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ワシントン州のプロベートの流れ

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第9回のコラムでは、ワシントン州でプロベートが不要な場合についてご説明しました。最終回の今回は、プロベートが必要な場合、どういった作業が必要で、どんな手順で進んで行くのかについて、簡単にご説明します。

目次

遺言書の提出と執行人の任命

まず、故人に遺言書がある場合は、遺言書の原本を所有・保管している人が遺言者の死亡を知ってから30日以内に遺言書を直接裁判所に提出するか、または遺言書内に執行人として指名されている人に遺言書を引き渡す義務があります。

状況によっては、裁判所が遺言書のコピーを受け付けてくれる場合もありますが、基本的には原本が必要ですので、遺言書を作成した場合は、必ず家族や親しい友人などに遺言書の原本の保管場所を伝えておくのが無難でしょう。

遺言書がない場合は、第6回のコラムでもご説明した通り、故人の配偶者や子供といった近親者が裁判所に執行人任命の申し立てを行うのがほとんどです。

裁判所への申し立てを行うにあたって、死亡を証明する書類を裁判所に提示する必要がありますが、どういった証明が必要なのかは、状況によって異なるようです。ワシントン州内で亡くなった場合、死亡証明書(Certificate of Death)は州の保健局から発行されますが、葬儀会社を通して入手するのがほとんどのようです。

遺言の有無にかかわらず、裁判所から正式に任命された執行人は、任命を受けてから20日以内に自身が任命されたこととプロベート開始の通知書を各相続人や遺産の受け取り人に送達しなければなりません。それと同時に、執行人は、ワシントン州社会保健サービス局(Washington State Department of Social and Health Services)や、ワシントン歳入局(Washington State Department of Revenue)にも通知する義務があります。

遺産目録の作成

執行人に任命された人が最初に取り組まなくてはならないのは、遺産目録の作成です。

故人の銀行口座や投資・年金口座、不動産はもちろん、家具や車、家庭用品といった個人財産まで、財産のすべてをリストアップし、それぞれの品目について相続発生日の評価額を記載する必要があります。場合によっては、弁護士や税理士、鑑定士の指示を仰ぎながら、かなり時間の掛かる業務になります。遺産税申告が必要な場合は、遺産目録に沿って申告書が作成されるため、大変重要なプロセスです。

ワシントン州法では、執行人の任命から3ヶ月以内に目録を作成することが義務付けられていますが、目録を裁判所に提出する必要はありません。ただし、3ヶ月が過ぎた時点で相続人や受け取り人からの要求があった場合は、10日以内に目録を開示する義務があるので要注意です。

遺言に関する異議申し立て期間

ワシントン州法では、執行人が任命されてから4ヶ月間、遺言の有効性に異議を唱える期間が設けられています。

ただし、異議の根拠となるのは遺言書の内容ではなく、故人に遺言書を作成・署名する能力があったかどうか、遺言書署名時に故人が不当な影響や拘束を受けたり詐欺がなかったかどうかといった、遺言書そのものが有効であるかどうかという点に限られます。

異議申し立てのある場合、申し立てを行った人が遺言書の無効性を立証する責任を負います。

債権者請求手続き

ワシントン州のプロベートでは、執行人が希望する場合、債権者請求手続き(creditor claim process)を取ることができます。これは、執行人が故人の債権者に通知して、指定した期間以内にクレームを提示するよう要求し、故人の債務を清算する手続きのことです。

この手続きを踏む場合は、債権者に対する通知を裁判所に提出し、同時に故人が居住していた郡の新聞に公告を出す必要があります。また、執行人には故人の郵便物や財務記録を合理的な範囲で調査する義務があるので、債権者の連絡先がわかる場合は、直接書面で通知するのがよいでしょう。決められた期間内に提示されないクレームは、基本的に請求手続き期間の終了と同時に消滅します。

ワシントン州の債権者請求手続きは、あくまでもオプションで、新聞の広告代など実費は多少掛かりますが、この手続きを踏むことによって故人の債務清算を一定の期間で終了することができるため、プロベートを効率的に進めるにはよい手段だと言えます。この手続きをしない場合は、故人の死亡日から24ヶ月間、エステートや遺産の受け取り人が債権者からの請求について責任を負い続けなくてはなりません。

遺産税申告

第7回のコラムでもご説明した通り、連邦遺産税やワシントン州遺産税申告が必要な場合は、故人が亡くなった日から9ヶ月以内に、執行人が申告・納税しなければなりません。連邦遺産税もワシントン州遺産税も、申告締切日については6ヶ月間の延長が可能ですが、基本的に支払い期限を延長することはできません。

連邦遺産税申告は米国内国歳入庁(Internal Revenue Service)へ、ワシントン州遺産税申告はワシントン州歳入局へ提出し、それぞれの機関から遺産税申告完了のレターが発行されるのを待ちます。

現時点では、どちらの機関も申告書の処理、確認からレターの発行までに最低でも9ヶ月、長い場合は2年近く掛かる場合もあります。

プロベート完了に遺産税申告完了レターは必要ありませんが、万が一、連邦政府や州当局から監査が入ったり、税金の追徴等がある場合に備えて、プロベートはそのままにしておくのがベストです。そのため、遺産税申告が必要な場合は、プロベートも長丁場になることが予想されます。遺産税申告完了レターを受け取った後、ようやく最終的に遺産を分配し、裁判所に必要書類を提出してプロベート完了の運びとなります。プロベートが完了した時点で、執行人はやっとその義務と責任から解放されます。

プロベートはあくまでも裁判所を通した手続きですが、その途中にも故人の口座や不動産の所有権の移動、エステート口座の開設など細かい業務がたくさんあるので、執行人はその都度、弁護士や税理士、ファイナンシャルアドバイザーの指示を仰ぐことをおすすめします。

これまでのコラムを通して、ワシントン州のエステートプランの大切さや財産の名義形態、執行人の選び方、贈与・遺産税、そしてプロベートについてご説明させていただきました。お一人お一人の状況はまったく異なるので、エステートプランもプロベートもその内容や手続きは個人で異なります。ご自分が納得できるエステートプランを作成し、ご家族が安心して迅速に相続するためにも、少しでも参考になれば幸いです。これまでコラムをお読みいただき、どうもありがとうございました。

Ako Miyaki-Murphey, J.D.
パーキンズ・クーイ法律事務所(Perkins Coie LLP)
シカゴでパラリーガルとして働きながら2002年にJohn Marshall Law School(現在はUniversity of Illinois Chicago School of Law)でJ.D.を取得。2002年から2006年までハワイ州の弁護士事務所で勤務した後、2006年にワシントン州弁護士資格を取得。シアトルのFoster Garvey弁護士事務所でトラスト・エステート法の経験を積んだ後、2020年から現在のPerkins Coie LLPに勤務。エステートプランの作成だけでなく、ワシントン州のプロベート手続きやトラストの管理、日本在住の遺産受取人代理や、相続税・贈与税申告書の作成も行う。
【公式サイト】www.perkinscoie.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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