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パンデミック【体験談】(9)ワシントン大学研究留学 眼科医・秋葉龍太朗さん

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ワシントン大学医学部キャンパス

ワシントン大学医学部キャンパス

新型コロナウイルスのパンデミックで、ワシントン州では2020年3月から経済活動・社交再開に規制のある生活が続いています。日々の生活はどのように変化しているのでしょうか。

第9回は、2019年9月からシアトルのワシントン大学に研究留学中の眼科医、秋葉龍太朗さんにお話を伺いました。

– 秋葉さんの研究について教えてください。

目をカメラで例えるとフィルムに当たるのが網膜ですが、その中心部は視力に重要であり "黄斑"(おうはん)と呼ばれています。この "黄斑" が病気の過程でどのように変化しているかを調べるために、最先端の設備や分野の第一人者がいるワシントン大学に博士研究員として在籍しています。

留学前には神戸理化学研究所で網膜色素変性症という重い目の病気に対して iPS 細胞由来網膜シートを用いた再生医療の研究を行なってきたため、将来的には再生医療を応用し、"黄斑" の機能再建を実現することを目指して、日々研究を続けています。

– 研究室でのコロナ対策は。

2019年12月にウイルスの報道が出てきましたが、私の研究室ではボスがかなり早めにプランを立てて、小さめの部屋は一人、大きな部屋では二人など、部屋ごとに人数を制限し、実験を行う際はオンラインのカレンダーで予約して、かぶらないようにしました。そもそも私の研究室は施設に人が多いわけではなかったので、それでうまくまわっています。ハンドサニタイザーや手袋も速攻で用意して、ドアノブも触ったら拭くなどの対応も一気に始めました。

自宅に整えたホームオフィス環境

自宅に整えたホームオフィス環境

また、家でできることは全部家でやれるように、画像解析用のタブレットを買って自宅まで送ってくれました。研究室では電子顕微鏡を使うことが多く、一度データをとったら解析に何カ月もかかるのですが、新しいタブレットのおかげで、自宅でできるようになりました。そして、2月からフルリモートになりました。

研究室によっては培養や動物実験があるため、今まで通り勤務しているところも多くあります。リモートが不可能な実験は身体的距離を維持して、接触した部分は消毒するなど対応しています。

なので、これからアメリカに研究留学する人は実験ができなくて研究が進まないかというとそうではなく、それぞれ工夫して仕事をし、実験をしていることをお伝えしたいです。

– コロナ禍で気づいたこと・感謝していること・新しく始めたことは。

レイク・ワシントン越しに臨むマウント・レーニア

レイク・ワシントン越しに臨むマウント・レーニア

私の研究室のボスは面倒見の良い方で、仕事では業界の第一人者で熱心に指導してくださいますし、困った時はすぐに声をかけてくださり、有難いことにご飯やデザートなどをよく作ってくれます。リモートになっていても、上司との人間関係が分厚いと、異国にいる身としてはとてもありがたいです。

テクノロジーのおかげで、内容によっては現場に行かなくても研究や仕事が続けられる事は素晴らしい事です。自分の同僚とも話ができる。国際会議も共同研究も、時差はありますが、実現できる。人間関係もあまりあきらめる必要もないなと思っています。昔のパンデミックだったら、こうはいかなかった。他大学や外国の研究室との会議にも移動の必要がなくなったため、コラボレーションする敷居が下がったかもしれないというのが意外な発見でした。

新しく始めたことは、子どもと一緒に平日の昼間に天気が良ければ散歩やドライブで色々な公園に行けるようになったことです。コロナ禍の前は昼間は職場に行っていたので、子どもと遊べるのは帰宅してからでしたが、今はリモートワークでフレックスタイムなので、昼間にも天気が良ければ外に出られるようになりました。また、ツイッターで知り合ったシアトルの人たちと Zoom でしゃべる会をたまにやっていたりします。そういう場では業種の垣根もなく、いろいろな人と知り合いになることができました。

子供とよく散歩に行くようになったガス・ワークス・パーク

子供とよく散歩に行くようになったガス・ワークス・パーク

– 一次情報にあたることについてご意見を。

コロナ禍の影響でテレビやSNSでも医療情報が出てくる機会が増えました。今は論文のオープンアクセス化(誰でも読むことができる状態)がすごく進んでいて、多くの場合、概要(abstract)は大学のネットワークなどを用いずとも、ご家庭のインターネットからアクセスでき、すべての人が読めるようになっています。例えば、ワクチンに対する臨床試験の結果は、有効性や合併症の内容、その割合も公開されています。

つまり、調べようと思えばいくらでも調べることができ、一次情報にあたる敷居はかなり低くなっているのではないでしょうか。最近は DeepL に代表されるように非常に高度な機械翻訳が手軽に使えるようになりましたので、言語のハードルも下がっていると言えるでしょう。

ですから、気になる情報や不安な内容に対しては、一次情報にあたり、自分の目で見れば、納得することができます。もちろん専門知識が必要な情報も多いので、すべての一次情報にあたることは難しいとは思いますが、こういったメディアリテラシーが高まっていけば、もう少し良い世の中になるかもしれないと思っています。

掲載:2021年2月 聞き手:オオノタクミ



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