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第8回 DV と法律

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DV にはさまざまな法律が絡んできます。DV という犯罪、保護命令、接近禁止命令、また、離婚、親権の問題、被害者が移民の場合の法律等とても複雑で、弁護士の助けが必要になることがよくあります。大きな DV 機関にはたいていリーガル・アドボケイト(legal advocate)という DV の法律に詳しいアドボケイトが存在し、被害者をサポートしています。ここでは、ワシントン州の DV 犯罪法、各命令、離婚、そしてアメリカの DV 被害者の移民に関する法律について、簡単に述べてみたいと思います。

犯罪としての DV

DV の法律的な定義は、通常考えられている DV の定義よりも狭く、身体的暴力、およびその脅しや性暴力が主なものです。ワシントン州の法律で DV とは:

  1. 家族、または同居者間の身体的危害、ケガ、襲撃、またはそのようなことがすぐに起こるという恐怖感を持たせるような行為
  2. 家族、または同居者による性攻撃
  3. 家族、または同居者によるストーキング(被害者の後をつけまわしたり、繰り返し嫌がらせをして被害者を悩まし、恐がらせる行為)

ですから、被害者や近所の人が911に電話をして警察が来た場合、警察はカップルおよび目撃者、それぞれから話を聞き、加害者が暴力を振るったことを認めたり、被害者がケガをしているなど DV が起こったことが明らかな場合、加害者は逮捕され、告訴されます。有罪と認められれば、非接近命令(non-contact order)や DV 治療を受けることなどの命令が出されます。

保護命令(Protection Order)

DV の被害者は、(元)夫、子供の父親、血縁、または結婚による親戚、同居者、またはデート関係にある(あった)加害者に対して保護命令を求めることができます。前述の非接近命令は検察側が犯罪者に対して求める刑法に基づいた命令であるのに対し、この保護命令は、被害者が求める民法にもとづいたものであるということがこの2つの命令の相違です(この他に、別居・離婚等を裁判所に申請中で、親権や養育費の話し合いが必要な場合の拘束命令(Restraining Order)があります)。被害者は裁判所に行って保護命令の手続きをすると、2週間にわたり一時的な命令がおり、この間に加害者に直接通知が届きます。2週間後、被害者と加害者に対して審議(Hearing)があり、裁判官が1年間またはそれ以上の保護命令を出すかどうか決定します。保護命令の必要性が認められないか、被害者が要求を取り下げた場合、この時点で命令が却下されます。もし保護命令が出ているのに加害者が被害者に接近した場合は、警察は加害者を逮捕することができます。

離婚

ワシントン州の法律で離婚は Dissolution of Marriage(結婚解消)と呼ばれ、ワシントン州では配偶者の同意や理由がなくても離婚することができます(non fault divorce)。何も問題がなければ、弁護士を使わずに、早くて3ヶ月で離婚が成立します。しかし、実際には子供の親権や財産分与の問題のため、それぞれが弁護士を雇って争うことになりがちです。特に DV の場合、加害者が被害者をコントロールする手段として親権や金銭を使いがちです。例えば、子供に愛情や関心がないのに親権を要求する、子供の養育計画(parenting plan)に同意しない、裁判で決められた養育費を払わない、CPS(Child Protection Agency)に被害者が子供を無視していると電話する、現時点で金銭がないのは(一般に、離婚した母子家庭は経済的地位が前より低くなる)母親のせいだと子供に言う、等です。また、加害者が子供に会う権利が認められていれば(Visitation)、被害者が子供を連れて引越しするには、裁判所の許可が必要です。

移民法

アメリカ人、またはアメリカに永住権のある人は結婚した時、スポンサーになって配偶者の永住権の手続きをすることになっています。しかし、DV の加害者は、被害者をコントロールする手段として、わざとこの手続きをしないため、被害者が合法的にアメリカに滞在できなくなってしまうという問題が発生してしまいます。この問題の発生を避けるべく、1994年に Violence Against Women Act(VAWA)が制定されました。この法律により、(元)夫がアメリカ人、または永住権保持者で、申請者本人がDVの被害者であれば、夫の助けがなくても本人と子供は永住権の自己申請をすることができるようになりました。なお、これには結婚の証明、DV の被害者である証明などの書類が必要です。DV の団体・移民専門の弁護士などにご相談ください。

この他の DV に関する法律としては、政府からの経済援助 TANF(Temporary Assistance for Needy Families)を受ける際に必要とされる条件をDV被害者であることを考慮して猶予するものなどがあります。

掲載:2004年11月

家庭内暴力・性暴力被害者のための日系人専門アドボケイト
ひろこさん

名古屋大学教育心理学専攻。埼玉県児童相談所・東京都下の一般病院・精神科病院などでの心理職・カウンセラー歴10年、インディアナ州立大学で心理学修士、ロサンゼルスでインターン後アジア系ドメスティック・バイオレンス被害者用シェルターに勤務。2003年5月から2004年8月までドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者のための非営利団体 Asian & Pacific Islander Women & Family Safety Center(アジア・太平洋諸島出身の女性と家族のためのセーフティ・センター、現 API Chaya)でアドボケイトとして勤務。DV・性暴力などの被害者に直接相談に応じる他、DV についてのコミュニティ教育やアウトリーチに力をいれています。

DV に関する相談所:
API Chaya
P.O. Box 14047, Seattle, WA 98114
【メール】 info@apichaya.org
【無料ヘルプライン】1-877-922-4292
【公式サイト】 www.apichaya.org/japanese

LifeWire(旧称:Eastside Domestic Violence Program)
【クライシス・ライン (24時間受付)】 (425) 746-1940 または (800) 827-8840

※現在、「ひろこさん」に直接連絡できるところはありません。

コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。

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