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第2回 ドメスティック・バイオレンス(DV)とその原因

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今回はドメスティック・バイオレンス (Domestic Violence: DV)の原因についてお話をすると言いましたが、DV の複雑さを理解していただくため、もう少し DV そのものについて述べてみたいと思います。

DV の特徴

前回のコラムで、DV とは下記のようなものであるとお話しました。

  • 配偶者や恋人による暴力で被害者は女性が圧倒的に多い
  • 暴力には身体的暴力以外に 精神的、性的、社会的暴力がある
  • 私達が普通に考える夫婦喧嘩と違い、一方的である

DV の特徴の一つとして、「DV には周期(サイクル)がある」ということがよく言われます。これは必ずしもそうだとは言えませんが、下記の3つの時期がくり返されるというものです。

1. 緊張期

これは、「ひどい暴力がそろそろ起こりそうだ」と被害者が予感し、緊張と不安の中で毎日びくびくして加害者の様子を伺いながら暮らしている時期です。加害者は言葉や態度で被害者を脅かしたり、けなしたり、馬鹿にしたりします。

2. 爆発期

加害者の暴力が最もひどい時期です。被害者を殴る・蹴る・首を絞める・物を投げる・物を壊すなどの暴力がふるわれます。この暴力のために被害者は大けがをして病院に行くことがあるかもしれません(女性がけがをして救急車で運ばれる最大の理由は、DV によるものという統計があります)。暴力のきっかけは些細なことであり、時には被害者とまったく関係のないことであったりします。

3. 平穏期

ハネムーンの時期とも言われます。加害者が泣いて謝る、もう二度と暴力をふるわないと約束する、被害者の好きなものをプレゼントする、もう一度2人でやり直そうとロマンチックなディナーに誘うなど、一時的に努力します。しかし、これは長くは続かず、また緊張期に戻ります。中にはこの平穏期がほとんどなく、謝ったり優しくならずに、ひどい暴力を振るった後でまるで何事もなかったように振る舞うだけということもあります。

このサイクルが被害者を混乱させ、DV を複雑なものにしています。例えば、暴力を振るわれた後で泣いて謝られると、「こんなに後悔しているんだから許してあげなければ」という気になりますし、「二度としない」と言われるとそれを信じ、加害者が変わるかもしれないと思う(思いたい)かもしれません。優しくされれば、「本当はこの人はそんなに悪い人じゃない、自分にも非があったかもしれない」と思い返すかもしれませんし、特に子供がいれば家庭を壊したくないとの思いもありますから、もう一度努力しようとか、自分さえ我慢すればと考えるかもしれません。そうするとこのサイクルを断ち切ることが難しくなります。加害者は被害者を脅かしたり、暴力を振るったりしてコントロールすること自体を悪いと思っているわけではありませんので、被害者の中には何年にもわたって DV を経験していることがあります。

しかし、暴力は必ずといってもいいほど繰り返されます。また、このサイクルは徐々に短くなり、暴力も激しくなるというのがほとんどです。

DV の原因

では、なぜ DV は起こるのでしょうか。この質問をするとよく返ってくる答えがストレス・酒・薬・怒り・性格(精神)異常などです。しかし、ストレスが高い仕事をしている人は DV を起しやすいかというと、そういうことはありません。酒や薬も暴力を悪化させるものかもしれませんが、直接の原因ではないのです。

怒りというのは人間の自然な感情ですから、誰でも怒りを感じることはあるでしょう。ですから、怒りを感じるから暴力を振るうとは必ずしも言えないわけです。また、加害者が怒りのあまり我を忘れて暴力を振るっているかというとそうとも言えません。一般的に、DV の加害者は「誰にでも暴力を振るう怒りっぽい人」ではないからです。

むしろ同僚や友達からはおとなしい、優しくていい人、まじめに仕事をする人と言われていることが多く、暴力を振るわれたと被害者が言っても、誰にも信じてもらえないことがよくあります。また、DV の加害者は精神病や性格異常者などと診断されることも普通はありません。

なぜなら、前に述べたように、他の場面では問題を起こしていないことが多いからです。

私たちは DV を "学習した行動" と考えています。

暴力の加害者と被害者の関係を考えてみてください。誰が被害者で、誰が加害者なのでしょうか。例えば、親が子供に暴力を振るう児童虐待、十代の子供(ほとんどが息子)が親(一般的に母親・祖母)を殴る家庭内暴力、成人した子供が年老いた親に暴力を振るう老人虐待。こういった力関係を見ると、すべて加害者は強い方、被害者は弱い方です。

DV は、配偶者・恋人に対する暴力で、ほとんどが被害者は女性と言われています。これはなぜでしょうか。女性は男性より弱いのでしょうか。男女平等のはずではないのでしょうか。確かに法律的には日本もアメリカも男女平等ということになっています。しかし、両国で女性の首相や大統領が出るのに後何年かかるのでしょう。世界の経済を動かす大きな会社の経営者・政治家以外にも、教育・宗教・医学などあらゆる分野でリーダーといわれる人たちの中に女性が何人いるでしょうか。2002年の調査によると、女性の国会議員の割合はスウェーデンで45.3%、アメリカで14.3%、日本では7.3%だそうです。また、男性の賃金に対する女性の賃金はスウエーデンで88.4%、アメリカで76.3%、日本で65.3%という結果が出ています。

これを見ると、現実はやはり男性優位の世の中と言えそうです。私達は、子供時代に育った家庭・遊び仲間・テレビ・映画など私達を取り巻く社会から、男女の性的役割を教えられ、男は強いもの、女は弱いものという考えを持って育っています。従って、DV はこのような社会的背景のもとで、男性が女性に力を振るい、コントロールする行動と考えられるのです。

統計によると、日本でもアメリカでも3人に1人の女性が、一生に一度は夫や恋人から身体的暴力を振るわれるという結果が出ており、アメリカ人女性の15歳から44歳のケガの最大の原因は DV によるものです。また、20%の女性が DV のため病院に行かなければならないほどのケガをしたことがあると答えています。そして、女性は夫・恋人から殺される確率が高いとも言われています。特に、女性が別れようと決心して行動に移すときが一番危険です。なぜなら、加害者は被害者が「自分のものにならないならば、誰にも渡さない」と考えるからです。

歴史的に見ても、このような DV や性暴力などは、女性に対する暴力が世界現象となっていることから、国連は「女性に対する暴力撤廃宣言」を1993年に発表しました。これは、他人に暴力を振るってケガをさせたりすれば当然加害者は非難され、犯罪者として罰を受けるのに、夫が妻に暴力を振るっても容認されたり、反対に妻の方が「あなたが何か怒らせることしたのではないのか」と非難されたりしてきたのは間違っている、妻だからといって夫に自分の意志に反することを強要されるべきではない、女性も男性と同じように自分の意志で選ぶ権利があるのだ、というものです。

DV とは

  1. 特殊な問題ではない。女性は誰でも被害者になる可能性がある。
  2. 女性が何か悪いことをしたから暴力を振るわれるのではない。男女の力関係の差による男性の女性に対するコントロールである。
  3. DV・性暴力など、女性に対する暴力は女性の人権に関わる問題である。
  4. 社会における、女性に対する暴力を許さないという態度と、誰も自分の意志に反した行為を強制されるべきではないという認識が必要であること

などをわかっていただければと思います。

掲載:2004年4月

DV に関する相談所:
API Chaya
P.O. Box 14047, Seattle, WA 98114
【メール】 info@apichaya.org
【無料ヘルプライン】1-877-922-4292
【公式サイト】 www.apichaya.org/japanese

LifeWire(旧称:Eastside Domestic Violence Program)
【クライシス・ライン (24時間受付)】 (425) 746-1940 または (800) 827-8840

※現在、「ひろこさん」に直接連絡できるところはありません。

コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。

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