさん 『よか味噌』経営

『よか味噌』の商品『Traditional Soybean Miso』

日本食に欠かせない発酵食品の一つ、味噌。シアトル地域では、自分好みのおいしい味噌を食べたくなり、味噌を自分で作り始めたという人も少なくありません。1999年に日本から移住してきた杉山正一さんもその一人。日本で慣れ親しんだ味を求めて、シアトルの隣町ベルビューの自宅で味噌を作り始め、希望者を集めて作り方を教えるようになりました。そんな杉山さんの長女のアンナさんが、幼い頃から食べてきた手作りの味噌を主力商品にして起業することを思いついたのは数年前。さまざまな人の助けを借りて起業し、今年6月に完成した2種類の味噌を発売したところ、数日で完売してしまいました。2回目の味噌の販売を間近に控えた杉山正一さんとアンナさんに、お話を伺いました。

【公式サイト】yokamiso.com

きっかけは、身近にない「手作りの味噌の味」

『よか味噌』の商品『Traditional Soybean Miso』

アンナ:ワシントン大学にいた時、小規模の手作り味噌が身近に売られていないことに気づいたのが、そもそものきっかけです。そこで、Facebookでベジタリアンとビーガンのコミュニティに「どういう味噌を使っていて、どこで味噌を買っているか」と聞いてみたところ、回答者全員がアジア系のグローサリーストアから、ローカルのものではない味噌を買っていることがわかりました。なぜなら、ここにはローカルの味噌の会社がないからです。そこで、味噌の会社を始めることを思いつきました。アメリカではみんなが味噌の使い方を知っているわけではないので、味噌についてもっと簡単にわかりやすく伝えることができれば、日本の食文化に対する理解を深めてもらうことにもつながります。以前から自営業をやりたかったので、これはいいアイデアだと思いました。

杉山:アンナたちがいろんなネットワークを駆使して、友達も参加していろいろやっていくのを見ながら、「面白そうやね」と言ってたら、このような形になりました。私は到底考えつかなかったことで、若い人たちならではですね。味噌というのは日本人に欠かせないものですし、和食も味噌も、ますます知られるようになってきていて、いいタイミングだと思います。

『よか味噌』の 『Aka Miso(赤味噌)』

アンナ:それから数カ月にわたって、友人やワシントン大学の教授と相談しました。特に、ワシントン大学で起業の相談を受けてくれた教授が、私のビジネスパートナーとなるキャシーを紹介してくれたことが、大きな助けになりました。キャシーはサプライチェーン・マネジメントの修士課程で学んでいた人で、そこでの知識や経験をを使って、事業の立ち上げや拡大など一緒に考えてくれる、良いパートナーです。

杉山さん:会社名の『Yoka Miso』は、『よか味噌』。私の故郷である福岡県の博多弁では、日本語の「いい」を「よか」と言いますが、そこから来た名前です。

親から子へ 次世代に伝える味

杉山正一さん

アンナ:商品化するにあたって、味噌のレシピを父から改めて教えてもらいました。そして、味噌を製造販売する許可を得るために必要な情報を提供し、発酵を助けるバクテリアの検査などを受けるなど、さまざまなステップを終えて、許可を取ることができたのです。ビジネスの商品として販売する場合は、フルスケールのコマーシャルキッチンを使う必要がありますが、その面では、長年にわたりケータリングやレストラン業をされている方々にたくさん助けていただきました。

最も難しかったことは、ビジネスのスケーリングです。機械で大量生産するやり方の味噌ではないので、商業的になりすぎないようにしながら、スペースに投資して、十分な量を作るようタイミングをはかるのが難しい。でもそれがとても面白いです。
大豆は、今はワシントン州東部産のものを購入しています。麹は、この辺りでは唯一のサプライヤーであるコールド・マウンテン社のものです。自宅用の味噌は自分たちで作る麹を使っていますが、今はまだ商品に使えるほどの量がありません。でも、将来は豆と塩以外は100%自分たちで作りたいと思っています。

杉山:塩は、韓国産の塩を使っています。ロックソルトではなく、砂のようにサラサラになっている塩でもなく、もう少し粒の大きい塩がおいしいのです。いい塩を使ったら、味噌もいいものになります。

手作りの麹

アンナ:特に、味噌は材料を混ぜることに労力がかかります。でも、お父さんには、私たちがちゃんと作っているか監督してもらうだけにしています。ウェブサイトやソーシャルメディアなどのマーケティングはすべて私がやりますし、その他の仕事もビジネスパートナーと一緒にやっています。

杉山:私は細かいところを見て、教えるだけ。これまでやってきたことを、次の世代に伝えている感じです。

アンナ:そして、最初に仕込んで寝かせた味噌を今年6月に販売したところ、数日で完売してしまい、反響の大きさに驚きました。次はいつ販売するのかと聞かれ、とてもうれしかったです。

杉山:味噌は、ここでは半年だと熟成が足りないので、最低8カ月から一年寝かせます。赤味噌となれば、二年半は寝かせますね。日本の場合、東北地方のような寒暖の差が激しいところの味噌がおいしいと言われますが、シアトルのこの気候は味噌づくりにあっていると思います。夏は暑すぎず、乾燥していて、冬は雨が多いけれども寒すぎない。私はシアトルでできる味噌の味が好きですよ。

手作りの味を、もっと多くの人とシェアしたい

杉山アンナさん

アンナ:幼い頃から、味噌、麹、納豆、餅などはすべて、家で手作りしたものを食べてきました。味が全然違います。

杉山:例えば、餅も、杵でついた餅と、器械でついた餅は、味などが全然違うでしょう。昔から杵でついた餅を食べさせてきたうちの子どもたちも、違いがすぐにわかってしまいます。

それは味噌も同じ。日本からこちらに引っ越してきた当時は麹が簡単に手に入らなかったので、店で販売されている味噌を買ってみましたが、子どもたちがあまり食べない。それで、麹を自分で作り始めて、その麹を使って味噌を作ったら、子どもたちが「うちの味噌の方がいい」と言うので、それからずっと作り続けています。子どもたちの舌が肥えてしまって、困る時もありますけど(笑)。麹が生きている家庭の味噌は、冷蔵庫に入れておいても、熟成していきますね。一年味噌、二年味噌と、寝かせた味噌はうまみが増していきます。

アンナ:そんなふうにして手作りのものを食べてきたので、自分が食べる物がどこから来ているか知ることは、とても大切だと思っています。今、パンデミックの影響で、もっと多くの人が「ファーマーズ・マーケットで食材を買って、地元の農家を支援しよう」としていますが、それも同じだと思います。

そして、味噌は、作ってもすぐに食べることも売ることもできません。寝かせる時間が必要です。でも、その時間がかかることが、味噌に対する評価を高めてくれると思います。欲しい時にいつでも買えるというわけではなく、完成するまで待たなくてはいけない。商品ができた時に、売ることができ、買うことができる。それがスモールビジネスの特徴であり、良さでもあると思うのです。

これからやりたいことは、味噌に馴染みのない人にもわかりやすい形で、味噌を食べてもらうこと。今、ピザやクッキーの専門店、レストランとも話し合って、味噌を入れたレシピも考えています。

杉山:今は大豆の味噌だけですが、これからは、麦やジャガイモ、チアシードなど、いろいろなもので味噌を作っていきたいですね。

アンナ:私たちの味噌は、日本のやり方で作っているので、ここの日本人コミュニティのみなさんにもぜひ試していただきたいですね。この味噌を通して、コミュニティの一員になれればと思っています。

掲載:2021年9月 聞き手:オオノタクミ

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