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パンデミック【体験談】(3)「人生で本当に大切にしないといけないもの」航空会社勤務・俵智江さん

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ベルタウン

閑散としたシアトルのベルタウン地域

新型コロナウイルスのパンデミックで、ワシントン州では2020年3月から経済活動・社交再開に規制のある生活が続いています。日々の生活はどのように変化しているのでしょうか。

第3回は、航空会社に勤務している俵智江(たわら・ともえ)さんにお話を伺いました。

– 自宅待機命令で、生活はどのように変わりましたか?

ミニテニス

小学生と高校生の子どもたちの休校が決まった翌週から自宅勤務に切り替わりました。夫はシアトルでレストラン 『wa’z』 を経営しているので出勤していますが、私と子どもたちは四六時中一緒に家にいる状態です。考えてみたら、ずっと仕事をしてきたので、こんなに家にいるのも、子どもとずっといるのも、久しぶりですね。

これまで基本的に自宅勤務はなかったのですが、会社からコンピュータと電話が支給されて、テクノロジー面ではオフィスで仕事をするのそれほど大きな違いのない環境で仕事ができます。勤務時間もいつも通り8時半から5時で、社内ミーティングはすべてオンラインになって、営業もすべてオンラインか電話になっていて、出かけることがありません。行動範囲はとても狭くなって、毎日ベッドルームからリビングルーム、キッチンを往復するぐらいです。

夫が休みの時に散歩に行こうとしましたが、子どもたちが行きたがりませんし、私も一人で誰もいないところを散歩するのはあまり気が進まないので、私と娘は裏庭でミニテニスを始めました。私はずっとテニスをやってきましたし、娘もちょうどテニスを始めたところでしたから、縄跳びでネットを作り、ボレーで打ち合うとか、ワンバウンドで打ち合うとかしています。ほとんど毎日やっていたら、200回連続で打ち合えるようになりました。男子チームはガレージにつけたボクシングのパンチングバッグで運動しています。

自宅勤務をしてみて、意外な良い面をたくさん見つけることが出来ました。片道1時間かかっていた会社との往復がなくなって、1日2時間も時間ができたおかげで、急いで帰宅してご飯の用意をしてとあわてることも、晩御飯の後に疲れてダイニングテーブルでうたたねすることもなくなりました。睡眠時間も平均1時間は長くなって、ミニテニスをして体を動かす時間もできています。体にもとてもいいですね。同僚も「毎日お化粧をしなくてよくなって、肌の調子がとてもいい」と話していました。

– お子さんはどんなふうに勉強していますか?

勉強

我が家はゲームでもコンピュータでもなんでも、リビングルームでしかできないルールがあります。なので、寝るときしか部屋に行かないで、リビングルームに大集合してやっています。

幸いなことに、学区がある程度の時間割を作ってくれて、午前中は特にオンラインでミーティングがあったりしますから、それに従って自分たちで取り組んでいる事が多いです。子どもたちは二人とも思ったより成長していて、どうしても手助けが必要な時以外、私がそこまでつきっきりで何かしないといけない大変さはありません。逆に、ほっといてもある程度ちゃんとやるんだと、子供の成長を感じるきっかけになったのかもしれません。おかげで、私は通常のリモートワークとは異なる状況ではありますが、思っていたよりは自分のペースで仕事をこなせていると感じています。高校生の息子の勉強は本当に見ていないので、本当にやってるのかなと思うところはありますが・・・。「やった」と、口で言ってるだけかもしれません(笑)。

お互いにストレスにならないようにするために、オンライン学習になってから、子どもたちになるべく細かいことは言わないようにしようと思っています。先日、息子は朝9時と10時のミーティングがなかったらしく、朝11時に起きてきたのですが、小言を言おうとすると、「"unusual" な時なので、普通を求めてはいけないとニュースでやっていた」と返されました。やることさえやっていたら OK とし、後はぐっとこらえて細かいことは言わないのが良さそうです。

– 家にいることが長くなって、ストレスはたまりませんか?

自宅待機

休校になった時点で、ストレスをためないように、モチベーションになるものがあった方がいいなと思っていました。高校生の息子にはあれこれ言ってもやらないので自分で何か見つけてもらおうと考えたのですが、小学生の娘は何かきっかけをあげたほうがいいと思いました。夫の店も同じタイミングでお弁当のテイクアウトのみになりましたから、「お弁当につける、桜のクッキーを焼いたらいいんじゃない?」と言ってみました。そして、桜のクッキーが意外と上手にできて、お客さんも喜んでくれたんですね。娘もクッキーを作るのが意外と楽しそうだったので、「それなら、デザートを1日1個作るチャレンジをやってみたら」と提案しました。

それ以来いろいろ作っていますが、レシピもインターネットで自分で探してきます。日本語のレシピなら日本語の勉強にもなりますし、材料を2倍にする計算をしたりもしないといけません。それをすることで、勉強する意味があるんだなと感じてくれたらいいなと思ったりしました。誕生日にもらったインスタントカメラでデザートの写真を撮って、ノートに貼って、レシピブックにするとか、そういうことも自分で考えていました。

高校生の息子はニュースとか見ているみたいですが、特に話はしません。娘はまだ10歳なので、あまりニュースで見聞きしたことを話すと不安な感じのコメントをしたりするので、話す内容は少し気をつけたほうがいいかなと思っています。特に、死者数など不安をあおる内容のものには気をつけるようにしています。友達にも会えず、思い切り遊ぶこともできない中、何かしら気持ちをポジティブに前向きにというのがいいかなと思って、デザートチャレンジして、それを私の Facebook に載せてコメントをいただいて、本人は達成感を感じているようです。そういうところで気持ちを前向きに持っていってあげるのは、親の仕事かなと思ったりしています。

– このような状況になって、どんなことを考えてらっしゃいますか。

前回インタビューされた北村太一さんにとても共感しています。一個人の私ですら、今までとはまったく違う生活になって、家族全員で毎日ご飯を食べることを経験してしまうと、「人生で本当に大切にしないといけないものは何なのか」「これはそういうことを考える時間なのではないか」「働くこととは」とか考えてしまうので、そういうことを考えている人は多いのではないかなと思います。

自宅待機が解除されたところで、以前のような社会になることはないんじゃないかと。ただ、それがどんなふうになるのかというのは想像がつかないのですが、今までみんなが「もっと、もっと、もっと」と思っていたのが、今回自宅待機生活を経験したことで、「そんなに追い求めなくてもいいんじゃないか」「もう少しスローダウンしていいんじゃないか」と思い始めて、「お金をもっと稼いで、もっと早く、もっと便利に」というのとは逆の方向に行ったりする、そういう部分が出てくるのではないでしょうか。

個人の考え方はそれぞれですが、それが集まると、今までのような社会ではなくなるでしょう。自分がどう順応して、どうあわせていくか、考えていかないといけないなと思っています。レストランの場合は、一人一人の外食に対する考え方の変化が影響するだろうと思いますし、私の仕事で言えば、人々の移動に対する考え方の変化が影響してくるのではないかと思います。

自宅待機も、人によって、また置かれている立場によって線引きが違ったりする、センシティブな話題なんですね。社会的距離、外出、そういうことに対する考え方も人それぞれ違っていて、温度差があったりしますので、いつも以上に言葉に気をつけないといけないんだなと思っています。

今の状況も、そもそも終わりがあるのかわかりません。自宅待機が明けたら、今までと同じように学校とか職場とか対応できるのか。新型コロナウイルスが消え去ることがないとなると、その世界に自分たちが対応して共存してという社会になっていくわけで、人の動き方からレストランのあり方から、いろいろなものがずいぶん変わってしまうと思います。

今はまるで、経済活動をストップするという、大実験の中にいるような感覚です。「社会を止めたらこうなった」みたいな。それぐらいいろいろなものが止まっています。一つ止まると、あれもこれも止まる。社会というのは、すべて関連して一緒にまわっていた歯車だったんだなと改めて実感しています。

– 大実験の中にいる、これからどうなるかよくわからない、親も一人の人間としてその間に新しいことをいろいろ考えさせられますね。そんな中で成長する子どもたちのためにいろいろな工夫をされているお話も伺えて勉強になりました。ありがとうございました。

掲載:2020年4月 聞き手:オオノタクミ



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