アメリカの依存症に関する最新の調査結果『2020 National Survey of Drug Use and Health(NSDUH)』(2020年調査、2022年7月公開)によれば、アルコール依存症が最も多く、次いでマリファナ、市販または処方箋による鎮痛剤への依存症が多くなっています。
依存症は、特定の物質や行動を続けることにより脳に変化が生じて症状が引き起こされる病気で、本人の心の弱さのために起きている現象ではありません。早期の治療介入を行うことで、乱用や依存症への移行の予防につながります。
アルコール依存症
飲酒は合法で、社会的にも認知され、仕事上またはプライベートの付き合いにも欠かせない反面、依存性が高く、若年層の依存者も増えています。
日本では精神科医が依存症の治療を行いますが、アメリカでは依存症の治療資格を持ったカウンセラーが治療を行うのが一般的です。カウンセリングだけでは断酒が難しい場合は、MAT という処方箋を使った治療を併用することもあります。
処方薬依存症
処方薬依存症の一例として、ストレスなどによる不眠や不安を緩和するために医師が処方する、主にベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬や抗不安薬を常用しているうちに、薬効が薄れ、乱用したり使用量が増えて過剰摂取が続くことがあります。
これが、ついには自分の意思では服用を中止できなくなった段階で、依存症と診断されるようになります。
マリファナ(大麻)依存症
マリファナ(大麻)は、日本では大麻取締法により、所持も栽培も禁止されています。
一方、アメリカでは、バイデン政権下でマリファナの規制撤廃が進んでいます。これは合法化を支持する人々が増えている背景によるもので、嗜好用のマリファナは、ワシントン州やオレゴン州をはじめとする19の州とワシントンDCで、医療用は37の州で合法となっています。
マリファナの効用としては、鎮痛効果、多幸感、吐き気の抑制、食欲増進、緊張の緩和などがありますが、一方で、判断力や集中力、短期記憶を低下させ、依存性も問題になっています。
日本からアメリカに来た人の場合、日本では違法なマリファナがアメリカでは手軽に入手できるため、好奇心から、または友人に勧められて試してみて、次第に依存が高じる事例が多く見られます。特に学生の方は、やる気がそがれ、勉強に集中できなくなるため、注意が必要です。
フェンタニル(Fentanyl)の使用にともなう死亡例
近年、フェンタニル(Fentanyl)使用にともなう死亡例が大幅に増加し、全米、特に北西部のメディアで大々的に報じられてきました。
フェンタニル(Fentanyl)は、本来、麻酔や鎮痛、疼痛緩和の目的で利用される合成オピオイドで、一般的には青色の錠剤で、ブルーとも呼ばれています。
安価で製造が容易なため、嗜好用の薬物の多くに混在し、使用者がそれと知らずに服用して、致死量の過剰摂取が起こる事例が多く報告されているからです。
また、ヘロインと比べて、使用方法が簡単で、ハイ(いわゆる多幸感)の感覚が強く、短時間で効果が消滅してしまうため、服用を繰り返し、過剰摂取になってしまう傾向があります。
最近は、若年層や低年齢層がターゲットにされ、『レインボー・フェンタニル』と呼ばれる、キャンディのようなカラフルな色、さまざまな形やサイズで高濃度のものが出回り、DEA(Drug Enforcement Administration:アメリカ麻薬取締局)が学齢期のお子さんを持つ保護者へ注意喚起しています。
お子さんの様子や生活習慣などに普段と違う変化が見られたり、何か心配な場合は、スクールカウンセラーや、かかりつけの医師、依存症を専門とするカウンセラーへのご相談をお勧めします。
Asian Counseling and Referral Services
橋本晴美 MA, CDP, LHMC, MAC, NCPG-II
総合商社や法律事務所の勤務を経て、1999年に渡米。臨床心理学の修士課程で精神障害、依存症、薬物中毒などを学びました。2004年よりシアトルのAsian Counseling and Referral Services にて、メンタルヘルス、薬物依存症、ギャンブル依存症などのカウンセリングやコンサルテーションを行っています。
- Licensed Mental Health Counselor
- Licensed Chemical Dependency Professional
- National Certified Problem Gambling Counselor II
- Certified Geriatric Mental Health Specialist
- NCGC Board Approved Clinical Consultant
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