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アメリカにおけるアルコール&薬物依存症の現状と傾向 2016年6月

はじめまして、Asian Counseling and Referral Service で依存症の治療やカウンセリングに携わっております。このシリーズでは、アルコール、薬物、ギャンブルの依存症についてお話しします。

中毒と依存症の違い

かつて、アルコール中毒(アル中)という用語がアルコール依存症と同義で使用されていました。

でも、「中毒」と「依存症」とは似て非なるものです。

中毒の場合、その原因物質を体内から除去して(解毒)、その物質による健康障害を治療します。例えば、大学や職場、仲間内などの飲み会でお酒を「一気飲み」した時に、気分が悪くなったり、救急車で運ばれたりするのは、アルコールの「急性中毒」によるものです。血液中のアルコール濃度が急速に上昇したときに発症し、最終的には呼吸が止まり、そのまま呼吸困難になって死に至る危険性もあります。

日本人の約半数は遺伝的にお酒に弱いという統計があります。これはアルコールを分解する「アセトアルデヒト脱水素酵素」が体内に足りず、アルコールをうまく分解できないためです。自分のお酒の適量を知らないと急性アルコール中毒を発症するリスクが増えてしまいます。

一方、「依存症」とは、その問題となっている物質の摂取、何らかの行為、誰かとの関係などが止められないといった「コントロール障害」です。

大別すると、物質への依存(ニコチン依存症やアルコール依存症などの薬物依存症)、過程への依存(ギャンブル依存症、インターネット依存症、買い物依存症など)、人間関係への依存(共依存、恋愛依存症、家庭内暴力、ストーカーなど)があり、重い精神疾患にいたる場合もあります。

アメリカにおける依存症の現状

アルコールやタバコ、その他の薬物への依存症は、アメリカで大きな社会問題になっています。これらは摂取しすぎると、身体に耐性ができ、「身体依存」の状態を起こします。その場合、その物質が体内から消失すると、手の震えや発汗、下痢、イライラ感、不安感、けいれん発作などの離脱症状(禁断症状)が現れるようになります。そのため、この不快な症状を回避するために、その物質を摂取し続けなければならなくなり、依存が進行していきます。

アルコールはニコチンと同様に依存性の強い薬物であり、習慣的に多量の飲酒を続けるうちに、個人差はありますが、脳機能や身体反応に変化を引き起こし、依存症が形成されていきます。飲酒を続けていると、徐々に身体がアルコールに慣れて、以前と同じ量では酔うことができなかったり、リラックスできなかったり、眠れなかったりして、アルコールによる効果が減少します。これはアルコールへの耐性が生じた状態です。その結果、さらに飲酒量が増えて、アルコールへの依存が高まり、アルコールへの渇望が強くなるという悪循環に陥ります。

アルコールの場合は、飲酒への渇望が強まる精神依存と、お酒が切れると身体に不快な症状が生じる身体依存の両方が起こります。いったん依存症になると自分の意志で飲酒をコントロールすることが困難になります。また、アルコール摂取を止めたいと思っても、飲酒を控えると離脱症状が起こるため、アルコール摂取を簡単に止めることが難しくなります。そして合併症としてうつ病や糖尿病、肝障害などを引き起こすこともよく知られています。また、肝硬変、肺炎、自殺、動脈系疾患、循環器系疾患による死亡が10倍以上高くなるとの報告もあります。公共の交通手段が限定されるアメリカでは飲酒運転のリスクも増します。

したがって、「アルコール依存症」は、単に体内からアルコールを抜く事(解毒)や、アルコールによる健康障害への治療だけでは解決しません。将来的にそれらの摂取または行為をしないための治療が必要となります。アルコール依存症の大きな特徴は、社会生活ができなくなるほど飲酒渇望が強く、自分で飲酒量をコントロールできなくなるという点にあります。そこで、アルコール依存症の治療では、心のケアがメインになります。依存対象に接触しないことで、依存症者は、依存症になる前の状態まで回復することができます。ここで、依存症における治療とは「回復」に至る道のりです。ここでの「回復」は、依存対象との隔絶を意味します。

日本での依存症の治療は、精神科や心療内科などの診療機関で行いますが、アメリカでは専門のライセンスを持ったカウンセラーまたは依存症を専門に扱っている依存症回復プログラムで受けるのが一般的です。

Asian Counseling and Referral Services
橋本晴美 MA, CDP, LHMC, MAC, NCPG-II

総合商社や法律事務所の勤務を経て、1999年に渡米。臨床心理学の修士課程で精神障害、依存症、薬物中毒などを学びました。2004年よりシアトルのAsian Counseling and Referral Services にて、メンタルヘルス、薬物依存症、ギャンブル依存症などのカウンセリングやコンサルテーションを行っています。

  • Licensed Mental Health Counselor
  • Licensed Chemical Dependency Professional
  • National Certified Problem Gambling Counselor II
  • Certified Geriatric Mental Health Specialist
  • NCGC Board Approved Clinical Consultant

【電話】 (206) 695-5968
【メール】 harumih@acrs.org
【公式サイト】 www.acrs.org

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、専門家にご相談ください。

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