さて、前回まではワシントン州のエステートプラン作成の必要性と、その準備やエステートプランニングに関する書類の詳細についてお話ししました。今回は、ワシントン州法において、複数の人が一つの資産を共有する場合の形態と注意点についてお話しします。
共同名義の形態
もちろん、一人が単独で名義人になる場合も多くありますが、二人以上の人が動産や不動産を共有名義にする場合、ワシントン州法では基本的に次の三つの形態に分かれます。
1. Tenancy in Common
Tenancy in Commonとは、複数人がそれぞれの割合で所有権を共有するという形になります。必ずしも全員が平等な割合を所有する必要はありません。所有者の一人が亡くなった場合、その人の持ち分は相続人に引き継がれるので、亡くなった人の遺言書(遺言書がない場合は、州の無遺言相続法)に沿って相続されることになります。
例えば、Aさん、Bさん、Cさんの三人が三分の一ずつ所有していて、Aさんが亡くなった場合、Aさんの持ち分は遺言書によりAさんの相続人にそのまま引き継がれることになります。なので、Aさんの死後は、Bさん、Cさん、Aさんの相続人がそれぞれ三分の一ずつ権利を持つことになるわけです。この場合、当然 Aさんの遺言書を裁判所に提出し(遺言書がなければ州無遺言法にのっとって)、プロベートという正式な相続手続きを取る必要があるので、Aさんの持ち分が相続人に渡るまでに多少の時間がかかります。
2. Joint Tenancy with Right of Survivorship(略してJTWROS、生存権付き共同所有権)
所有権がJTWROSの場合は、共同所有者全員が一つの資産について平等な権利を持つことになるので、前述のTenancy in Commonのように、一人が80%を所有し、もう一人が20%を所有ということはありません。また、JTWROSでは、基本的にそれぞれの所有者が資産の100%を使用する権利を持ちます。
JTWROSの共同所有者の一人が亡くなった場合、亡くなった人の持ち分は生存中の共同所有者に自動的に引き継がれます。先の例と同じで、Aさんが亡くなった場合、Aさんの三分の一の持ち分は自動的にBさんとCさんに平等分配されるので、Aさんの死後は、BさんとCさんがそれぞれ二分の一ずつ権利を持つことになるわけです。この分配はAさんの遺言書にまったく関係ありませんし、プロベート手続きも必要ありません。ただし、三人が同時に亡くなった場合や最後に残った一人が亡くなった場合は、プロベートが必要です。
また、ワシントン州でJTWROSという所有権を持つには、その旨が必ず書面に明記されている必要があります。つまり、不動産の場合はDeed(不動産の証書)にそれが明記されていなければなりません。逆に言えば、共同名義で不動産を所有する場合の証書に「これはJTWROSである」と明記されていない場合は、デフォルトでTenancy in Commonの所有権であるとみなされます。
3. Community Property(夫婦共同財産)
ワシントン州は夫婦共同財産制の州なので、夫婦間であれば community property という形で資産を所有することができます。夫婦が婚姻期間中に得た資産はすべて共同財産とみなされるというのが大まかな基本ルールですが、婚姻前にどちらか一人が所有していた財産、また婚姻中でも夫婦の一方だけが贈与や相続によって取得した財産については、その人の特有財産(separate property)とみなされます。
夫婦のどちらかが亡くなった場合、亡くなった方の持ち分はその人の遺言書に沿って分配されますが、遺言書がない場合、夫婦共同財産はすべて残された配偶者に渡ります。しかし、JTWROSのように自動的に渡るわけではなく、あくまでもプロベートを通して残された配偶者に分配されることになるので、要注意です。
JTWROSの利点と欠点
さて、JTWROSという所有権は、亡くなった人の持ち分をほぼ自動的に共同名義人に引き渡すという点で大変便利なのですが、逆に、亡くなった人が残した遺言書を通さずに引き継がれてしまうため、思いがけない結果を招くこともあるので要注意です。
例えば、ご夫婦の資産のすべてがJTWROSという形になっている場合、亡くなった配偶者の資産のすべてが遺言書を通さずに生存中の配偶者に分配されるため、プロベートを回避できるというのは大きな利点です。しかし、例えばご夫婦の遺言書に節税対策のためのトラストなどが組み込まれている場合、すべての資産が遺言書を介さずに分配されてしまうことでトラストへの資金が調達できなくなり、せっかくの節税対策がうまく機能しなくなることも考えられます。
また、何かあった時に自分の銀行口座を子どもが管理できるよう、親が自分名義の口座に子どもの一人を加えるというのをたまに見ますが、これも注意が必要です。口座がJTWROSの形になっている場合、親が亡くなると口座は自動的にその子ども一人に渡ってしまうので、他の兄弟がいる場合は「それは不公平」と文句が出ることも考えられます。
したがって、エステートプランの中で資産を共同所有する際には、その状況や目的によって、所有形態を使い分けることが大切です。
次回は、夫婦共同財産についてお話しします。
Ako Miyaki-Murphey, J.D.
パーキンズ・クーイ法律事務所(Perkins Coie LLP)
シカゴでパラリーガルとして働きながら2002年にJohn Marshall Law School(現在はUniversity of Illinois Chicago School of Law)でJ.D.を取得。2002年から2006年までハワイ州の弁護士事務所で勤務した後、2006年にワシントン州弁護士資格を取得。シアトルのFoster Garvey弁護士事務所でトラスト・エステート法の経験を積んだ後、2020年から現在のPerkins Coie LLPに勤務。エステートプランの作成だけでなく、ワシントン州のプロベート手続きやトラストの管理、日本在住の遺産受取人代理や、相続税・贈与税申告書の作成も行う。
【公式サイト】www.perkinscoie.com
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