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第7回 アメリカ在住の日本人 DV 被害者が直面する問題

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アメリカ在住の DV 被害者が日本人の場合、どんな問題があるのでしょうか。今回、日本でこの問題について話す機会がありましたので、以下にまとめてみました。

移住者が直面する問題

まず、アメリカへ移住してきた人たちが直面する問題には、下記のようなものがあります。

  1. 人種に対する偏見
  2. 英語力
  3. 反移民感情
  4. アメリカの文化・習慣・システムの知識
  5. 宗教
  6. 新しい土地
  7. 持っている移民・非移民ビザの種類

移住者であることによって直面する上記のような問題は、DV にどのように影響するのでしょうか。

以前、暴力は力関係の差から起こるとお話しました。私が出会う被害者の多くは、アメリカ人男性と結婚した日本人女性です。そうすると、まず男女関係から来る力の差以外に、アメリカ人と移住者であることによる力関係の差が最初から生じます。

例えば、夫はアメリカ生まれの白人、妻は日本生まれの移住者であれば、その妻は夫・夫の家族や友達・他のアメリカ人から人種に対する偏見を持たれる可能性があります。アメリカでもヨーロッパでも反移民感情が高まっている最近の状況では、移住者は弱い立場に立たされがちです。例えば、何もしていないのに警察に質問されたり、身分証明の提示を求められたりしたという話を最近よく聞きます。また、アメリカ生まれの人と移住者の人とでは英語力の差が当然生じますので、コミュニケーションに関しても夫の方が断然有利となります。さらに、アメリカの文化や習慣についてもアメリカ人の夫の方がもちろんよく知っていますし、移住者である妻は新しい土地でどこに何があるか、どうやって目的地に行くかもわからず、夫に頼りがちです。特に、日本で車を運転したことがない人は、日本のようにバス・地下鉄・電車などの交通機関があまり整っていない地域で一人でどこにも行くことができない場所に住むことになれば、夫に頼らざるをえなくなります。そして、夫はアメリカ国籍ですが、妻はその夫がスポンサーになって初めて永住権を取得することができるという弱い立場にあります。

そのような状態は、DV にどう影響するのでしょうか。

最近では警察・裁判所・病院、その他の相談機関で DV についての研修が行われているところが多いのですが、職員全員がその研修を受けているわけではなく、特に偏見やか反移民感情はすぐになくなるものではありませんから、実際には DV の被害者が移住者であることから、より苦しい立場に立たされることがよくあります。

例えば、夫に乱暴された妻が警察を呼んだとします。そこで妻が移住者であることから警察がまじめに取り合ってくれなかった、妻の主張を信じてくれなかったということがままあります。そして、通訳を頼んでも「あなたの英語は大丈夫だ」と通訳を呼んでもらえなかった、警察官は夫の話ばかり聞いていた、夫や子供が妻の言うことを通訳したため、妻の要求が何も通らなかった、などといった状況にも陥ってしまうこともあります。その結果、「つまらないことで通報するな」「国に帰れ」「永住権は持っているのか」「なにしにアメリカに来たのか」「国に送り返すぞ」と言われた人もいます。特に DV の直後は、妻は乱暴されて精神的にも取り乱したり、興奮したりしているのに、夫はにこやかに落ち着いているため、第三者は夫を信じてしまいがちなのです。裁判所や他の相談機関でも、英語でうまく説明できなかったり、相手の偏見のためにきちんと取り合ってもらえなかったということがあります。

妻に不利なこういう状況を、DV の加害者である夫は当然利用します。例えば警察に対して「いやー、すみません、妻がヒステリックで大げさに警察を呼んだりして」とか、「妻が悪いので、僕が離婚を口にしたら、妻が仕返しに警察を電話したんですよ」と言ったり、妻に「どうせお前の言うことなんか誰も信用しないから、警察を呼んでも無駄だ」とか、「警察が来れば、お前が逮捕されるんだぞ」「俺がつかまればお前はホームレスになってしまうんだぞ」「お前が逃げたら、子供はお前には渡さない。アメリカ人の俺に親権があるんだ」と言ったりすることもあります。

さらに、妻がケガをしても病院に連れて行かない、妻よりも財力やアメリカの法律の知識を持つ夫が弁護士を雇って妻を不利な立場に追いやる、ビザの手続きをしない、仕事が合法的にできない妻に無理やり仕事をさせた上、それを口実に「言うことを聞かないと警察を呼んで逮捕させる」と脅かすなど、さまざまな手口が使われることもあります。

その結果、妻は「助けを求めても、助けを得られない」ということが起こります。このようなことから、アジア人の妻は、一般の人より DV が原因で死に至る率が高いという調査結果が、ワシントン州でも出ています。ただし、加害者がするべきビザの手続きをわざとしないために被害者が不法滞在者になってしまうのを防ぐため、DV の被害者であることが認められれば、アメリカ人や永住権を持っている夫がスポンサーにならなくても妻が永住権を自己申請できるようになりました。1994年に制定され、2001年に改正された VAWA(Violence Against Women Act)がそれです。

アメリカ在住日系女性と DV

アメリカ在住日系 DV 被害者に関する研究は、ミシガン大学の吉浜先生がなされたものが唯一のようです(他の研究をご存知の方がいらっしゃればご一報下さい)。吉浜先生の1995年の調査では、アメリカ生まれ・日本生まれの日系人211人の面接調査が行われ、次のような結果が出されました。

  1. 61%が身体的・精神的、あるいは性的暴力を受けたことがある。
  2. 52%が身体的暴力を受けたことがある。
  3. DV において、世代による違いはない。
  4. 71%が DV の対処に日系人であることが影響している(例えば、争いを避ける傾向やガマンしがちであること、日本の男性優位社会、個人より家族優先であること、困っても外に助けを求めないなど)。
  5. 日本生まれの女性とアメリカ生まれの女性の間には、DV の対処の仕方に違いがある。アメリカ生まれの人に多いのは、友達に相談すること。しかし、日本人の女性は主に「たいしたことない」と問題を過少評価することで対処しようとする。

この調査の結果から、日系社会で DV があまり見えないのは、決して数が少ないからでなく(むしろ上の調査によると、一般アメリカ人より多い)、被害者が誰にも相談しないからと言えそうです。

日本人女性が直面する問題

次に、上に述べたアメリカへの移住女性であることと日系人という背景以外に、私が DV の被害者に接していて日本から移住した日本人女性が直面する問題について述べたいと思います。

私が感じる日本人女性の被害者が抱える最大の問題は、極端な孤立状況だと思います。前述のとおり、被害者を孤立させるのは加害者がよく使う手段です。友達や家族に会わせないとか、学校や仕事に行かせないことで、被害者を孤立させる、情報は加害者からとなれば被害者は加害者の言うことを信じざるをえず、加害者が被害者を操作しやすくなります。しかし、日本人被害者の場合、日本人移住者であるということで最初から孤立しがちだと思うのです。このことを特に次の点から論じてみたいと思います。

1)宗教

アメリカ社会は、根本的にキリスト教が主流です。キリスト教信者が2%以下という日本から来た日本人でキリスト教信者ではない人は、教会に行く習慣がありません。アメリカ人の夫は日曜になると教会に行き、そこでサポートをしてくれる仲間がいる、妻は何の知識もないので、例え同行しても孤立しがち、ということになりがちです。外国からの移住者のほとんどは、キリスト教であれ、イスラム教であれ、仏教であれ、自国から宗教を持ちこみ、それを中心にその移民の社会ができ、お互いをサポートするコミュニティになります。しかし、移住してきた日本人のほとんどには、そういうコミュニティがありません。

2)家族・親戚

私が出会う被害者のほとんどが、アメリカに家族や親戚が一人も住んでいません。昔の日本から来た移民と違い、同じ村から一緒に来たということもありませんし、他の国から来たいわゆる難民・移民のように家族が一緒に来たとか、親戚や兄弟がアメリカにいるから来たという人もほとんどいません。「日本に住んでいた時や、アメリカに学生で来ている間や旅行中に知り合って結婚してアメリカに移住したため、頼りになるのは夫だけ」という人がほとんどです。被害者は、その夫に暴力を振るわれているのです。家族は日本にいて状況がよくわからないため、被害者が電話で相談しても「自分のことだから、自分で何とかしなさい」とか、「あなたが何か悪いことしたんじゃないの」と言われて助けてもらえない、という話をよく聞きます。

3)日本人コミュニティ

1で述べましたように、ほとんどの日本人は教会に行きませんし、それに代わるまとまったコミュニティがない、日本語で相談に行くことができる社会福祉的な機関がアメリカでは少ないのが現実です(多分ニューヨークかロサンゼルスぐらいでしょう)。

4)英語力

アメリカ人の夫と結婚しているのですから、まったく英語が話せないということはありません。しかし、やはり結婚を機にアメリカに移住した場合、言いたいことを自由に英語で言える人というのは多くないのが現状です。このため、友達ができにくい、近所の人とも知り合いになりにくい、と孤立しがちになります。何か問題があっても、いろんなところへ相談に行くことができない、特に法律の相談や病院での医学的知識となるとやはり英語では難しいためなかなか相談できない、いざという時に助けてもらえる人も少ない、というのが現状です。

5)情報収集

最近、日本でも DV 防止法ができ、また今その改定が先日決まり、12月から施行されることから、マスコミでも DV 問題がかなり取り上げられるようになったようです。DV 関係の本・ビデオ・イベント案内も女性センターなどでずいぶん出ています。そのおかげでアメリカでもインターネットで日本語の DV 情報が簡単に入手できるようになりました。しかし、英語のニュースを読まない、テレビを見ないアメリカ在住の日本人の場合、日本に住んでいる日本人以上に社会の情報が入手できないことがあります。日本にいれば自然にテレビ・新聞・雑誌から、または友人から新しい情報が入手できるのに、アメリカにいるとあまりニュースを見ない、聞かない、という情報不足からも、孤立という問題が発生します。

上記は、移住者なら多少なりとも生じる問題です。しかし、日本人の被害者のほとんどは上記の問題すべてに直面し、孤立が極端になっているため、DV が余計に深刻になりがちである、と言えるのではないかと思います。

次回は、日本の DV 問題の現状をお話ししたいと思います。

掲載:2004年10月

家庭内暴力・性暴力被害者のための日系人専門アドボケイト
ひろこさん

名古屋大学教育心理学専攻。埼玉県児童相談所・東京都下の一般病院・精神科病院などでの心理職・カウンセラー歴10年、インディアナ州立大学で心理学修士、ロサンゼルスでインターン後アジア系ドメスティック・バイオレンス被害者用シェルターに勤務。2003年5月から2004年8月までドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者のための非営利団体 Asian & Pacific Islander Women & Family Safety Center(アジア・太平洋諸島出身の女性と家族のためのセーフティ・センター、現 API Chaya)でアドボケイトとして勤務。DV・性暴力などの被害者に直接相談に応じる他、DV についてのコミュニティ教育やアウトリーチに力をいれています。

DV に関する相談所:
API Chaya
P.O. Box 14047, Seattle, WA 98114
【メール】 info@apichaya.org
【無料ヘルプライン】1-877-922-4292
【公式サイト】 www.apichaya.org/japanese

LifeWire(旧称:Eastside Domestic Violence Program)
【クライシス・ライン (24時間受付)】 (425) 746-1940 または (800) 827-8840

※現在、「ひろこさん」に直接連絡できるところはありません。

コラムを通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 このコラムから得られる情報に基づいて何らかの行動を起こされる場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。

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