これまでのコラムを通して、「子どもには本来、自分で自分を発達させる力が備わっている」という考えにもとづき、子ども達はさまざまな実体験を通して、力を発達させていく必要があるとお話ししてきました。
また、私たち大人が子ども達の「敏感期」を逃さず適切な導きができるよう、子どもを「見る目」を養っていくことの大切さもお伝えしました。
最終回となる今回は、モンテッソーリで大切にしている「個の尊重」についてお話ししたいと思います。
自身や自立心を構築しながら、コミュニティの一員として
モンテッソーリの園では、子どもが自らを発達させる環境を整えることを大きな目標としています。そのため、教師はその一部となりながら、環境を整えることに専念します。
モンテッソーリ園を訪れると、モンテッソーリ・マテリアルと呼ばれる教具に集中している子ども達の様子を目にすることがあるかと思います。子どもたちが自分で教具を選んで取り組む、「お仕事の時間」とよばれる時間があり、その教具は個人を対象に作られているものが多いのです。
そのため、子どもたちがそれぞれ別々に学ぶ学校というイメージを持たれるのかもしれません。見学にいらした保護者の方から、「モンテッソーリ園に通うと集団行動ができるようになるか心配なのですが、どうでしょうか」といった質問を受けることがあります。
実際はその逆で、コミュニティの中での個人の存在をとても大切にしています。
例えば、お水を一つの容器から別の容器に移すお仕事をしていて、水を溢してしまうこともよくありますが、子どもはこぼしてしまったお水を雑巾で拭く方法を学びます。それは、他のお友達が気持ち良く一緒に過ごせるように、次に同じ活動をしたいお友達が気持ち良く使えるように片付けるという、仲間の存在を考えるという意味があります。
また、自分で選んだ活動だからこそ、お片付けまで責任を持つということも大切な学びになります。教具を元の場所に戻すことは、コミュニティの中で自分もお友達も何がどこに置いてあるのかがわかり、安心してお仕事を選ぶことができることにつながります。
床の上に長方形のマットを広げて行うお仕事には、お互いのスペースを尊重するという意味があります。
このように、一日の生活の中で、個人の活動をしながら、お互いを尊重し合い、クラスのコミュニティのメンバーとして、大切なルールを守ることを体験を通して学んでいくことができるのです。
子どもたちは、興味のある教具(活動)を自ら選び、取り組み、集中し、完了することで、心が満たされ、自信や自立心を構築していきます。
棚に美しく並べられた教具自体も、それぞれ目的をもって作られています。個人を対象にした教具が多くあるからといって、モンテッソーリの教育が協調性をないがしろにしているわけではありません。
個人のペースでの学びを尊重
集団行動や協調性を養うため、集団で同じ行動をしたり、時間割に沿って活動をしたりするところもあるでしょう。
一方、モンテッソーリ園では、集団で共に活動する時間(お集まりの時間、ストーリータイム、音楽の時間など)もありますが、個人のペースでの学びを尊重しているため、個人で自由に選択し、活動するお仕事の時間が一日の中心にあります。
お仕事の時間は子どもたちのお気に入りの時間で、それぞれでお仕事を選んだり、お友達と一緒に肩を並べてお仕事をしたり、一緒に同じ活動に取り組んだりと、忙しく手を動かしています。
モンテッソーリの考え方では、子ども一人一人に潜在能力があり、自分のペースで学びながら、自分の力で大きく成長していきます。私達一人一人はこの宇宙に生まれたとても特別な存在という考えからスタートしています。
私たち一人一人に役割がある -「コスミック・タスク(宇宙の役割)」
モンテッソーリのクラスでお誕生日のサン(太陽の)セレモニーを行いますが、その中で先生はお誕生日のお子さんの生い立ちを紹介します。
このセレモニーは「銀河系の中の、太陽系の中の、地球という惑星にある、北アメリカ大陸のアメリカ合衆国という国の中のワシントン州にあるベルビューという町で、○○さんのご家族のもとに○○君が生まれました」といったようにスタートします。
誕生日を迎えたお子さんは地球儀を両手に持ち、太陽に見立てたキャンドルの周りを年齢の数だけ歩いてまわります。これは私たちがこの宇宙に生まれた存在としての位置づけを、わかりやすく可視化するのに役立ちます。
この世界には、たくさんの法則がちりばめられていること、そしてそれぞれに役割があることを、モンテッソーリは指摘しました。これはコスミック(宇宙)のエリアとして、モンテッソーリ教育の重要なカリキュラムの中心になっています。また、宇宙における役割のことを、モンテッソーリは「コスミック・タスク(宇宙の役割)」と呼びました。
例えば、ミツバチは蜜を集めるために植物の間を飛び回り、その間、花粉を他の植物へ受粉させるという重要な役割「コスミック・タスク」を担っています。そのおかげで他の植物は実をつけることができるわけです。
このように、すべてのものは何かしらの縁でつながっており、それぞれが微妙なバランスで成り立っています。そんな不思議を発見したり、感じたりしてもらうことが、コスミック教育の目的でもあります。
これからの子どもたちには、人生を通して、地球人としての自分のコスミックタスクを探求していってもらえることを願っております。
これまで「モンテッソーリの現場から」のコラムをご一読いただきましてどうもありがとうございました。少しでもモンテッソーリ教育や子育ての参考になれば幸いです。今後のお問い合わせにつきましては、こちらのメールアドレスまでお願い致します。お読みいただき、どうもありがとうございました。
掲載:2022年1月
文・写真:斉藤カルコーヴァン智美
慶應義塾大学文学部、シャミナード大学院幼児教育学科卒。ワシントン州ベルビュー市にある日本語と英語のバイリンガル幼稚園、ピカケスクール園長。日本では株式会社オリエンタルランドが経営するチャイルドセンターの立ち上げに携わり、プログラム・マネージャーを務めた。渡米後はモンテッソーリの教員として、ハワイとシアトルで約14年間勤務。2017年夏にベルビュー市でピカケスクールを創立。
Pikake School
www.pikakeschool.com