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第6回 DV の加害者とは

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DV の被害者にならないために、どうやって加害者を見分けたらいいかという質問をよく受けます。これはとても難しいことです。行動を見れば加害者になる人をすぐに見分けられるわけではありません。もちろん、DV は加害者の職業・学歴・地位等に関係なく、どこにでも起こる可能性があります。

アンガー(怒り)・マネジメントといって、怒りをどのように認知し、表現するかを学ぶ必要があるとよく言われますが、普通、加害者は誰に対しても怒りっぽい人というわけではありません。むしろ外ではおとなしくまじめな人や、優しくて他人の世話をよくする人だったりします。このため、被害者が家で暴力を振るわれていると言っても誰にも信じてもらえないという話をよく聞きます。また、怒りのために我を忘れて暴力を振るっているかというとそうではなく、冷静に計算して人に見えないところを殴ったりしていますから、怒りのコントロールの仕方を知らないとは言えません。しかし、DV は脅迫を使って相手をコントロールする行動パターンですから、そういう加害者に共通していると言われる性格の傾向(赤信号)がいくつか見つかっています。

(1) 所有欲・嫉妬深さ

被害者が加害者のことを最初は優しい人だったと言うのには、理由があります。被害者ができないことをいろいろ助けてくれた、困った時にこうしたらいいなどとアドバイスしてくれた、つきあってまもないうちに早く結婚しようと迫られたということをよく聞きます。加害者はそのうちに、「愛してるから」「心配だから」と被害者の行動を全部チェックするようになります。例えば、電話が誰からかかってきたか、どこで何をしたか細かく詮索したり、職場の同僚やクラスメートの男性と普通に話をしていても何かあるのではないかと勘ぐったりということが起こるかもしれません。この時期、被害者は「こんなに私のことを考えてくれているんだ」と思いがちですが、異常に嫉妬深かったり、強引なほど関係を急いだりするようでしたら、気をつけたほうがよいでしょう。詮索がひどくなり、友達と少し出かけても「遊び歩いている」と怒ったり、友達が電話かけてくると「何の用だ」と怒鳴るので友達が恐がって連絡してこなくなって孤立してしまい、ますます加害者にコントロールされるという可能性があります。

(2) 保守的な性的役割

妻は家にいて夫の面倒を見るものという考え方が強い人が多いようです。ですから、妻が外で働いたり、学校で勉強して知識や資格を身につけるのには反対しがちです。結婚前に、お互いに納得して妻が家にいると決めたとしても、夫婦の関係が対等というわけではありません。大切なことを決めるのは全部夫、妻が不満を言おうものなら「誰のおかげで食べていけると思っているんだ」と一喝されてしまいます。最初は「強くて私を引っ張ってくれる頼もしい人」と思うかもしれませんが、男尊女卑の言動が強い人は要注意。妻をまるで召使であるかのように扱い、しつけや教育という名のもとに妻や子供に暴力を振るっても、自分が悪いと思わないということになりかねません。

(3) 性的暴力

前述の男尊女卑の考え方は性的関係にも現れます。セックスは男の満足のためという態度、女性を性の対象物としか見ないような言動、暴力的なセックス等は、例え冗談と言い訳しても要注意。被害者から「さんざん怒鳴ったり殴られたりした後、まるで何もなかったかのようにセックスを強要されてつらかった」という話を聞きます。日本ではまだ夫婦関係では強姦ということはなじみがないでしょうが、アメリカでは夫婦でも、セックスを相手の意志を無視して強要すればマリタル・レイプ(marital rape)になります。

(4) 極端に批判的な言動

最初は被害者の家族や友達の批判から始まるかもしれません。彼が自分の友達のことをいつも悪く言うので家に呼べない、実家とうまくいかないので電話しにくいなどということがあれば要注意。そのうち被害者を始終批判したり、侮辱するようなことを言ったり、人前でも恥をかかせるというようなことが続くと、被害者も自分は何もできない、だめな人間だと思わせられることになります。

(5) 責任転嫁

人間は誰でも間違いを犯します。でもその度に、人のせいにし、ストレスがたまっていたから、酒を飲んでいたからといつも言い訳して自分で全く責任を取らないような人には気をつけましょう。そのうちに問題は何でも被害者のせいになったりします。被害者が自分の言ったとおりしていれば殴らなくてもすむのに、やらないから悪いんだ、被害者がちゃんと家のことをしていないから自分は疲れて仕事がうまくいかないんだと言いかねません。

(6) 動物虐待・弱いものいじめ

普段は優しい人なのに、ある日、突然動物を虐待し、"遊び" だと片付けたのでヒヤッとしたとか、部下へのからかい方がひどくてびっくりしたとかという経験がありませんか。弱い人・ものへの思いやりのなさ、虐待をたいしたことはないと過少化する態度は、加害者によく見られることです。後に被害者にひどい暴力を振るってもちょっと障っただけと平然としていたり、幼児がおもちゃをちゃんと片付けなかったと言ってひどい体罰を振るうなどということになりがちです。

上記の加害者の行動が自分に当てはまると思う人は、専門家に助けを求めてください。本当に DV の加害者になりたくないと思えば、変わることができる可能性があります。もうあなたが DV の加害者であるなら、あなたが気がつかなくても、家族はとても傷ついています。「妻が警察を呼んで逮捕されたために仕事を失った」と彼女を逆恨みしないですみますように。妻でも誰でもあなたが自分の意志で暴力を振るえば犯罪です。そういう行動をとると決めたのは、加害者であるあなたなのですから。

掲載:2004年9月

家庭内暴力・性暴力被害者のための日系人専門アドボケイト
ひろこさん

名古屋大学教育心理学専攻。埼玉県児童相談所・東京都下の一般病院・精神科病院などでの心理職・カウンセラー歴10年、インディアナ州立大学で心理学修士、ロサンゼルスでインターン後アジア系ドメスティック・バイオレンス被害者用シェルターに勤務。2003年5月から2004年8月までドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者のための非営利団体 Asian & Pacific Islander Women & Family Safety Center(アジア・太平洋諸島出身の女性と家族のためのセーフティ・センター、現 API Chaya)でアドボケイトとして勤務。DV・性暴力などの被害者に直接相談に応じる他、DV についてのコミュニティ教育やアウトリーチに力をいれています。

DV に関する相談所:
API Chaya
P.O. Box 14047, Seattle, WA 98114
【メール】 info@apichaya.org
【無料ヘルプライン】1-877-922-4292
【公式サイト】 www.apichaya.org/japanese

LifeWire(旧称:Eastside Domestic Violence Program)
【クライシス・ライン (24時間受付)】 (425) 746-1940 または (800) 827-8840

※現在、「ひろこさん」に直接連絡できるところはありません。

コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。

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