海外に在住し、日本食・食文化又は日本産農林水産物・食品の海外での紹介・普及などに多大な貢献をしてきた人に農林水産省が2006年から授与している日本食海外普及功労者表彰。2021年12月10日に発表された第15回日本食海外普及功労者表彰の受賞者に、ワシントン州在住の加柴司郎(かしば・しろう)氏と末次毅行(すえつぐ・たけゆき)氏が選ばれました。
1960年代に渡米して以来、日本食レストランの経営や教育プログラムの提供など、さまざまな形で日本食の普及や後進の育成に努めてきた両氏に、今回の受賞について、現在のお仕事について、日本食の将来について、お話を伺いました。
加柴司郎さん
『Sushi Kashiba』『Shiro Kashiba Sushi Express』経営
日本食普及の親善大使
sushikashiba.com
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今回の表彰はとてもありがたいことです。1966年にシアトルに来てからずっと、日本の江戸前寿司をこの地に広めるように工夫してきました。知らない間に時間は過ぎてしまうもので、あっという間に56年。日々大変なことはたくさんありますが、寿司が好きだから仕方がありません。やはり楽しいのが一番。まだまだ現役で、週2日は店に出て寿司を握り、店に出ていない日でも店に顔を出してお客様とお話ししたり、記念写真を撮影したりしています。
ピュージェット湾に面したシアトルは、環境が良く、黒潮が流れてきて、日本の北海道あたりでとれるような魚介類が手に入り、日本に一番近い街。アメリカに来させていただいて、本当に感謝しています。
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当店の寿司カウンターでも、いろいろな国の若手が働くようになりました。20~30代への世代交代の時です。日本発祥のお寿司の江戸前寿司は、カウンターで「はい、いらっしゃい」とお客さんをお迎えし、その場で握ったものを、その場で召し上がっていただくもの。私が細かいところまで見せながら教えていくことができれば、まだまだ江戸前寿司の可能性はあると思っています。
本当にいい寿司を真剣に握ってくれる若手全員に成功してもらって、お寿司がさらに広がっていくと嬉しいですね。そうすることが、本人だけでなく、日本という国とその食文化にとっても、いいことだと思っています。
末次毅行さん
シアトル日本料理店協会会長
日本食普及の親善大使
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末次毅行氏提供
1967年の渡米以来、日本食の料理人・教育者として、あちこちで仕事をしてきました。現在は米国労働省の管理下にある Job Corps がワシントン州モーゼス・レイクで運営している Columbia Basin Job Corps Civilian Conservation Center で料理プログラムを教えています。
Job Corps Civilian Conservation Center は全米に121校ありますが、日本食を教えているのはここだけ。だしの取り方、だしの味、すりばちの使い方、魚や鶏のおろし方といった料理の基本はもちろん、朝の挨拶、「魚身鶏皮」などの言葉も教えます。その理由は、料理の心が一番大切だからです。では、料理の心とは何でしょう。それは文化です。どんな国の料理にも文化があります。文化なくしては、料理はできません。ですので、「料理をするなら、文化を知る必要がある」と、生徒たちにも言い続けています。
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末次毅行氏提供
今は約280名の全校生徒のうち約50名が料理プログラムに参加し、27期生が学んでいます。生徒たちはとてもやる気に満ちていて、私もやりがいを感じますが、コロナ禍でプログラムが中断してしまっているので、早く再開できることを願うばかりです。卒業生は空港のホテルなどで働いていますが、将来は卒業生を日本にも送りたいですね。
今回の表彰は、みなさんのおかげです。学校にとっても、私が教える生徒たちにとっても、励みにもなります。今後もさまざまなコミュニティに日本の味を伝えていきたいと思います。
・在シアトル日本国総領事館「第15回日本食海外普及功労者表彰を加柴司郎氏、末次毅行氏が受賞」
・農林水産省:日本食海外普及功労者表彰
掲載:2022年2月