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第3回「私たちはみな、地球人」モンテッソーリの掲げる平和教育

モンテッソーリ教育

最近アメリカでアジア系・太平洋諸島出身者が被害者となるヘイトクライムと呼ばれる悲しい事件が多々起こっています。ヘイトクライムという言葉が生まれてしまったこと自体とても悲しく胸が痛みます。こうした事件に巻き込まれて亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族に心からお悔やみ申し上げます。また、けがをされた方の一日も早いご回復をお祈りします。

今回は、モンテッソーリの掲げる平和教育と、モンテッソーリ園ではどのように子ども達に平和教育を実践しているのかをご紹介したいと思います。

「地球人」という概念を伝える

マリア・モンテッソーリは、人生の後半を平和教育のために平和について講演しながら世界をまわりました。そして子ども達を「平和の種:seeds of peace」と呼び、幼い頃からの平和についての教育が大切であることを訴えました。

モンテッソーリ園では、子ども達のお誕生日の日には地球儀を使った、お誕生日のセレモニーを行います。太陽に見立てたキャンドルを真ん中に置き、地球儀を持った子どもが太陽の周りを歩いて回り、1周すると1歳としてその頃の子どものエピソードを紹介するのです。セレモニーの始まりはいつも先生が「広大な宇宙の中の、銀河系の中の、太陽系の中の、地球という惑星に」というように語り、私たちが地球に生まれ、住んでいることを伝えます。

モンテッソーリのクラスルームにはさまざまなラーニングのエリアがありますが、地理のエリアにはモンテッソーリ地球儀があります。地理のレッスンの一番初めに紹介されるものなのですが、この地球儀は茶色の陸地と青い海の2色でできています。そして子ども達には「この水色でスベスベしているところは海です。茶色のザラザラとしているところは陸です」と紹介します。そして私たち人間は皆、陸の上に住んでいることを伝えるのですが、この地球儀には国境がありません。国境は人が後から作ったものであり、もともと本来は皆同じ「地球人」であるという概念を伝えるためです。

モンテッソーリ自身は各地を転々としながら人生を生きましたが、「今の国籍はどこですか」と尋ねられて、「私の国は太陽の周りを回っている惑星、地球と呼ばれているところです」と答えたというエピソードがあります。モンテッソーリは、真の平和は教育によってのみ達成できると主張し、その考え方がモンテッソーリ教育やカリキュラムに反映されています。

「地球に住んでいる人間は、みんな同じ臓器と心を持っている」

人間の身体についてのユニットをクラスで学んでいた時のことです。人間の体の構造や名前、そして「どうやってうんちはできるのか」「心臓はどのように働いているのか」などについて話しあっていたところ、ある子どもが「先生、私の体の中も、〇〇ちゃんの体の中も、同じの(臓器のこと)が入ってるんだね」と言ったので、ハッとしました。

本当に彼の言う通りです。小さな赤ちゃんの身体の中にも、自分の身体の中にも、目の前にいる子どもの体の中にも、同じあたたかな血が流れ、臓器ががんばって動いている、生きているのです。その後、クラスでは、地球に住んでいる人間は、見た目はそれぞれ異なっていても、中身はみんな人間の臓器を持っていて、心を持っているという話になりました。私もその当たり前である事実に改めて胸を打たれ、人間はもともと皆同じなんだと感動したことを覚えています。

「平和は個々の心の中から生まれ、教育によって広げることができる」

人間の赤ちゃんの研究から、生まれたばかりの赤ちゃんがお母さんの声と他の人の声の違いを認識し、違いを理解する力があることが明らかになっています。でも、それは大人が違いを認識する視点とは大きく異なります。幼い子どもの心の中で人の肌の色の違いを認識しても、心にあまり影響しません。子ども達は目の前にいる人や環境を受け入れ愛し、体の中に潜んでいる生命エネルギーを大いに発揮しながら大きくなります。自分を愛し育ててくれる人、一緒に遊ぶ友達、大切に指導してくれる先生など、子どもの目線からは、その人の肌や目の色の違い見た目の違いは関係ありません。

もともと皆、最初はそうして無垢な状態で人生をスタートするのです。でも、周囲の大人の色眼鏡(自己中心的に見た目の違いを気にするといった目線)で見た世界を紹介されると、子どももその色眼鏡で世界を見るようになります。私たち大人はそのことを肝に命じ、地球人としての視点をもとに子ども達に平和的な影響を与えることを考えて行動していく必要があると思います。

モンテッソーリの日常生活の練習のカリキュラムの中で、

「自分のケアをするCare of Selves」
「環境を大切にするCare of Environment」
「コミュニティの意識 Sense of Community」
「マナーと礼儀 Grace and Courtesy」

といった柱があります。

ここでは、自分も大切、他人も大切、コミュニティみんな大切という精神があります。モンテッソーリは、平和は個々の心の中から生まれ、教育によって広げることができると訴えましたが、人を思いやることのできる自己肯定感を子ども達の心の中に育て、人を思いやる社会に対しての肯定感を育てていくことで、真の平和への心の礎を子ども時代に築いていけたらと願っています。

掲載:2021年3月

文・写真:斉藤カルコーヴァン智美
慶應義塾大学文学部、シャミナード大学院幼児教育学科卒。ワシントン州ベルビュー市にある日本語と英語のバイリンガル幼稚園、ピカケスクール園長。日本では株式会社オリエンタルランドが経営するチャイルドセンターの立ち上げに携わり、プログラム・マネージャーを務めた。渡米後はモンテッソーリの教員として、ハワイとシアトルで約14年間勤務。2017年夏にベルビュー市でピカケスクールを創立。

Pikake School
www.pikakeschool.com



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