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「30年間変わらないこと~人と人のつながりの大切さ」</br>めぐみ保育園 鈴木芳美園長

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1992年にシアトルで『めぐみ保育園』を開園した頃の鈴木芳美園長

1992年の創立以来、シアトル地域で日本語による幼児教育を提供しているめぐみ保育園。30周年を迎える今年、6月に予定されている卒園式を最後にシアトル校をベルビュー校に統合し、新たな一歩を踏み出すことになりました。地域に根差した保育を提供してきた鈴木芳美園長に、創立した時から今までを振り返っていただきました。
【公式サイト】www.megumipreschool.com

もくじ

13歳で家族とともにアメリカへ

1993年に行った第一回卒園式の様子

牧師だった父の仕事の関係で、13歳の時にアメリカに家族と移住してきました。平日は現地校、土曜日は日本語補習校に通っていましたが、両親から「自分にかかるお金は、自分で工面しなさい」と言われていたため、放課後は日系シニアのための賃貸アパート・川部メモリアルハウスで食堂の後片付けの仕事をさせていただくようになりました。

1980年代のことでしたので、教会に通う方々や川部メモリアルハウスの入居者の方々の中には、第二次世界大戦前に日本から移住してこられた日系一世の方々がまだたくさんいらっしゃいました。その方々が話す言語はほぼ日本語のみだったので、「芳美ちゃんみたいな若い世代と一緒に日本語でしゃべれるのがうれしいよ」と言ってくださり、「これを食べなさい」「あれも食べなさい」と、いろいろ食べさせてくれる上に、作り方まで教えてくださるようになりました。今、私が料理好きなことや、保育園で日本食を子どもたちに食べてもらいたいと思うのは、そんな日系一世の方々との体験から来ています。

そんなふうに過ごしているうちに、その方々のアメリカ生まれのお子さんは片言の日本語、お孫さんは英語のみという場合が多いことに気づきました。例えば、一世が日本語で言うことを、子どもの二世が英語にして三世の孫に伝え、孫が英語で言うことを二世が片言の日本語で一世に伝えるという、祖父母と孫が直接会話できない家族構成もよくあったのです。そのうち、「おじいちゃんやおばあちゃんも、自分のお孫さんと日本語で話せたら、本当にうれしいんじゃないかな」「言語の壁がない状態で、お孫さんと本を読んだり歌を歌ったり、ちょっと深い話ができるようになったらな」と思うようになりました。

そして、アメリカに来てから10年後、私が学校卒業後に就職した大学付属の幼稚園が閉鎖されることになった時、次の仕事を探すのではなく、日本語の保育園をオープンしようと考えたのです。両親に「保育園を始めたい」と言ったところ、最初は「何を言ってるんだ。子どもが子どもを預かるなんて」という反応でした。でも、どうしてもやりたいという気持ちを伝え、やるなら絶対にやめないと約束をしたのです。決して裕福ではなかったので、自分の生活は自分で面倒を見ようという気持ちもありました。今から30年前の1992年、23歳の時のことでした。

そこからシアトルのビーコン・ヒルで保育園を開園できる一軒家を見つけ、準備を進め、ついに「オープンハウスをやります」と発表したところ、一世の方々がお孫さんと手をつないで、門の前に並んでくれたのです。最初に入園した園児は6名。めぐみ保育園の始まりでした。一世の方々には、本当にいろいろなことを教わりました。

30年間大切にしている保育方針 子どもたちの情緒の安定

2022年現在の『めぐみ保育園』のシアトルキャンパス
(2022年6月の卒園式をもって、ベルビューキャンパスに統合されることが決定)

私がめぐみ保育園を創立した1992年と比べると、今はシアトル地域でも日本語での教育にいろいろなチョイスがあります。

そんな中でも私が創立時から30年間大切にしているのは、子どもたちの情緒の安定を最優先することです。

愛情を受け、愛情を感じて育った子どもたちは、優しい心を持つ人になります。将来、辛い時や悲しい時も乗り越えられる力を持つでしょう。でも、幼い時にいろいろな不安を抱えて育ったら、態度や表現に出てくるのかなと思います。

例えば、子どもがお友達に手を出してしまう、噛んでしまう、泣いてしまうことが多いのは、SOSを出しているということ。頭ごなしに「いけない」と言うのではなく、まずは「おいで。どうした?悲しかったね」と受け止めてあげる。なぜそうなっているのかという原点を直してあげることが大切ですね。

そして、先生たちは、子どもが寄って来たら、何かしていても手を止めて、子どもが言いたいことを親身になって聞く。「ちょっと待って」と言ってしまうと、その子どもはもう寄ってこなくなってしまうかもしれません。子どもに待たなくてはいけない経験をさせるのではなく、待てる仕事は後にして、子どもの話を先に聞くことが大切と考えています。

『めぐみ保育園』ベルビューのキャンパス

そんなふうに、一人一人の子どもの人格を大切にして、一人一人に寄り添って、その子どもが必要としていることに目を向けることで、情緒が安定していきます。

同時に、なんでも自分たちで経験できるような保育方針を設定してきました。大人が「これをやりましょう」「何々を持ってきてください」と言うのではなく、子どもたち自身がさまざまなことに興味を持ち、なんでもやってみたいと好奇心を持ち、やりたいことを見つけるのです。

この保育方針は、外から見ると、「ただ遊ばせるだけで、お勉強はあまりしない、めぐみ保育園」というイメージになるようです。お勉強はやっていないわけではないのですが、どちらかというと、子どもたち同士の自由遊びの中から人間社会を学んでいってもらいたいという気持ちがあるのです。お友達と一緒に遊びたいから、自分から声をかけるし、おもちゃをシェアする。寂しそうな子どもがいたら、自分から声をかける。辛い思いも、楽しい思いも、先生はまず介入せず、子どもたちでやる時間を十分とっています。

これは、実際に社会に出て動けるかどうかは、それまでどれだけ経験してきたかにかかっていると思うからで、自分で考えて動く体験をたくさんして育った子どもたちは、将来、自ら動くことができるようになるでしょう。もし大人が先に「こうしなさい」と言ってしまったら、子どもは言われないとやらなくなってしまいます。

そして、やはり人とのつながりを大切にし、人への感謝を忘れないこと。これだけ長くやっていると、疎遠になってしまったり、お別れの時にちょっと溝ができてしまったりすることもあります。でも、またこちらから連絡するようにし、歩み寄っていくこと。シアトルの日系社会は広いようで狭いですし、ライバル意識ではなく、助け合う気持ちで成り立っていると思います。私もいつもきちんとできているかというと、そうでないこともあるかと思いますが、昔から大切にしていることには変わりありません。

自分の子どもの子育てについて気をつけていたことがあるとすれば、仕事などの大人の事情を出さないようにし、不安を与えないようにしていたかもしれません。そして、あまり怒らなくても、叱らなくても、話せばわかるということを考えていました。子どもの気持ちがダウンしているなという場合は、話せるような環境を作ってあげる。でも、もちろん、「いいかげんにして!」というようなことはありますよ。恥ずかしくて、ここでは出せませんが(笑)。

卒園生も懐かしむ、手作りの給食

忙しい保護者の皆さんに代わって、子どもたちが一日に食べる三食の中の一つを日本の味にできればという思いで、最初から給食にも力を入れてきました。今も毎月の献立をきちんと作り、一から仕込んでいます。

新鮮な食材に5~10種類ぐらいのお野菜を使いますが、こちらではあまり一般的ではなくても、日本食では一般的なゴボウやレンコンなどといった野菜もたくさん入れていますね。また、新年の最初の登園日の給食は、おせち料理の中でも子どもが好きそうなメニューを作りました。そんなふうに、ホリデーの食事も取り入れています。日本でも特定の地域の人でないと知らないメニューや、世界の国を巡るみたいなテーマで他の国の食事を入れたりもします。

今回、めぐみ保育園の運営資金を募るためのプロジェクトとして、関係者や保護者の方々のみにレシピ本を共有しました。すると、「なつかしいカレーを食べたいと言って、自分で作っていました」と、卒園したお子さんが作ったカレーの写真を送ってくださった保護者の方もいらっしゃいました。

勤続10年~15年のベテランスタッフと歩む

めぐみ保育園

一人一人の子どもに寄り添って、人とのつながりを大切にし、人への感謝を忘れない。そんな保育環境を実現するために一番大切なのは何かと考えると、やはりスタッフだと思います。

今回、シアトルのめぐみ保育園をベルビューキャンパスと統合するとお伝えした時、シアトルの保護者の皆さんが「今の担任の先生はどうなるのですか」と聞かれました。「先生は全員がベルビューに異動になる」とお伝えしたところ、「それならベルビューに行きます」とおっしゃってくださったのです。「遠くなっても、卒園までその先生のところに行きます」と。それも先生、スタッフ、保護者、お子さんのつながりを大切にしてきた結果だと思っています。

めぐみ保育園

卒園したお子さんたちと先生がいまだにつながっている場合もあります。昨年、高校を卒業した生徒さんたち数人が、めぐみ保育園に来てくれました。パンデミックなので、マスクをして、距離を置いての再会でしたが、昔の担任の先生が思い出を語ってくださり、「がんばったで賞」を元園児の一人一人にあげました。本当に特別な出来事で、やはり人と人とのつながりですね。

私も今でも勉強し続けながらで、えらそうなことは言えないのですが、時間はあっという間に過ぎてしまいます。親子で共に過ごせる幼児期はとても大変な時ですが、焦らず、ゆっくり寄り添ってあげて、広く、深いところで、子どもたちの言うことを聞き、よき理解者となって、いろいろなことを受け止めてあげたらいいかなと思います。

今、自分の目の前にいる子どものおかげで自分たちが前に進むことができているということへの感謝を、子どもたちにふとした瞬間にでもしっかり伝えていきたいですね。

聞き手:オオノタクミ

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