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子どものいる夫婦が離婚という選択を取る時、一番気になるのが子どもの心の成長に与える影響でしょう。親の離婚は子どもの生活全般に大きな変化をもたらします。そして多くの子どもにとって親の別居・離婚は人生ではじめて経験する試練です。親の離婚という人生の危機を子どもが最良の形で乗り越え、その後の人生を健康で豊かなものにするためには、親はどのような点に気を配って子育てをするとよいのでしょうか。
結婚とは人間関係のひとつの形です。個々の夫婦関係の質や、結婚に付随するさまざまな要因を評価することは可能ですが、結婚している状態そのものを良いとか悪いとか評価することはできません。また、離婚とは夫婦が婚姻関係を解消するための法的かつ社会的な手続きです。手続きの進め方に良し悪しの評価はつけられますが、離婚という行為そのものは本来、評価の対象にはできません。
さて、親の離婚が子どもに与える影響についての研究はいろいろありますが、「離婚そのものが子どもに悪影響を与える」という、根拠のある結論を出した研究は今のところありません。しかし離婚という過程の中で生じやすい、子どもの健康な心の発育にとって不利な要因(リスクファクター)、そして逆に子どもが離婚をスムーズに乗り越え、心理的に健康な大人に成長するのに役立つ要因(プロテクティブファクター)は見つかっています。これらの要因は家庭・学校・地域という、子どもの実際の生活の場にあるものばかりです。離婚の際には親は子どもにとってのリスクファクターを最小限に減らし、プロテクティブファクターを最大限に確保することに努めましょう。
主なリスクファクター
家庭
- 酷評的な子育て
- 一貫性のない子育て
- いじめや虐待
- 親が子どもと過ごす時間の大幅な少なさ
- 長期にわたる父母間の争い
- 問題のある親子関係
- 不安定な家庭環境(例:親が再婚・離婚を繰り返す、度重なる転居・転校)
- 親の心理的疾患(例:不安神経症・うつ病・適応障害・人格障害)
- 収入の減少
学校
- 教師の数に対する生徒の数の多さ
- 不適当・不十分なカリキュラム
- 教育その他におけるサポートシステムの不備
地域
- 貧困
- 高い犯罪率
- アルコール・麻薬関連の行動が盛ん
- 子どもの行動を見てくれる大人の不足
- 医療・メンタルヘルスなどのサポートの不備
主なプロテクティブ・ファクター
家庭
- 子どもの人格に対する尊重
- 良好な親子関係
- 子どもの教育への積極性
- 親自身の精神的な健康
- 経済状態の安定
学校
- 思いやり・気遣いのある・協力的な教師の存在
- 生徒への現実的かつ高い期待
- 生徒の学びに必要なサポートシステムの充実
- 生徒の活動の場の存在
地域
- 子どもの健康な成長に協力的で気遣いのある環境
- 子どもが成功することへの高い期待感がある環境
- 子どもにとって意味のある活動の場の存在
離婚は家族関係と生活全般が大きく変化する過程です。離婚する夫婦は子どもを離婚の過程そのものに巻き込まず、親業においては協力的な関係を保ち、子どもの生活環境における不必要で急激な変化を最低限に抑えることに努めましょう。そして家族全員が離婚に関連したストレスを適切に管理することも大切です。子どものために、父母は不必要な争いをせず、タイムリーに離婚を成立させることが望ましいでしょう。
戸村 みゆきさん PhD, Psychologist
臨床心理学者。1998年、シアトル大学心理学科卒業後、2002年に同大学の心理学科修士課程卒業。2010年、セイブルック大学の心理学博士課程卒業。専門は心理療法とペアレンティングエバリュエーション(Parenting Evaluation/離婚訴訟時の子育て能力審査)。日英両語で、個人、家族の諸問題に幅広く対応。豊かな人間関係を育みたい、自己の可能性を広げたい、健やかで充実した人生を送りたいと望むあなたの心の旅をサポートします。
【住所】 3035 Island Crest Way, Suite 108, Mercer Island, WA 98040
【電話】 (425) 429-2069
【メール】 miyuki@islandtherapy.net
【公式サイト】 www.islandtherapy.net
掲載:2011年11月
コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。