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アメリカにおける薬物依存症 【実例】

薬物依存症の症例

数年間の OL 生活を経て、コミュニティ・カレッジで英語を勉強するためにロサンゼルスへやって来た A 子さんは、友人から「リラックスできるから」と大麻(マリファナ)の吸煙を勧められました。

好奇心と外国にいる開放感から試したところ、リラックス効果があり、テストやレポート提出に伴う不安感が和らいで、常習するようになりました。

数ヶ月後、雑誌やインターネットでコカインに関する記事を読み、好奇心から試したところ、大麻とは違う、「気分が高揚し、幸福感がみなぎる」感覚を味わいました。初めて試したときのコカインの使用感覚が忘れられずに使用を繰り返した A 子さんは、コカインを購入するために徐々に友人や日本の両親から借金をするようになりました。コミュニティ・カレッジは、遅刻や欠席が多くなり、結局ドロップアウトしてしまいました。

一方、コカインによる当初の陶酔感や高揚感は、段々弱まり、すぐに効果が切れてしまうようになったため、使用回数や量はどんどん増え、使用していない時はイライラ感や不安感が募るようになりました。

この頃から毎日の生活がコカインを中心に回り始め、コカインを入手するために、コカインの密売を手伝うようになりました。同時に幻聴や妄想も頻繁に経験し、天井や床下、外部からの声が昼夜を問わず A 子さんを悩ませるようになっていきました。食欲もなく、虚脱感が激しく、一歩も外に出られない状態になっているところを、心配して駆けつけた両親に発見されました。

依存性薬物の実態

日本では、大麻(マリファナ)の無許可所持には最高懲役5年、営利目的栽培には懲役10年という重い刑罰が科せられますが、米国では大麻(マリファナ)を簡単に入手できます。たとえば、ワシントン州ではマリファナが合法化され、身分証明を提示するだけで誰でも購入できるようになりました。

マリファナの効用として広く知られていることには、鎮痛効果や吐き気抑制、食欲増進がありますが、依存性や、やる気を削ぐなどの負の効果も指摘されています。

マリファナは、タバコや酒と同じ、いわゆる「入門薬物(gateway drug)」の代表例で、より副作用や依存性の強いコカインやヘロインなどのハードドラッグの使用に繋がることが立証されています。

A 子さんの場合、比較的作用の弱いマリファナから脳内の快感中枢をより強く刺激するコカインの使用へと短期間で移行してしまいました。この快感中枢は、たとえば一生懸命勉強をしてよい成績をとったり、努力が認められて褒められたりした際に気分を高揚させてくれるため、私たちは苦しいことや辛いことがあっても、その先にある「高揚感」を期待して努力することができるようになっています。

ところが、依存性薬物はその努力のプロセスを一気に飛び越えて直接その中枢を刺激し、多幸感を体験させ、苦痛をやわらげます。したがって、褒められた子どもがせっせと努力するようになるのと同じように、薬物でそのような体験をした人は再びその多幸感を求めて薬物使用を繰り返すようになっていくのです。

症状が進むと、薬物を使っていないときにも、次に薬物を使う機会を待ち遠しいと感じて、自分の中の優先順位が変わっていきます。たとえば、これまで自分にとって大切だったもの – 家族、恋人、友人、仕事、財産、健康、将来の夢 – よりも上位に薬物が位置づけられ、生活スタイルや性格が変化していきます。そして、薬物の使用を自分の意思でコントロールできなくなってしまうため、仕事や信用を失ったり、家族が離散したり、逮捕されて刑務所に服役したり、あるいは精神科病院に入院したりしても、なかなか薬物をやめることができないのが実情です。

薬物依存症は精神医学的障害

薬物依存症は、精神医学的障害です。決して意志が弱いためでも反省が足りないためでもありません。

すなわち、いくら説教や叱責、懇願または罰を与えても、それで快方に向かうことは稀です。なぜなら、薬物を使ったことのある脳は、いつまでも薬物の快感を記憶し、本人が気づかないうちに思考や感情を支配してしまうからです。

そんな状態を脱するためには、薬物依存症の専門治療が必要になります。

Asian Counseling and Referral Services
橋本晴美 MA, CDP, LHMC, MAC, NCPG-II

総合商社や法律事務所の勤務を経て、1999年に渡米。臨床心理学の修士課程で精神障害、依存症、薬物中毒などを学びました。2004年よりシアトルのAsian Counseling and Referral Services にて、メンタルヘルス、薬物依存症、ギャンブル依存症などのカウンセリングやコンサルテーションを行っています。

  • Licensed Mental Health Counselor
  • Licensed Chemical Dependency Professional
  • National Certified Problem Gambling Counselor II
  • Certified Geriatric Mental Health Specialist
  • NCGC Board Approved Clinical Consultant

【電話】 (206) 695-5968
【メール】 harumih@acrs.org
【公式サイト】 www.acrs.org

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、専門家にご相談ください。

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