これまでは DV の "直接の被害者" として被害者の女性をサポートすることに焦点が置かれていました。しかし最近では、たくさんの調査や研究の結果から、"間接的な被害者" である子供に対しても深刻な影響を与えることがわかり、子供への影響も重大な問題として認識されるようになりました。そこで今回のコラムでは DV の子供への影響を統計学的な数字を交えてお話したいと思います。
アメリカでは毎年300万人から1,000万人の子供が DV を目撃していると考えられている。
子供が DV を目撃すると、実際に精神的虐待にあうのと同じ症状を起こします。ですから子供が直接被害にあう "児童虐待" は当然問題ですが、最近はこの暴力を目撃することが子供に与える影響も重視されるようになりました。
家庭に暴力がある子供の90%が DV を目撃している。
子供は DV の存在を知らないと思っている親が多いのですが、子供は見ています。それはどんなに小さな子供であっても同じことです。
DV のある家庭では、DV がない家庭に比べ、子供に対する虐待・養育放棄が15倍の確率で起こっている。
また、父親が頻繁に母親に身体的暴力を振るう家庭では、子供にも暴力を振るう確率が50%あります。子供にあざなどがあり、「児童虐待では?」ということで調べてみたところ、DV がわかったというケースがよくあります。母親をコントロールするため、父親が子供に暴力を振るうことが多いのですが(母親は子供を傷つけたくないため、父親の言う通りにせざるを得なくなる)、時には暴力の被害者である母親が子供の面倒を十分見られなかったり、子供をせっかんしたりすることもあります。
DV の家庭では娘が父親からの性的虐待を受ける率が普通の家庭より6.5倍高い。
特に母親に性的暴力を振るう父親は、子供にも同じような暴力を振るいがちです。そのため母親が嫌なことでも応じたり、娘が犠牲になっても母親は知らなかったということもあります。
DV を目撃した男の子の75%が問題行動を持っている。
男の子にとって父親は一番身近な男性としてのモデルになります。そのため、暴力を振るう父親を見ることで、暴力を使ってでも相手をコントロールしていいのだと学んでしまいます。その結果、幼い子に対するいじめ・動物虐待・乱暴な行動を起こしがちです。また、大人になってからは DV の加害者になる率も高くなり、世代間のサイクルが起こることにもつながってしまいます。
次回は、子供の発達段階による DV の影響についてお話します。
掲載:2004年6月
家庭内暴力・性暴力被害者のための日系人専門アドボケイト
ひろこさん
名古屋大学教育心理学専攻。埼玉県児童相談所・東京都下の一般病院・精神科病院などでの心理職・カウンセラー歴10年、インディアナ州立大学で心理学修士、ロサンゼルスでインターン後アジア系ドメスティック・バイオレンス被害者用シェルターに勤務。2003年5月から2004年8月までドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者のための非営利団体 Asian & Pacific Islander Women & Family Safety Center(アジア・太平洋諸島出身の女性と家族のためのセーフティ・センター、現 API Chaya)でアドボケイトとして勤務。DV・性暴力などの被害者に直接相談に応じる他、DV についてのコミュニティ教育やアウトリーチに力をいれています。
DV に関する相談所:
API Chaya
P.O. Box 14047, Seattle, WA 98114
【メール】 info@apichaya.org
【無料ヘルプライン】1-877-922-4292
【公式サイト】 www.apichaya.org/japanese
LifeWire(旧称:Eastside Domestic Violence Program)
【クライシス・ライン (24時間受付)】 (425) 746-1940 または (800) 827-8840
※現在、「ひろこさん」に直接連絡できるところはありません。
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